第3話 訓練開始

「てことになりました」


 俺は王や兄たちとした話の内容をママに伝えた。


「ま、そんなことやろと思ったわ」


 ママは呆れ気味に言った。

 俺があの曲者王子たちに敵うわけがないもんな。


「息子よ、お前には、自分の運命を変えると言う意識が足らへん」

「え?そうなのか?」

「そや。だから、身体に意識を埋め込むんや」


 意識を埋め込む?


「どうすればいいんだ?」

「わてに続いて言うんや。ハメツ・カイヒ!ほれ続けて」

「お、おう。ハメツ・カイヒ」

「もっと大きく。ハメツ・カイヒ!」

「ハメツ・カイヒ」

「もっとや。ハメツ・カイヒ!」

「ハメツ・カイヒ!」

「その調子や。ハメツ・カイヒ!一緒に」

「「ハメツ・カイヒ!」」

「「ハメツ・カイヒ!」」


「あんた、ほんまに素直やな」

「どういうことだよ!」

「ちっちゃくなった息子で遊ぶのって楽しいやん」


 こいつが屑だと言うことを思い出した。


 人が真剣にやっていたのに。


「まあ、そんなことよりや。王位継承権についてはそんなに心配せんでもいい。あんたが一国の王に向いてないことは、見てれば嫌でも分かるわ。あんたみたいな小物が王になるには、他の候補者が不慮の事故で全員死ぬしかないわ」


 確かにな。

 俺は前世の記憶が戻る前も後も、国のトップって器ではない。精々、学級委員長レベル。

 だから原作では、ベラはデュストスに他の王子を殺すように命令するんだな。合点がいくよ。


「でも、全てがおじゃんになったわけじゃないだろ。辺境に住むっていう目標があるんだから、そのために準備をしておこう」


 気を取り直して俺はそう言った。


「そうや。諦めるのはまだ早い。こっちで出来ることをするんや。強くなりたいんやろ?わても一緒にやったるわ」

「え?ママも強くなりたいの?」


 ママは目を光らせた。


「実はな、体から力が溢れてくるような気がするねん。若い子程やなくても、結構いけるかもしれへんで」

「へ、へー。まあ、訓練は健康にも良さそうだからいいか」


 きっと、久しぶりに体を動かしたくなったんだろうな。前世50歳から一気に20歳くらい若返ったわけだし。

 俺とママは騎士団と魔術師団が集う訓練場に向かった。




 訓練場には何人もの騎士や魔術師たちが身体を動かしていた。

 国を守るために身体を張っている方たち、尊敬します。だから優しくしてね。


 俺はとりあえず騎士団長に話をすることにした。


「騎士団長、俺に稽古を付けてくれないか?」


 因みにこの騎士団長、原作にも登場する。


 けっこう良い奴で、主人公や王子たちに優しい言葉を掛けてくれるんだよ。


 しかし、騎士団長だけあって、かなり強いと思いきや、主人公や王子たちが成長してくるとあっさり抜かれる。

 なんなら、雑魚魔族に苦戦してる描写が有名で、王国騎士団全く約に立たねーなんて、ファンには言われているのだ。


「デュストス様、皆、己の鍛錬に集中しています。稽古であれば、いつも決まった時間に中庭でフラン様と行っておりますので、そこに参加されてはいかがでしょうか」


 うわ、目つきが軽蔑の眼差しだわ。お前の相手なんぞしていられるかってね。

 俺は知ってるぞ、兄たちもたまに訓練場に来て相手をしてもらっていることに。

 まあ、こんなに嫌われているのは俺自身のせいなんだけどね。


 俺がしょんぼりして騎士団長から離れようとするとヒソヒソと声が聞こえて来た。


“二無しが何のようだ?”

“ただの気まぐれだろ”


 そこの騎士の方、聞こえてるよ。

 俺は中身がおっさんだから怒らないけど、元のデュストスなら、お前の家に抗議して正式な謝罪の上、慰謝料か首だったぞ。


 ここで耳に入った“二無し”とは他の王子と俺を差別する言葉。

 

 俺の名はデュストス・フェルナンド、第四王子の兄はフラン・エリスタ・フェルナンド。

 そう、俺にはミドルネームが無い。この国の上位貴族はミドルネームを付ける習わしがあるが、ミドルネームには、嫁・あるいは婿の姓が使われる。

 しかし、ベラは平民出身で姓が無いため、俺はミドルネームを付ける事が出来なかったというわけだ。


 正直、名前とか別にどうでもいい。全然、気にならない。

 

 しかし、次に聞こえて来た言葉は聞き捨てならなかった。


“見た目だけで何の取り柄も無い母親の傀儡だ、あいつは”


 あ゙?お前何ていった?お前だけは俺がぶちのめす。


 俺は声が聞こえた方に歩み出た。

 しかし、すぐに肩に手が置かれた。ママの手だった。


「顔、怖なってるで」


 周りを見ると、こちらを見て怯えた表情をしたり、尻餅をついたりしている奴もいた。

 何が起こったのか俺には分からない。


 ママが訓練場の一か所を指刺した。


「隅で将棋を指してるおじさんとおばさんにも聞いてみよう」

「将棋じゃなくてチェスだろ」


 そもそも、訓練場の隅でチェスやるってどういうこと?

 年齢もいってそうだし、もしかして騎士や魔術師じゃなくて、掃除で雇っている人じゃね?

 格好も他の騎士達と違うし。

 何というか、ラフな冒険者みたいな感じ?


 そんなことを思っているうちにママはとことこ歩き出した。

 騎士たちが見てくるが、そんなの気にしない。

 この辺はさすがママ。


「ルミエル、ワンダ、わてと息子に剣と魔法を教えてくれへん?」


 顔を傾けてお願いするママは正直滅茶苦茶可愛いと思った。

 エセ関西弁が可愛さを惹き立てている。

 自分の親が可愛いとか変態じゃなくて、あくまで客観的にだから。

 だから美人ってずるいんだよ。


 ルミエルと呼ばれたおじさんは眉を上げて、ママと俺を見た。

 渋く蓄えた髭が印象的なダンディーなおじさんだ。

 

 それからルミエルは、メガネ美人のワンダおばさんに視線を移した。

 ワンダは髪をくるっと束ねてお団子にしている、できる女って感じ。


 きっと、お掃除上手なんだろうな。


「たまにはいいか」


 ルミエルは手にあったチェスの駒を置いた。


「先にあなたが坊ちゃまの剣筋を見てみたらどう?」


 ワンダが言うと、ルミエルは適当な木剣を二本とり、一本を俺に投げた。


「坊ちゃま、思いっきり来てください」


 そう言ってルミエルが軽く構えたとき、俺はとてつもないプレッシャーを感じた。

 何、こいつ本当にお掃除おじさんかよ?


「どうしたんですか?来ないなら終わりにしますよ」

「いや、頼む。俺の剣を受けてくれ」


 俺はプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、剣を構え、身体強化の出力を上げた。


 ルミエルがお掃除おじさんだろうと関係ない。

 強そうな雰囲気を出して来たし、本人が思いっきりって言ってるからいいだろ。


 俺は自分の運命に打ち勝つために足掻くって決めたんだ。その一歩がこれだ。


 俺は体感一瞬でルミエルの前に飛び出た。

 木剣を胸に向かって振り下ろす。

 ルミエルが受け止めた。次の瞬間、ルミエルの目が変わった。


 殺される。


 本能で悟った俺は、後ろに飛び退いた。


 何なんだよ、この圧力。騎士団は掃除係まで強いのかよ。


「ほう、危機察知能力は中々のものですな。しかし、前に出なくては勝てませんよ」

「わ、分かってる」


 俺は身体強化を足に集中させ、動きを加速させた。

 腕のパワーは無くなるが、脚のスピードだけなら、大人の騎士にも負けないはずだ。

 剣を振るう瞬間、腕に身体強化の集中を持っていく。


 この辺りはここ数日こっそり自主練してたんだよ!


 ルミエルは僅かに表情を変えて、剣を受け止めた。この掃除係、何を思ってるんだ?


 ① ほう、中々やるな

 ② よわ、くそ雑魚じゃん

 ③ 馬鹿王子の相手だりー


 おそらく②と③だろうな。

 でも、俺の相手をしてくれる人は他にいない。俺より強いのは確実だし、絶対一本取ってやる。


 それから俺は何十回と剣を打ち続けた。

 そして、俺は倒れた。


「坊ちゃまには致命的な弱点がございます」


ルミエルは息一つ乱せず言った。


「はぁ、はぁ、何だ?」


 俺は体が動けず、目線のみをルミエルに合わせた。


「ずばり体力です。私が一太刀も入れていないのに倒れるとは。はっきり言って情けないです。というかお子ちゃま、ばぶばぶよちよち、最初は遊んで体力つけましょうね、レベルです」

「う、うぅぅぅ」


 返す言葉が無い。

 俺は今まで優秀な兄たちに比べて、自分に才能がないからと努力を怠ってきた。

 そりゃあ、体力はないよ。

 でも、掃除係にしては言いすぎじゃね?言ってる例えもキャラと合ってないぞ。


「これからは、毎日城壁の周りを10周してください。それが終わってから稽古です」

「稽古?本当か?」

「ええ、本当です。但し、地獄ですよ」

「ああ、地獄でもいい。宜しく頼む」


 良くわからんが、ルミエルは俺を認めてくれたようだ。素直に嬉しい。

 我武者羅にやってみるものだな。

 いろいろ教えてもらおう。掃除係だけど。


*****


 俺とルミエルは休憩がてら、ママとワンダの魔法訓練を見ることになった。


 ワンダによる魔法訓練。

 というか、ルミエルは剣を使えて、ワンダは魔法が得意ってこと?掃除係凄くね。

 これで団長や副団長レベルならどうなるってんだ?


「奥様、杖はお使いになりますか?」


 魔法と言えば杖、杖は魔法の発動を補助し、魔力を効率良く出せるようにしてくれる。


「杖はとりあえずはいらんわ。昔、手でやったことがあんねん」

「奥様は魔法を使ったことがあるんですか?」

「うん、小さいころな。でも、皆に気味悪がられて、すぐに止めてしまったけどな」


 ママのベラとしての記憶だな。

 しかし、平民出身のママが魔法を使えるって意外。設定資料には書いてなかった気がするな。


「では、あちらの的に魔法を打ってみてください」


 ママは両手を前に出し、集中力を高めた。

 すると、次第に黒い魔力が集まり始めた。やがて魔力はソフトボール程の球体状になり、ママの手から放たれた。

 魔法は、的に吸い寄せられるように飛んでいき、真ん中に命中した。唖然となる俺たち。


 まさかママの属性って、


「なあ、気持ち悪いやろ?」


 ママは言った通りやろって感じでワンダを見た。確かにこの属性なら周囲に気味悪がられるだろう。

 しかし、ワンダの反応は違った。


「奥様、闇属性ですか???、、、、、、、ビューティフォー、ワンダフォー、エクセレント!!もっと、もっと見せてください。闇魔法★★★」

「見せろ言うても、さっきのしか出来へんわ。何せ、前に魔法を使ったのは息子と同じくらいのときや」

「じゃあ、久しぶりに魔法を使って、この精度?もう天才!これからは毎日私と魔法の特訓よ」


 さっきからワンダのテンションが凄い。チェスのときとは別人みたい。


「ワンダは魔法バカです。魔法が三度の飯より大好きで、珍しい魔法を見ると、探求したくなってしまうんです。若い頃から」


 ルミエルが耳打ちで教えてくれた。

 なるほど、ワンダは魔法が大好き。というかルミエルとワンダは若いころから知り合いなのかね。

 同じ掃除会社に勤めてたってことか。


 それからしばらくママの魔法の特訓が続くと、ママは新しい魔法を使えるようになった。

 ワンダは闇属性については詳しくは知らなかったが、基本属性である火・水・土・風で共通しているものを闇属性に当てはめて教えたところ、ママはすぐに魔法を使えるようになった。


 天才か!?


 新しい魔法を使えるようになると、ママ以上にワンダが大喜び。


「ワンダ、俺にも魔法を教えて欲しいんだけど、、、」


 聞いてない。。。


 結局、この日、ワンダはママの闇魔法に夢中になったため、俺の魔法特訓は次に持ち越しになった。


 ママの闇魔法の才能には驚いた。

 しかし、次の日の訓練で、ママはさらにルミエルたちを驚かせることになるのである。






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