第9話

 竹本は帰宅後に、日中の月岡との小さな冒険を思い出していた。

 思えば、冒険中はあまり冒険を意識していなかったから不思議だ。

 基本的に生活の中で街中といえば駅側、そして駅の奥のより高層ビルなどが並ぶ地域のことを指して、南の海がある方向に進むことはあまりなかったから、距離以上の冒険感のある一日だった。

 ぼんやりとスマホを開いて、真っ先に思い出したのはSNSの周回ではなく、ビートルズとジョン・レノンだった。

 無料で使うSpotifyでビートルズを検索した。

 あったレットイットビーだ。

 聞いたことある曲だった。テレビとかで感動的なシーンで流れるから良く知ってる曲だった。

 言葉を囁いた、レットイットビーと。

 歌詞を単語帳に書かれていた単語次元で翻訳しながら歌詞を追った。

 よく聞くと意外と知らない曲のようにも感じた。

 前に富岡がおすすめした曲に、ビートルズを借りた、セックスピストルズを借りた、けど全然わからない。みたいな歌詞があったことを思い出した。

 一見していい曲じゃないかと思った。

 レットイットビーを流しながら、スマホの中の昼間の写真を見る。

 美しい海に、トンネルの先にある舟屋。

 沸々と創作意欲が湧いてきた。どうにか、形に残せないか考え、少しまとまった時点で手を動かしていた。

 

ーー崩壊した世界の中には音が少ない。

 波打ち際にはゴミが漂着していた。

 そんなゴミを漁る少年がいた。彼の髪の毛は白く美しかった。

 昔に拾ったウォークマンにソーラーパネルと合体させたスーツケースが相棒だった。

 ウォークマンは止まることなくビートルズを回し続ける。

 波の音とレットイットビーは共鳴し合うようだった。

 少年はそんな世界で、食べれるもの使えるもの探して、今日を生きていた。

 目標はただ一つ、自分のようにこの世界でも生き残っている人と出会うことだった。

 少年は海を離れて、遠くからも分かる廃墟群へと向かった。

 廃墟群は鉄筋コンクリートの鉄筋をむき出しに折れたりしたビルの死骸のことだった。

 都市がいくら死骸だろうときっと人はいるだろうと思ったのだ。

 ビルに近づく途中には大量の墓標が並んだ地域があった。

 ウォークマンからインマイライフが流れた。ーー

 

 こっから先はしっかりプロットを練る必要があると思った。

 竹本のぼんやりとした蜃気楼のようなイメージの中では、変な人、個人的な哲学を貫く人などと出逢いながら物々交換をしながら、気の赴くままにひたすら旅をするプロットが浮かんでいた。

 竹本は散発的に愚痴を込めるように執筆を進めた。

 

 

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