06
「全部?」
「はい、全部。米とかの基本的な食料品や、トイレットペーパーみたいな消耗品。そういう定期的に買う必要のあるものが毎週業者から届きますけど、それをホームに運ぶのを手伝ったあとに、何がどれくらい来たのかをメモしました。そのあと、来たものを全体の消費量と比較します。毎日料理で何がどれくらい使われたかとか、そういうのも全部チェックして、差が出てるものはないかって。そしたら案の定、入ってくるお米が消費されてるお米より、あまりにも多いことに気づきました。それが、最初にあなたが何かをしていることを確信したきっかけです」
「それで?」
「米袋の中に何かが入ってることはわかっていましたけど、私がその場で袋を切り開いて確認したら騒ぎになりますから、その中にあるものが、どこに置かれるのかをまず探そうと思いました。正直言って、離れの倉庫が怪しいことはわかりきってますし、そこにそれが運ばれてることさえ確信できれば、突入しようと考えてました」
「それからどうした?」
「カメラをつけたんです。安くて小さいカメラを買って、私の部屋の窓に設置して、倉庫が見える方向に向けました。二十四時間監視してれば、週に一度、職員がその倉庫に入って行く姿が撮影できました。それは決まって、業者が来た日の夜でした」
判場は驚きと呆れが入り交じった表情でわたなを見る。
「なるほど。それで、鍵は? 倉庫の鍵は、職員の部屋の金庫の中に置いてある。どうやって盗った?」
「盗ってません。作りました」
「作った? 合鍵を?」
「はい。まず、金庫の番号を知るのは簡単です。職員が部屋を空けたタイミングで侵入し、さっき言った小型カメラを置きます。後で回収して、金庫の解錠番号を知りました」
「金庫から盗った鍵を鍵屋に持ち込んで合鍵を作るとしても、その間に職員が鍵がないことに気付くはずだ」
わたなは首を振った。
「いえ。私は写真を撮っただけです。部屋に入って、金庫を開けたら、中にある鍵をその場で撮影しました。定規を添えて、複数の方向から、できるだけはっきり見えるように鍵を撮影します。この作業は五分以内で終わります。そしたらその写真を、依頼サイトを通じて3Dモデルにしてもらいました。明らかに怪しい案件でも、知らぬ存ぜぬで受けてしまう人はいますから。データを受け取ったら、いちいちデータをチェックしないような大規模3Dプリンタ業者にそれを送ります。しばらくしたら、きちんと使える鍵が届きました」
判場が目を見張る。
「……全てお前が思いついて実行したのか?」
「いろんなところで見たテクニックのツギハギです。特別な知識なんていりませんでしたし、私が危険な場所にいたのは部屋に侵入する数分間と、倉庫の中にいた時だけです。地下室があることを知らなかった私は、そこで三十分は使いましたから。それが、一番焦った時間でしたね」
判場が言った。
「地下室の存在を知らずに倉庫に入ったのか」
「本当に土壇場でした」
わたなは言った。
「倉庫に入った私は、そこにそれらしいものが何もないことに驚きました。そこにあるのはただの物置で、あまり使わないものが放置されてるだけの、雑多な空間です。ここが置き場所じゃないのか、それともここに持ち運ばれていたものはすでに全て持ち出されたのかと思って、私は焦りました。どちらにしても、私にとってはその時だけが、唯一誰にもバレずに倉庫に入れるチャンスでしたから」
わたなはそのときの緊張感を思い出して、今成功していることに安堵のため息を吐いた。
「だけど、そのとき気付いたんです。低い機械音がずっと聞こえるって。まるで室外機の音みたいだなって思った瞬間に、ふと思いついて調べたら、これが大当たり。高温多湿の環境では湿度管理のために空調をきちんとやらなきゃいけないって知って、もうそれからは、がむしゃらにそれらしい場所を探したんです。棚をどけて、壁を叩いて、カーペットを引き剥がして、それで、入り口を見つけました」
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