2.【ざまぁ】勇者たちは帰り道でゴブリンにハメられる

勇者ザイーの冒険譚は、永遠に語り継がれる。


今回の冒険は完璧だ。


城からの帰り道、そんなことを思った。


俺たち勇者パーティーは、魔界の森を歩く。


「あいつの死に様、見たかよ。思い出しても笑えてくるぜ。くはははははっ!」


奴の首を斬った感触は、最高だった。


「僕の弓矢で貫かれてるときの、必至に耐えてる表情も良かったよ」


そう言って、弓術士のルゥクも笑った。


「あいつの内臓がつぶれたときの感触は、言葉にしがたい。もっと殴っとけばよかった」


拳闘士のローグが、名残惜しそうに話した。


「そもそも傀儡師が、魔法を使ってること自体おかしいのです。死んで当然です」


魔術師のネロが、冷たく言い放つ。


「てかさ、あいつ最後の最後まで根暗すぎて笑えたんだけど。死んでくれて超スッキリ」


と、回復術師のソアナは気分よさげだ。


俺たちは、史上最強のS級勇者パーティー。


なにせ魔王も討ち取ったのだ。


自分で言っていたのだから、間違いない。


帝国中が、勇者パーティーを称えるだろう。


あとは来た道を通り、街に帰るだけ。


そのはずだった。


「おい、いつまで歩けばいい」


弓術士のルゥクにきいた。


「地図に慣れてないから、よく分かんないよ」


ルゥクは、地図を見ながら答えた。


案内役は、元々クロワの雑用仕事。


奴の案内で、道に迷ったことは一度も無い。



「クロワ、地図は?」


「頭に入れてきた」


奴は決まって、いつもそう答えた。


基本的に、地図を開くことすらない。


それでいて、最も安全な道を選んでいた。



城を出て、もう3時間は歩いている。


「お腹空いたんだけど。もう歩けない……」


回復術師のソアナが座り込む。


「お前が料理しろ」


「はぁ!? 料理なんてしたことないし。ていうか食材もないし」


料理もクロワの仕事だった。



「人形と一緒に料理するのか?」


「その方が速い」


鎧2体とクロワ、実質3人で料理していた。


腹が減ったら、料理がすぐ出てきて当たり前。


しかも美味かった。


冒険中、食事に困ったことはなかった。



何も食べられず、また歩き始める。


魔族の首は、アイテム袋に入れている。


なのに軽くならない。


これが意外と負担なのだ。


「おい、アイテム袋を持ってくれ。交代だ」


誰も返事をしない。


「無視すんじゃねえ。おい、ローグ」


「俺の筋肉は、魔族の頭より重い」


拳闘士のくせして、軟弱者が。


荷物持ちがいないのは不便だ。


これまでは、当然クロワが担当していた。



「人形は、どれくらいまで荷物を持てる?」


「お前たちの荷物は全て持てる」


実際、鎧2体で全員分の荷物を持っていた。


俺たちメンバーは、武器だけを持てばいい。


いつも身軽で、ストレスがなかった。



ダンジョンを歩くのは、意外と疲れる。


体力を使いすぎた。


「ネロ、付与術で俺の肉体を強化しろ」


「私は補助系魔法なんてやりませんよ」


ネロは、俺を見ることもなく歩き続ける。


できないんだろ、この役立たずが。


やはり付与術師も必要だ。


最低でも、クロワと同レベルの奴が。



「糸で繋がっている間は、肉体強化の魔法を付与できる」


クロワの指から糸が伸びる。


俺たちの腰にピタッとくっつく。


体の奥から力が湧いてくる感覚だった。


「歩いてないみたいに楽だ」


冒険で疲れを感じることはなかった。



日没が近い。


「暗くなってきたぞ、もっと明るくしろ」


回復術師のソアナに言った。


ソアナは、光属性の魔法が使える。


杖から発する光が弱まっていた。


「魔力切れだから」


「光の魔鉱石は?」


「持ってるわけないでしょ」


勇者パーティーなのに、使えない奴ばかり。


最低でも、クロワくらいの仕事はこなせよ。



「お前の人形はなぜ光る?」


「光の魔鉱石を、鎧に埋め込んでいる。魔力で明るさも調節できる」


2体の人形で、前も後ろも明るかった。


夜でさえ、暗いと感じたことはない。


寝るときも、丁度いい明るさだった。



「ルゥク、トラップには気を付けろよ」


「勘弁してよ。地図を見るので精いっぱいで、そこまで気が回らない」


そんな会話をした直後のことだった。


「きゃああっ!」


メンバー全員が穴に落ちた。


「いってー。落とし穴かよ、クソッ……」


初歩的なトラップに引っかかるとは。


クロワは、トラップ発動を未然に防いでいた。



「この先はトラップだらけ。傀儡で解除する」


そう言って、クロワは鎧の傀儡を操る。


鎧経由で、解除魔法を発動していた。


鎧での作業は、人間と違ってリスクがない。


「もう落とし穴はないはずだ」


「落とし穴に落ちるバカは、冒険者失格だろ」



俺たちが落ちた穴は、かなり深い。


のぼるのも大変だ、めんどくせぇ。


「ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……」


「おい、足音が聞こえるぞ……」


何かが大勢近づいてくる。


「魔物の種類と数は! 早く探知しろ!」


「そんな雑用仕事、あいつの役割です」


魔術師なら探知くらいやれ、カス女。


クロワでさえ、探知は怠らなかった。



「魔物の探知まで、人形にやらせるのか?」


「傀儡を使えば、より広範囲に探知できる。とは言え、苦手分野だが」


クロワは、遠くの魔物まで探知できた。


実際、余計な魔物には会わなかった。


今思えば、かなりの魔力を使っていただろう。



「ゴブリンソルジャー……」


俺たちを見下ろして笑っている。


「雑魚が調子に乗るなよ。こっちは、S級の勇者パーティーだぞ!」


D級のゴブリンソルジャーごとき、楽勝だ。


俺の大技で、全部まとめてぶち殺す。


そう思ったときだった。


「なにぃっ!?」


次々と、穴の中に飛び込んでくる。


「ローグ、雑魚どもの攻撃を防げ!」


「俺は攻撃特化型、無理に決まってるだろ!」


こんな時に言い訳しやがって。


クロワでも、防御は完璧だったぞ。



「基本、守備は俺の鎧2体で引き受ける。お前たちは、攻撃に専念していい」


「本当に大丈夫なんだろうな……」


クロワの人形は、全ての攻撃を防いだ。


敵に合わせて動く盾と言ってもいい。


俺は、斬ることだけ考えればよかった。



「きゃぁぁああああああっ!」


「こっち見ないでくださいっ!


ソアナとネロが叫んだ。


ゴブリンソルジャーに、服を破かれていた。


「服ごときで、わめくんじゃねぇっ!」


「ザシュッ!」


激痛が走る。


「ぅぁああああああああッ!」


ゴブリンソルジャーに、背中を斬られた。


いってぇ……。いてぇえよ、クソがっ……。


「ザシュッ! ザシュッ!」


「ぐぁっ! あ゙あ゙ッ!」


腕や足も斬られた。


S級勇者の俺様が、ゴブリンごときに。


他のメンバーたちも、斬られて叫ぶ。


「クロワさえいれば……」


そうつぶやいた瞬間、自分に嫌気がさす。


あんなゴミカスに、頼るわけねぇだろ。


「クソ、クソ、クソォォォォォッ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る