日常と彼女2

僕は自分の部屋にいた。

ベッドに仰向けに寝て天井を見つめる。

僕がミラさんに飽きるなんてあるものか。僕がミラさん以上に大切な人が、いるとは思えない。

でも…実際にはどれだけ親しい友人でも疎遠になることはある。

ニュースを見れば芸能人の離婚の報道なんてしょっちゅうだ。

僕がミラさんが大切なことがわかってもらえるには…?

天井のシミを眺めながら僕は思考する。

ミラさんはどういうわけか外の世界に出られない

僕が通過できるガラス、鏡、水面、どれを試しても無理。ガラスにぶつかれば頭をぶつけ、鏡にぶつかれば鏡が割れる。水面に入ればただただ濡れるだけ。

水にぬれた彼女は美しかった。まさに水も滴る…

「…そうか。外の世界に原因があるのかも」

天啓だった。


外の世界に原因があるなんて、思いついたはいいものの、さっぱりわからない。

とはいえ、鏡の世界でやれることはあらかた試したというのもある。

もしかしたら、ネット、創作にヒントがあるのかも。

僕は口外していないけど、僕と同じように鏡の世界に行くことができる人間がいて、その人がたまたま創作の才能があって、それでいていろんな人の目に触れて名作と呼ばれるような作品を作っていたら?

僕と同じような環境にいたら?

僕の問題を解決できることができていたら?

「待っててよね。ミラさん」

僕はスカートの裾をギュッと握って立ち上がった。

「とりあえず、小説か、ネットの体験談か、映画かな?」

僕はとりあえず、手近にあった本棚から本を1冊抜き取った。



僕は鏡の世界に入る

部屋にある姿見からのれんをくぐるように。

もう何度も繰り返した動作。

頭の上に広がるは青い空。雲一つない空

「ミラさんに会いたいな…」

家から出る。ゆっくりと歩く。

「ミラさんに会ったらまず何をしよう?とびきりの笑顔を向けてくれるだろうから、僕も負けじと笑顔で、テンションが高かったらハグしてくれるかな。それとも、僕からハグしてもいいかな。受け入れてくれるかな。そしたらスーパーから食材を失敬して、オムライスを作る。トロトロのやつ。いっぱい練習したやつ。ミラさんは食べてくれるかな。気に入ってくれるかな。美味しいって言ってくれるかな。そしたら僕は幸せ。お腹いっぱいになったら、日向ぼっこ。僕の膝枕に頭を乗せてくれるかな。そしたら子守歌を歌ってあげるの。ねんねんころりよ~って。ミラさんの寝顔を見たいな。そしたら幸せだろうな。ああ、ミラさん。早く会いたいな。あなたの少し幼い。でも少しだけ背伸びした顔がみたいな。ね、ミラさん。ミラさん…ミラさん」

僕は足を止めて青空を見上げる。

「どうして外の世界で会えないの?」

今日の青空は薄い雲がある気がする。

「あなたに会いたい」

言葉にすると一気に感情があふれてくる。

「僕はずっとあなたと一緒にいたいのに」

あなたに会いたい。あなたの体温を感じたい。あなたの細い指。あなたの手。あなたの足。あなたのお腹。あなたの胸。あなたの腕。あなたの…声

「外の世界のしがらみが、僕を縛り付けるの?」

なら、全部無くなってしまえばいいんじゃない?

認める。僕が探した方法のいづれもミラさんの症状に関係しそうなものは無かった。

ドッペルゲンガーだって、鏡の世界の管理人だって、くだらないおまじないや、儀式。それらをすべて実践してもミラさんは鏡の中から出られない。

ならどうしよう。

僕たちの間の距離は、思ったより遠い。

見慣れた景色なのに、左右が逆なだけでミラさんはいない。

あんな世界は間違ってる。

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