徹男の部屋~仏さまトーク番組~
てこてこ
本日のゲストは千手観音菩薩さま
♪~~ラーララ、ラララ、ラーララ、ランランランルルルー~~♪
みなさん、こんにちは。
『徹男の部屋』の司会を務めます、
本日のゲストは「千手観音」さんにお越しいただきました。
「みなさん、こんにちは。
みなさん、ご覧ください。
千手観音さんといえば、このおよそ1000本の腕。美しく、圧巻の御姿です。
「ふふふ。ありがとうございます。千手観音の名前に恥じぬよう、およそ1000本の腕を日々磨いております」
いやあ、多すぎて数えきれないですね。実際は何本あるんでしょうか?
「……あー、えーっと、正確な数はわかりません。896本までは真面目に数えましたが、段々面倒くさくなりまして。およそ1000本と、私の上司に報告しました」
上司、ですか?
「はい。私の上司にあたる仏は
おお、阿弥陀様なら知ってますよ。"如来"って、仏さま界隈でも、すべての悟りを極めた一番偉いお方ですよね。
「はい、その通りです。ですが正直、"すべての悟りを極める"ことがどういうことなのか、私にはよくわかりませんね」
菩薩様とは思えない爆弾発言はやめてください(苦笑)! あ、もしかして、その修行は阿弥陀様から与えられたのでしょうか?
「そうです。彼は数字の悟りを開くためと言ってました」
それで、悟りは開けたのでしょうか?
「"私の腕の本数を知って何になるんだか……"と、鬱屈になりました。いっそ、それが数字の悟りでしょう」
そうですか……ははっ(苦笑)。そうだ、話を変えましょう。今、悟りを開くために修行中とのことですが、どのような修行をしているのでしょうか?
「今はゲームの悟りを開くため、ゲームセンターに通っております」
えっ、ゲームの悟りですか?(苦笑)
「はい。つらいばかりの修行ですと、いずれ脱落しますからね。こういった色気のある修行も必要なんです。あ、ちなみに昨日は『ワニワニパニック』で遊んで……いえ、修行をしました」
おお! ワニワニパニック! 懐かしいですねぇ。僕も小さい頃よく遊んでいましたよ。結構難しいですよね。
「そうですね。特に『もうおこったぞ~』と言ってからは楽しい……失礼。修行になります」
そうそう。"もうおこったぞ~"からスピードアップして、難易度が上がるんですよね~。ちなみにスコアはどれくらいですか?
「今は余裕で111点です」
かなりの高得点じゃないですか! すごいですよ!
「ふふふ、すべては修行の賜物です。ですが、最初は苦労しましたよ」
その苦労話をお聞かせください。
「私はおよそ1000本の腕を持っていますが、専用のハンマーは1本だけです。なので、どの腕に持たせようか一人でパニックになってしまいました。腕でハンマーを輪のように回して終わることが多かった。輪に輪にパニックでしたね」
ほっほっほっほ(大笑)! 輪に輪にパニック! それで、その状態からどうやって111点を取ったのでしょうか?
「簡単です。ハンマーを捨て、1000本の素手でワニをしばけば良いのです」
なるほど。
「しかも、これは痛みに耐える修行にもなり、一石二鳥。素手は結構痛いので」
おお! 悟りを開くためならどんな苦行も耐える。さすが千手観音さん。
「ふふふ。ですが、こんな私でもどうにもならないことがあります」
どうにもならないことですか? それは一体……
「『専用のハンマーで叩いてください!』と店員さんに注意され、結局ゲームセンターは出入り禁止になってしまいました。およそ1000本の腕を持ち、多くの悟りを開いてきた私ですら、出入り禁止を解除することはできませんでした」
ワニワニパニックのルールを破った千手観音さんが悪いですからね。
「私はただ、ゲームの悟りを開きたかっただけなのに……ぐすっ」
あぁ、泣かないでください。ハンカチをどうぞ。
「ありがとうございます。ゲームセンターで遊べな……いえ、修行できない悲しみに暮れている中、私はゲームの悟りを開きました」
おお! そこで悟りを開くとはさすがです! ……それで、その悟りは何でしょうか?
「ルールを破るゲームは、虚しいだけ」
深いですね……ゲームセンターを出禁になった千手観音さんだからこその説得力ですね。
「決められたルールの中で攻略するからこそ、ゲームは面白いのです。およそ1000本の腕でワニワニパニックを叩いていたとき、楽しくありませんでしたね」
そうでしょう、そうでしょう。1本のハンマーで高得点を目指すからこそ、燃えるんですよね。
あーっと、そろそろお時間ですね。今日のゲストは千手観音さんでした。ありがとうございました。
「こちらこそありがとうございました。このあとは近くのゲームセンターの『パンチングマシン』で遊んで……いえ、修行してきます」
今度はパンチングマシンですか。
「はい。昨日の鬱憤を晴らすためにおよそ1000本のパンチを打ち込んでやります」
ふふふ。たまには暗く静かな洞窟で瞑想をしてみたらいかがでしょうか。明るくてうるさいゲームセンターで遊んでばかりでは、すべての悟りを開くことはできないのでは?
「すべての悟りを開いて、何になるというのでしょうか」
おや。今のは……菩薩とは思えない爆弾発言ですね。
「いいのです。すべての悟りを開いたところで、ゲームセンター出禁が解除されることはないのですから」
……悟りと真正面から向き合おうともせず、逃げてばかりいるからこそ、貴方はいつまでも菩薩のままなのですよ、千手観音くん。
「白柳さん?」
私は白柳徹男ではありません。そろそろこの体を白柳さんにお返ししましょう。
「あ! 白柳さんの体から魂が抜けて……って違う! あれは魂ではなく……仏だ!」
久しぶりですね。
「あ、阿弥陀様! どうしてここに!?」
(スタジオ騒然)
最近、千手観音くんが修行を怠っているという噂を聞きましてね。白柳さんの体をお借りしました……と、スタジオが混乱するのは仕方ないとして、どうして千手観音くんまで混乱しているのでしょう?
「あ、阿弥陀様がこんな所に現れるなんて……私を含め誰も思いませんよっ!」
おやおや。腐っても菩薩の貴方が私の存在に気づかなかったとは……修行を怠っているという噂は本当のようですね。修行は一からやり直しです。さあ、私とともに浄土へ行きましょう。
「嫌ですっ! 浄土は何もなくて退屈……ぐぁっ! 体が動かない……ぐぎぎ……」
ほっほっほ。すべての悟りを開いたこの私から逃れることはできませんよ。浄土が退屈と感じるのは、千手観音くんが未熟だからですよ。先日も10体の仏が悟りの修行から脱落しました。まったく、これだから最近の仏は――
「だから私はゲームの悟りを開き、つらいばかりの修行から逃げる仏たちを何とかしたいんですよ! 今の人間界隈も仏界隈も、昔とは違います!」
……(阿弥陀、沈黙)
「修行にも時代に合わせた変化が必要なんです。その変化の一つとして、楽しみながらだってやれる修行があるんだってことを……私は証明したいのですっ!」
……はぁぁぁぁぁ。(深いため息)
わかりました。いずれにせよ、いったん浄土へ帰りましょうか。話はそれからです。
「嫌ですっ! 極楽浄土にゲームセンターができるまでは帰りたくありませんっ!」
やれやれ。駄々っ子になってしまいました。
……おっと。
皆様、お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした。
では、極楽浄土でまたお会いしましょう。
さようなら。
♪~~ラーララ、ラララ、ラーララ、ランランランルルルー~~♪
来週のゲストは阿修羅さんです。お楽しみに!
終
徹男の部屋~仏さまトーク番組~ てこてこ @tekoteko2
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