【増殖バグで∞強化】死にゲー世界のNPC鑑定士に転生したので、前世の知識を駆使して破滅イベントを破壊します!
あかね
第1話 知らない部屋とよく知っている美少女
「……ん、どこだ、ここ」
目を覚ますと、知らない場所にいた。
真っ白な壁紙と円形のLEDがあるだけのつまらない天井ではなく、木製でどこか味のある天井だ。
「ったまいてぇ……」
とりあえず起き上がろうと思ったが、強烈な頭痛のせいで動きが止まる。
ああそうだ。昨晩はヤケ酒してそのまま寝落ちたんだっけ。
大学を卒業してブラック企業に就職してからはや5年。
激務に次ぐ激務。日付が変わることも珍しくないくらい残業が多いくせにまともな休日も存在しないので、借りた部屋はほぼ寝るだけの空間でしかない。
その上クソ上司からのパワハラもあるのだから、こうしてたまにはガス抜きをしないとやってられねえ。
だが、どういうわけか、俺が今寝ているベッドは俺のものではないようだ。
周囲を見ると買った覚えのない家具が並んでおり、そもそも部屋の構造も違うようだ。
いくら部屋にいる時間が少ないとはいえ、流石にここまでの差があれば、ここが自分の部屋ではないことくらいは分かる。
そこら中に物が散らばっている上に、おそらく洗っていないであろう食器が積みあがっているのを見ると、ここが誰かの生活空間であることはほぼ間違いない。
当然ホテルや旅館でもなさそうなので、俺は酔っ払って誰かの部屋に潜り込んでしまったのかもしれない。
「――あいつの部屋、でもないよなぁ」
俺は昨日後輩と潰れるギリギリ手前まで飲み歩いたが、一応ちゃんと解散して帰宅したところまでは覚えている。
そこからさらに眠れないからとコンビニで買い込んだ酒を飲んだこともだ。
後輩の部屋は俺の部屋からはそこそこ距離がある上に、何度か寝泊まりさせてもらったこともあるから記憶が確かならここはあいつの部屋ではない。
倦怠感に襲われながらもなんとか起き上がり、部屋の全体像を把握する。
1LDKのシンプルな部屋だが、俺の部屋よりちょっと広い気がする。
とりあえず今のところは他の人はいないようだ。
こうなったらこの部屋の主が戻ってくるまで待つしかないので、とりあえずトイレにでも行こうとしたのだが、ふと近くにあった鏡を見るとそこには見知らぬ男がいた。
「――は? え?」
そこにいたのは癖のある亜麻色の髪と青色の目を持つ外国人だった。
慌てて後ろを振り返るが、当然そこには誰もいない。
ということは今この鏡に映っている姿は俺のものということになるが、
「んな馬鹿な……」
髪の毛を一本抜いてみる。
一瞬鋭い痛みが走ったが、確かめるならこれが一番手っ取り早い。
だが抜けた髪は、何故か目の前の男のものと同じ色をしていた。
「えぇ……俺、どうしちゃったんだ……?」
自慢ではないが、俺は生まれてこの方髪を染めたことなど一度もない。
だから髪色は間違いなく黒のはずだ。
カラコンなんて物を付けた記憶もないので目の色も黒じゃないとおかしい。
というか、よく聞くと声もなんか俺のものと違う気がする。
顔もくたびれたアラサーのおっさんではなく、若干地味ながらもどちらかと言えば美男子と呼べるレベルのものになっている。
「……疲れてるのか。もう一度寝よう」
最悪な生活を送りながらも一応は健康に気を使っていたつもりなのだが、いつの間にか幻覚を見るほどに病んでしまっていたらしい。
そうなるとあの顔は俺の理想とする自分の顔を表しているのかもしれないが、どうせならもっと分かりやすい美青年のほうが良かったな。
これまでの人生経験上、イケメンはそれだけで得をすることが多いからな。
ただ、少なくともあの鏡に映った顔は俺のイマイチな顔面に比べたら遥かにマシだ。
ま、どうせ夢だし今回はあれで妥協してやるとしよう。
一応今日は休日だが、どうせ昼頃には何らかの理由で電話で呼び出されるのが目に見えているから、少しでも寝て体力を回復しよう。
そう思ってベッドに潜り込んだのだが……
「――んあ?」
誰かが玄関のドアをノックしている。
なんだ? 宅配なんて頼んだ覚えはねえぞ。
ってか、インターホン鳴らせよな。
「――さーん! いますかー?」
ノックとともに女の声が聞こえてきた。
誰だ? 俺の家に女が訪ねてくることなんかほぼあり得ないんだが。
もしかして大家の娘か……? 会ったことないし、そもそもいるのかすら分からないが……
……って、忘れてた。今俺は夢の中の世界にいるんだった。
惑わされるな。寝ればすべてが元通りになる。変な幻覚幻聴からも解放される。
俺は現実に帰れるんだ。
「…………」
本当に帰りたいのか? あんな地獄みたいな現実に。
もしここが夢の中の世界なら、一生ここに閉じこもっているほうが幸せなんじゃないのか?
そうすればあんなやりたくもねえ仕事に追われることもなくなるし、ウザい上司に詰められることもない。
夢の中の俺は何をやっているのかは知らないけれど、少なくともあんなゴミみたいな環境よりはマシなはずだ。
「……ダメだダメだ。どんどん思考が悪いほうに向かってる」
危なかった。危うく幻の世界に閉じ込められるところだった。
どんなにカスみたいな生活でも、楽しいことが全くないわけじゃない。
それに唯一の生き甲斐ともいえる
さあ、邪念を捨ててこの夢を終わらせよう。
そう思っていたのだが、
「うーん……いないのかなぁ……困ったなぁ……でも確認して来いって言われちゃったし……」
何故かリアルな女の困惑する声が聞こえるが、無視だ無視。
やがてドアをノックする音は聞こえなくなった。これで一安心だ。
だが、次に聞こえてきたのはガチャリと何かが開く音だった。
「ごめんなさい。貰った
……は? 合鍵?
「ん、しょっと。お邪魔しまーす……って、うわぁ、荒れてますね……」
え、ちょ、まさか入ってきたのか?
なんだよ合鍵って! 俺そんなものを誰かに渡した記憶なんてねえぞ!?
ヤバい。足音が近づいてくる。逃げたほうがいいのか!?
「ユーリさーん、起きてますかー?」
「――ッ!!」
「あ、起きてるじゃないですか! もう、心配しちゃいましたよっ!」
得体のしれない恐怖に襲われていたが、次の瞬間俺の視界に入ってきたのは、長いダークブラウンの髪と翡翠色の瞳を持つ絶世の美少女だった。
黒のミニスカートと白を基調としたシャツ。俺はそれを
何故ならこちらに近寄ってくる彼女の姿は、俺が良く知る
それはとある期間限定イベントで登場し、主要キャラじゃないのにも関わらずあらゆるヒロインたちを押しのけて人気投票で1位を獲得したNPC。
俺が愛してやまないゲーム「エンド・オブ・リユニオン」に登場するキャラクターの一人。
その中でも特に好きだった彼女の名前を、俺は無意識に呼んでしまった。
「ルーチェ……?」
「はい? どうしましたか? ユーリさん」
不思議そうにこちらを見る彼女は、俺が呼んだ名前を否定しなかった。
どうやら俺は、俺のよく知るゲームの世界に入り込んでしまったようだった。
ってことは、ここはもしかして――
俺は
そしてそれを理解したことで、俺の背中に強烈な悪寒が走った。
何故なら俺の記憶が間違っていなければ――
俺たちは近いうちに、ゲームから『排除』されてしまうのだから。
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