第三章:満月の対決
美紀の日記から、人間に戻るには満月の光を特定の薬草で遮り、人間の意志で抗う必要があると判明した。 次の満月の夜。陸が薬草を調合し、セラーの通気口に設置した。彼の右手首の傷が、微かに熱を帯びていた。
満月が中天に昇ると、通気口から銀色の月光が差し込み、薬草の香りと混ざり合った光が、まるで聖別された灰のように揺らめき、悠人を照らした。光を浴びた悠人は激しく痙攣した。クマの本能が、最後の抵抗を見せる。彼は唸りながらも、人間としての意識の最後の力で、自分の顔を美紀たちに向けないようにした。「愛しているからこそ、近づくな」。
陸と美紀は必死に「ヤマタノオロチポーズ」をとり、彼に呼びかけた。「私たちを見て!人間だ!戦え!」 その言葉とポーズに、陸の右手首の傷が、美紀の腕の傷が、月光を反射して青白く光った。光が悠人の顔の傷に収束し、激しい痙攣の後、そこに立っていたのは顔に深い爪痕を残した人間の悠人だった。 三人は抱き合い、安堵の涙を流した。しかし、陸の右手首の傷だけは、まだ熱を帯びていた。
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