探偵前物語
水嶋
第1話 再会
「荒木さん!?お久しぶりです!」
「おー!?広瀬か!?奇遇だなあ。どうした?聞き込みか?」
「はい…お元気でしたか?」
「まあ俺はこの通りよ、ははは。お前はまだ一課か?」
「はい、相変わらずです。」
「そろそろ昼休憩だから、その辺で休むか。」
「はい。」
荒木さんに敷地内のベンチへ案内された。
荒木さんは俺がまだ刑事になりたての頃、教育係としてバディを組んでいた。
○○○○○○○○○○
「おー!お前が広瀬か!宜しくな!」
「宜しくお願いしますします。荒木さん。」
「中々若いのに優秀だって聞いたぞ!」
「はい。荒木さんより2年早く刑事になりました。」
「ははは!生意気だなあ!その意気で頑張れ!」
俺は当時舐められないように虚勢を張って肩維持張っていた。
見た目が優男なんで、正直荒木さんみたいな強面に憧れていた。
荒木さんは見た目こんな組長みたいなのに、懐が広くて、温かい人だった。
俺は暴走しがちだったが、こんな生意気な俺にも根気よく色々手解きして可愛がってくれた。
一年しない位で荒木さんは暴力団対策課に移動になった。
もっと教わりたい事も、一緒に仕事もしたかった。
なので、移動になってもよく訪ねていた。
「組長、今度のガサで…」
「ここでそう呼ぶと色々誤解あるからやめろ広瀬!本当お前は…」
なんだかんだと兄さんみたいに頼って戯れていた。
「それ…何です?」
「昼飯だよ。」
荒木さんが昼飯と言いながら大量のスポンジケーキを出していた。
「お前も食うか?」
「何か…スゲー喉乾きそうですね…」
クリームも何もないただのスポンジケーキだ。謎だ…
「櫻子さんがなあ…何か急に亘の誕生日に手作りのケーキ作るって言い出して張り切っててなあ…」
櫻子さんとは荒木さんの奥さんだ。亘さんってのは息子さんだ。
「何かな、溶かしバターの温度やな、牛乳の温度やな、卵を一緒に泡立てるかな、別で泡立てるかな、湯煎の温度やな、砂糖を上白糖にするかな、グラニュー糖にするかな、それぞれどう仕上がりに変わるか試しててな、その癖自分では食べたく無いってな、俺にばっか食わせる。」
「はあ…」
「あの人ハマるとそれしかやらなくなるからなあ。朝から晩まで食わされてる。俺は肉が食いたい。せめて生クリームとか挟んで欲しい…」
噂で鬼嫁だの閻魔だの聞いてはいるが…荒木さんより恐ろしい顔の想像が出来ない…
「でもな、それだけだと栄養が偏るってな、これもつけてくれてる。櫻子さんは何だかんだで優しい。」
そう言ってラップに包んだ胡瓜とトマトを出してきた。カットも何もしてないそのままの奴だ…
やっぱ夜叉嫁だ…
「お前がここに来たって事は…何か有るんか?この会社…」
「まあ…余り公には本当は言えないんですが…高木組のダミー会社の可能性が有ります…」
「そうかあ…何だかんだで俺は辞めてまでヤクザと線が交わる運命かねえ…」
「まあ…荒木さんも早めに転職した方が良いかもですね…またやっても無い罪を被せられ…」
「ははは、その話は終わりな。下手に首突っ込むとお前も危ないぞ。」
「でも…俺は悔しいです!なんで荒木さんみたいな優秀な人が…こんな…」
「ははは、お前の口からそんな事言われるなんてなあ。あんな生意気だったのになあ。歳とったなあお前」
「荒木さんは相変わらず組長みたいな見た目してますよ。」
「ははは、そのおかげでな、今の仕事も立ってるだけで何も言われないし気楽で性に合ってるさ。じゃあな、無茶するなよ!」
そう言って荒木さんは警備の仕事に戻って行った。
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