3
ヘリコプターの操縦をする自衛隊員に、十代後半の若者が何を言えば良いのか。
資料に目を通し、時間に鈍感になる。
ものの数分でとある小学校の運動場に着陸し、隊員が、
「着きました。ここからあちらの方面に、数百メートル行けば団地が見えてきますので」
と言いながら、腕ごと指し示した。
その学校の校舎とは反対の方向だった。
「わかりました」
悠汰はそう言って降り立ち、見やった。風景の中に目的地を探す。
一軒家が何件が連なっているが、その向こう側に高くそびえ立つ集団があるのをすぐに見つけた。
「……『
まるでそこにいるかのような呼び方をしながら、
召喚には名前が必要だった。その時々に呼ぶ
『なんだ?』
青い鱗を
「僕をあの団地の方へ運んで」
『ふん……落ちるでないぞ』
「わかってるよ」
自信たっぷりに言い放ち、斜陽とは逆向きに。まだ少し青い空に、紅い日を背に受けながら、無音で、静寂を作りながら飛んで行った。
空中から見下ろしてみた悠汰だが、障害物が無いに等しい視界の中に
「あそこだ!」
資料の中の記述や写真を頭の中で再度廻らせながら、小さく叫んだ。
龍を地面に
七階建てくらいの中流住宅。暫くそれを眺めた後で、大きく空気を吸い込んだ。そしてゆっくりと吐き出す。彼なりの深呼吸を終えると、悠汰は、その目の前の階段を、覚悟を踏み締めながら上がり始めた。
物思いに
閑寂だった。
まるでそこに在る物が音を出すことを拒んでいるかのように。
どこからか、たまにテレビや調理の音が悠汰の元に届く。それが少なくなった時、悠汰を不安にさせた。
辿り着いた。一つの部屋の前に。壊されたような形跡は何一つない。変哲のない扉がある。
もし、賢い魔物が疑われないようにしているのであれば、そんな形跡は残すさぬようにするだろう。が、資料ができているからには、何かに影響を
緊張が彼を一瞬意味なく迷わせた。だがやるしかない。その指で、呼び鈴を鳴らした。
数秒後。
「はい……?」
と、弱々しい声が。
女性だった。魔物の目撃者がいるこの部屋に、普通に暮らしているのか、それとも他の可能性か。
「えっと。対魔警軍の……新施設の者です」
すると、女性は
「……入れてもらえませんか?」
しかし、彼の言葉を待っていたように、扉を開放した。
別段変わるところもなく、何事もなく居間に到着し、黒髪の少年、悠汰は見渡した。
意外なものが見つかるはず……が、発見することもなく。見つけたのは、すやすやと寝入っている赤子くらい。
魔物が棲んでいるという情報では?――という疑問だけが頭を駆け巡る。
悠汰がそんな様子なのを確認すると、彼女はまた俯いた。
「助けて……ください……!」
震えたその声が、それだけが、少年の胸を貫いた。
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