つなぐ役目

Haruka

つなぐ役目

 三年生が引退してグラウンドの風が少しだけ軽くなった夏に、僕─ 高橋春樹は広くなった土の上でバットを持っていた。

 僕たちは二年生主体の新チームとなり、野球部は今日も練習試合をしていた。


 一回の表、一番バッターとして彼─青木壮真が打席に入った。

 夏の光の中で立つその背中は、輝いていて特別だった。

 足が速くて、守備もうまい。どんな場面でも打席に入れば塁に出てくれる。

 一年生の時から上級生に混ざって試合に出ていた彼にはそんな信頼がチームの空気に自然と宿っていた。


 その壮真のすぐ後ろには、二番の僕。

 僕は打てないし派手な守備もできない。

 セカンドとしても、2番としても、彼の隣に釣り合うものが何一つ持っていなかった。

 ただ、バットを前に差し出してボールを転がし、走者を進塁させる。

 いわゆる送りバント。

 それだけが僕に与えられた小さな役目だった。


(僕じゃなくても良いんじゃないか)

 そんな思いが胸の奥でかすかに鳴る度に、足が急に重くなるような気がした。


 それでも、壮真が一塁へ駆け出し、次の瞬間には二塁に滑り込むのを見ると、僕はその役目から逃げ出すことができなかった。

 新チームになり早々、僕は彼が進むための犠牲になることが決まっていたのだ。


 その夏、僕は送り続けた先で、自分がここにいる理由を見つけようとしていた。


 ──────────


 壮真が二塁に立つ光景は気づけば当たり前になっていた。

「春樹、壮真が出たらバントだぞ」

 監督の声はいつもと同じ調子で、怒鳴るわけでもなく、励ますわけでもない。


 案の定壮真は塁に出て、あっという間に二塁へ向かう。

 僕は打席に立ち監督の方を見る。

 出されたサインは、やはりバントだった。


 僕は頷いてバットを握り直した。

 金属の冷たさが、手のひらにじんわりと沈んでいく。


 相手の一塁手が前進してくるのが見えた。

 投手の足が上がり、腕が振られ、ボールがまっすぐ僕に近づいてくる。

 僕はバットをそっと前に差し出し、球の勢いに逆らわず受け止めた。

 コツ、と静かな音が土の上に落ち、ボールは三塁線へと転がった。


「よし、ナイスバント!」

 ベンチから声が飛ぶ。

 それはたぶん、昨日も、一昨日も、もっと前から、何度も聞こえていた声のはずだった。


 けれど、僕はその言葉を素直に褒め言葉として受け取ることができなくなっていた。


 僕は打てるわけじゃないから。

 僕にはこれしかないから。

 そんな思いが胸のどこかでしこりのように残り続けていた。


 いつしか僕の練習内容も変わり始めた。

「おい春樹。バント練習、別メニューな」


 みんながバッティング練習に入る横で、僕だけが別メニューを与えられる。


 みんながバットを振る時間に、僕はボールを転がす。

 みんなが鋭い打球を打つ時間に、僕は角度を微調整する。

 その違いが、胸のどこかに小さな棘のように刺さった。


 僕の打球は、フェンスに届かない。

 僕の打球は、誰の歓声も生まない。


「……このくらい、やらなきゃいけないんだ」

 送り続けることが僕の役目なら、その道を歩くしかない。

 そう自分に言い聞かせることで、胸のざらつきを誤魔化していた。


 ──────────


 ある練習試合の終盤、壮真が二塁まで進むと僕はいつものように送りバントのサインを受けた。


 投手がセットに入り、僕はバットを軽く構える。

 何度も繰り返してきた動作。

 何度も成功させてきたプレー。


 ――のはずだった。


 投手の腕が振り下ろされ、僕はいつものタイミングでバットを前に出した。

 ボールの縫い目が近づいてくる。

 ほんの一瞬、視界の端で何かが揺れた。


 いつもなら手に重く伝わる感触が、今回はなかった。

 ボールはバットをすり抜け、捕手のミットに吸い込まれた。


「ストライク!」

 大きく、はっきりとした審判の声が響いた。


 僕は固まったまま動けなかった。

 軽く震える指先に、汗がにじむ。

 監督の方を見ると、表情が一瞬だけ曇り、もう一度同じサインを出される。


 次の球。

 僕は深呼吸をして、再び構え直す。

(しっかり、しっかり。これまでもできたんだ。今日だってできる)


 ボールはバットに当たった。

 けれど三塁手の前に転がるはずの球が、捕手の頭上に浮かびあがった。


「アウト!」


 僕は走りながらベンチに戻り、自分に起きている異変に焦りを覚えていた。

(どうしたんだ、今日の僕)

 誰も責めてはいなかった。

 監督も、チームメイトも。

 でも、それがかえって苦しかった。


 打てない上に、バントまで失敗したら、僕は何を残せるんだろう。

 グラウンドに沈んでいく夕陽が、やけに遠くに見えた。


 ──────────


 次の日の練習は、いつものようにバント練習から始まった。

 僕は打席に向かってゆっくり歩きながら、練習試合の失敗の感触を思い返していた。


「春樹、いつものとおりバント練習するぞ」

 監督の声は淡々としていた。

 怒っているふうでも、心配しているふうでもない。

 ただ、僕に求められている役割を確かめるような声だった。


 僕はバットを構え、投げ出された球にそっと角度をつける。

 ――はずだった。


 カン、と音が鳴った。

 土の上で低く転がるはずの球は、真上に跳ね上がった。


「どうした春樹。フライになってるぞ」

「もう一回投げるよー」


 チームメイトの言葉は明るい。

 責めているわけではない。

 むしろ励まそうとしてくれているのが分かる。

 なのに胸の奥で何かが軋んだ。


(また……)


 次の球を受けても、同じだった。

 角度がずれる。

 力の入りどころが掴めない。

 今までの体の流れが思い出せない。

 手のひらに熱がこもり、呼吸が浅くなる。


 三球目。

 四球目。

 五球目。


 何度やっても成功しない。

 昨日の試合だけではなかった。

 今の僕は、どこかが確かに狂っている。


「大丈夫か、春樹?」

「焦らなくていいって」


 周りのみんなの声は優しい。

 優しいのに、ひどく刺さる。


(焦らなくていいって、どうして言えるんだ……。僕には、これしかないんだよ……)


 バントが決まらないという事実が重くのしかかってくる。

 僕は黙ってうなずき、もう一度構えた。

 けれど、ボールはまた浮いた。


 自分でも分からない焦燥が、胸に張り付いたまま離れなかった。


 夕陽がネット越しに差し込む。

 目の奥が熱くなり、僕は顔を伏せたままボールを拾いに歩きだした。


 ──────────


 その日の練習試合は、序盤から互いに点が入らず、どこか重たい空気が流れていた。

 僕の打席が回ってきたのは、そんな均衡が続く四回だった。


 打席に向かう途中、ふと相手ベンチのざわめきが耳に入った。


「前進でいいだろ」

「このバッター、打てないタイプだ」


 笑い混じりの声だった。

 試合中によくある声掛け……のはずだった。

 けれど、その言葉が僕の背中に冷たく落ちた。


 バッターボックスに立つ。

 視界の先で、相手の外野がじわりと前に出てくる。

 センターもライトも、普段より数歩も前に。

 レフトは内野のすぐ後ろまで近づいていた。


 守備位置は――完全に僕を“凡打確定”として扱う形だった。


(……そう見られているんだな)


 違うと思いたかった。

 けれど、わかっていた。

 僕には長打どころか、ヒットを打てるイメージすらなかった。


 投手がセットに入り、静まり返ったグラウンドにスパイクの砂を踏む音が響く。

 僕はバットを握り直す。

 けれど、指先はわずかに震えていた。


(僕は……どうしたらいいんだ)


 どこにも逃げ場がなかった。


 投手の腕が振られた瞬間、僕は条件反射のようにスイングを始めた。

 当たった音は、乾いた金属の音ではなく、弱々しいカツンという音だった。


 球は、相手の予想どおり、力なくセカンドの前に転がった。

 捕球、送球、アウト。

 まるで最初から決まっていた予定の一つみたいに。


「ほらな、前進で十分だろ」

 相手ベンチの声が聞こえた。


 僕は走るのをやめ、ゆっくりとベンチへ戻った。

 どこで呼吸をすればいいのか分からず、胸の奥だけが痛く締めつけられた。


(僕は……相手からみたら、ただの一つのアウトなんだ。これじゃあチームの役に立てない)


 その事実が、どんな失敗よりも重かった。


 ──────────



 練習試合後の全体練習が終わった頃、僕はグラウンドの隅で一人、まだバットを握っていた。


 素振りをしているわけでもない。

 手入れをしているわけでもない。

 ただ握って、立ち尽くしていただけだ。


 最近のバントの失敗。

 相手に「前進守備で十分」と笑われたこと。

 自分でも打てる気がしなかったこと。


 全部が胸の中で渦を巻いて、この感情をどこへ逃がせばいいのか分からなかった。


 気づけば視界が滲み、バットのグリップに一滴落ちた。


「……泣いてんの?」


 背中から声がした。

 驚いて振り向くと、そこに壮真が立っていた。


「ち、違う……」

 言いかけて、言葉が続かなかった。


 壮真は僕の隣に立ち、少しだけ視線を落とした。


「最近、調子悪いよな。大丈夫か?」

 その言い方は優しかった。

 けれど僕の胸の奥で、何かが音を立てて崩れた。


「……大丈夫じゃないよ!」

 自分の声が震えているのがはっきり分かった。

 壮真は驚いたように目を見開き、けれど最後まで何も言わずに聞いてくれた。


「バントも成功しなくなった。守りだってお前みたいに上手くない。僕は打つこともできない。そんなのもう、試合に出るのは僕じゃなくてもいいじゃん……」


 胸の底に押し込めていた言葉が全部零れ落ちた。


「壮真が出塁しても僕が送れなかったら意味ないし。明日は大会なのに、僕、チームの役に立ててないよ……」


「僕なんてこのチームにいなくてもいいんだ」


 僕の言葉が途切れ、呼吸だけが白く震えたとき、壮真はゆっくりと口を開いた。


「一年の夏、覚えているか?俺が三回連続で走塁ミスして、ベンチで落ち込んでた日。あの時『もう一回走ろう』って声をかけてくれたのはお前だけだった。」


(そんな昔のことをまだ覚えてくれていたんだ)

(特別なことなんてしていない。ただ、あの時落ち込んでいた壮真を見て、つい声をかけてしまっただけだ)


「お前が俺を前に進めてくれた日がちゃんとあるんだよ。だから今度は俺がお前を支えたい。」


 その声は、いつもの軽さじゃなかった。


「お前が確実に送ってくれるって信じてるから、俺は思いっきりバットを振れる。お前がセカンドで俺に合わせてくれるから、俺はショートで自由に守れる。」


 胸の奥が熱くなる。


 壮真は続けた。


「打てない?派手じゃない?そんなの関係ねぇよ。

 春樹が送ってくれる一打で、何回このチームが救われてきたと思ってんだよ」


 言葉が、痛いくらい真っ直ぐに届いた。


「だからさ――自分のこと、簡単にいなくてもいいとか言うなよ」


 僕は涙が止まらなくなった。

 子どものように泣きじゃくる僕の横で、壮真は何も言わず、そっと方に手を置いた。


 涙が落ち着いた頃、僕は壮真に向かって一言。

「…あと一球だけ」


 壮真は無言で距離を取り、僕にボールを放り投げた。

 バットの角度を三塁線に合わせる。

 一球が、完璧な音を鳴らした。


(……できる。まだできる)

 笑顔の壮真がこちらを見てくる。

 胸の奥には小さな火が灯った。


 壮真と別れ、帰りの準備をしていると、監督が僕を呼び止めた。


「春樹、ちょっと来い」


 心臓がまた重たくなる。

 怒られるのか、外されるのか──そんな不安だけが胸の奥でざわついた。

 監督はグラウンドの真ん中に立ち、僕を手招きした。


「なんでお前に二番を任せて、バントをあれだけやらせているか分かってるか?」


 問いかける声は、責める調子ではなく、不思議なくらいに穏やかだった。


「……僕に、それしかできないからです」

 自分で言いながら、胸の奥が痛んだ。


 監督は首を横に振った。

「違う。お前だから出来ると思ったからだ」


 僕は顔を上げることができなかった。


「春樹のバントは他のやつとは違う。技術以上の信頼がある。迷いなく役割を果たそうとする強い気持ちがある。それがチームに伝わるんだよ」


 言葉がゆっくりと落ちてくる。


「スランプ?そんなの誰にだってある。問題は、そこで逃げるか、向き合うかだ。……お前は向き合おうとしてる。誰よりも先に来て、誰よりも遅くまで残っていた。その姿を俺はちゃんと見ている」


 監督は、白球を一つ僕に手渡した。


「明日も、お前を二番で使う。バントのサインも出す。任せるからな」


 胸が熱くなって、何も言えなかった。

 その代わりに深く頷いた。

 監督は小さく笑い、僕の背中を押した。


「泣いた分だけ強くなれ。春樹」

 その言葉が、胸の奥に静かに灯った。


 その夜、僕は家に帰っても眠れなかった。

 壮真の言葉。

 監督の言葉。

 全部が頭の中で響いていた。


(明日は……絶対、決める)


 その決意は小さくて頼りなかったかもしれない。

 けれど、確かに前へ進む一歩を踏み出すことができた気がした。


 ──────────


 大会当日の朝、僕はいつもより早く目が覚めた。

 まだ外は薄い青で、家の中の空気も静かだった。


 グローブをバッグにしまいながら、昨日の監督の言葉が胸の中でゆっくり温度を持つ。

(任せるからな──)


 手が震えるほどの重圧ではない。

 むしろ、小さな火が灯っているような、不思議な温かさだった。


 球場に向かうバスの中、壮真は窓にもたれかかりながら欠伸をしていた。

 そんな余裕のある姿に、少しだけ救われる。


「……春樹、今日、やれるだろ?」


 前を向いたまま、壮真が小さくつぶやいた。

 僕は返事をしようとして、喉が詰まった。

 それでもなんとか声を出す。


「……うん。やるよ」


 壮真はにやっと笑った。

「その顔なら大丈夫だわ」

 ただそれだけの会話なのに、呼吸が自然に整っていくのが分かった。


 球場に着くと、夏の陽ざしが照り返し、土の匂いが濃く広がっていた。

 大会の会場は、見慣れたグラウンドよりもずっと大きい。

 フェンスも、スタンドも、空の広さも違った。


 僕はスパイクを履き直し、深く息を吸った。

(今日こそ──決める)

 その決意は昨日よりずっと強くなっていた。


 円陣の中心で監督が短く言う。


「初回、いつもどおりいくぞ。壮真、まずは出塁しろ。春樹、送れ。三・四番で返せ。以上だ」


 僕は思わず笑ってしまいそうになった。


(いつもどおり──そうだ。僕はそれでいいんだ)


 壮真が肩を軽く叩き、先頭打者としてグラウンドへ向かう。


 後ろからその様子を見る。

 昨日までの泣いていた僕とは、もう違う。

 あの背中を前に進ませるために、僕はここにいる。


 場内アナウンスが響いた。


「一番、ショート──青木壮真くん」


 壮真はいつものように、一球目を軽く見逃し、二球目をしっかり叩いた。

 打球が外野の前に落ち、スタンドから歓声が上がる。


(やっぱり……お前はすごいな)


 壮真が一塁に立つ。

 そして、間髪入れずに走る。

 球場の空気が一瞬だけ切り替わり、スパイクの音が土を弾く。


 ──二塁へ滑り込んでセーフ。


 僕の心臓が強く脈打った。

 次は僕だ。


(任せろよ、壮真)


 監督のサインは、もちろんバント。

 バットを握る指先に、今日は迷いがなかった。


 二塁には壮真が立っている。

 ヘルメットのつばに触れながら、こちらをじっと見つめてきた。

 その視線がすべてを語っていた。 

「頼んだ」という一言が、胸の奥にまっすぐ落ちる。


 僕はバッターボックスに足を踏み入れ、スパイクを土にねじこんだ。

 指先に吸いつくようなバットの重さが、今は心地よい。


(大丈夫。できる。何度もやってきた)

 昨日の言葉が蘇る。


(お前が確実に送ってくれるって信じてるから、俺は思いっきりバットを振れる)


 胸の奥の火が強くなった。

(昨日の一球を、これまでの努力を思い出せ)


 投手の足が上がり、腕が振り下ろされる。

 一球目――。

 僕は迷いなくバットをそっと前に差し出した。


 コツッ。

 ──ほんの一瞬、球場の息が止まった。


 今まででいちばん綺麗な音と衝撃が、バットから手に伝わった。

 ボールは三塁線へ吸い込まれるように静かに転がっていく。


「ナイスバントッ!!」


 ベンチから叫びが飛んだ瞬間、胸の奥が熱く震えた。


 僕は一塁に走りながら、ちらりと三塁を見た。

 壮真が三塁に滑り込み、こっちにガッツポーズを向けてくる。


 この一打が、初めて僕をチームの一員にしてくれた気がした。


 ベンチに戻ると、監督が短く言った。

「よくやった」

 その一言で、視界がじんと滲んだ。

 胸の奥にあった何かが静かにほどけていく感覚だった。


(これでいい……僕は、ここにいていい)


 次の三番バッターが歩み出る。

 僕は胸の鼓動を感じながら、その背中を見つめた。


 ──────────


 試合結果は、その後三番打者がヒットを放ち一点を奪い、最終的にその一点を守り切る形で一対〇。


 ベンチに戻ると、壮真が笑って僕の頭をぐしゃぐしゃにした。


「ほらな、できんじゃん」


 その言葉だけで十分だった。

 胸にたまっていた重さが、全部音を立てて崩れていくようだった。


 監督も静かに僕の肩を叩いた。


「よくやった。あれが、今日の勝負を決めた一打だ」

 胸の奥が、じんと熱く広がる。


 今までの想いも、苦しさも全部この時のためにあったのだとそう思うことができた。

 無駄なことなんて一つもなかった。



 試合後のグラウンドには、まだ夕陽の光が薄く残っていた。

 歓声もざわめきももう消えて、土の匂いだけが静かに漂っている。


 僕はベンチの端に腰を下ろし、帰る準備をしていた。


(……できたんだ、ちゃんと)

 胸の奥で、小さく灯った火がまだ消えずに残っていた。


 グラウンドの向こうで壮真が軽く手を上げた。

「帰るぞー」とでも言うような、いつもみたいな何気ない仕草だった。


 その姿を見て、自然と足が前に出る。


 今日の僕の一打は、目立つものじゃない。

 スタンドが沸く特別な打球でもない。

 記録に残ることも、語り継がれることもきっとない。


 けれど、あの一球が確かに勝利につながった。

 それだけで十分だった。


 グラウンドをあとにする最後の一歩を踏み出す。

 夏の風がそっと背中を押した。





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