下書き①
弊ホテル爆散しろ。
その一心で始めた情報収集は、思わぬ方向へと向かうこととなった。
わたしがバイト先に選んだホテルは、びっくりするくらいブラックな職場だった。
募集内容は朝八時から十三時までの清掃員。小説家を目指し、日々原稿を書こうとしているわたしにとっては、ベストな時間帯だった。去年まで、この時間帯に専門学校へと通っていたから、大きく生活が変わることもない。専門学校へと通っていた時間帯がバイトに変わるだけ。
そう思って募集したのだが――現実はどうだ。
朝八時、という開始時間に変わりはないものの、帰れるのが早くて十五時。酷いときには、清掃員で入ったはずなのに、十五時の客室清掃が終わればそのまま翌日の朝食の仕込みを手伝うためにキッチンへと回され、夜十八時過ぎくらいまで拘束される。
独身、という立場をいいように使わされ、休みの日でも「仁科さんのお子さんが体調不良らしいので、来てください!」と急に呼び出されることも少なくない。
そもそも、客室数に対して清掃スタッフも少なすぎる。
わたしがバイト先に選んでしまったホテル、『ホテル永宮』は、旧棟が二つ、新棟が一つある。旧棟は七階建てで、五階のランドリーと一階のロビー、フロント以外が全て客室階。そして各階に九室。それが二棟分あるものだから、マックスで九十室。新棟は五階建てで、一階にカフェとコワーキングスペースが入り、二階が朝食会場。三階から五階が客室で、一階あたりの客室数は旧棟と変わらないので、全部で二十七部屋。
合わせると百を超えてしまう部屋数を、ほんの数人で回さないといけないのだ。全室うまるわけではない平日はまだしも、土日なんて本当に、文字通り地獄だ。
水回り担当、ベッドメイキング担当、最終チェック担当の三つに分かれ、旧棟は水回り担当とベッドメイキング担当は二人ずついるものの、最終チェック担当は一人。新棟は三か所全て一人ずつが担当していて、あとは四階ランドリーと地下大浴場の共用部分を清掃するのが一人。
こんな少人数で、そもそも終わるわけがない。満室の翌日であれば、水回り担当者でも、四十五部屋清掃しなくてはいけなくて、十三時に終わらせるとしたら一部屋七分程度で終わらせなければいけない計算だ。最終チェックであればその半分。そんな時間でこなさないといけないから、当然休憩だってない。
馬鹿にしてんのか、と言いたくなる。
綺麗に使われている部屋ばかりであれば可能かもしれないが、ちょっと派手に使われている部屋が続けばもう終わり。それに、チェックアウトが十時までなので、朝の八時からスタートしたところで、空室となった部屋がたくさんある、というわけでもない。
一応、自分の担当が終われば他を手伝う、ということになっているのだが、これだけかつかつのタイムスケジュールなのだから終わるわけがない。特に共用部分を掃除する人は仕事が遅いし……。こっちより掃除する場所が少ないくせに……。
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