とんとんみーと遊んでいたら、ラスボスに遭遇!?

@Momo_ar

私のある日

マングローブ林。そこを覗けば、とんとんみーがにぎやかに飛んでいた。


 とんとんみーとは、トビハゼと言われる『陸で生きるハゼ』の方言。

 これが愛嬌溢れて可愛いのだ。

 よく、沖縄など暖かい場所に住むマングローブと言われる木がある。その水辺へ、視線を落とせば沢山のとんとんみーが飛び回っている。

 まるで、パステルホッピングでも乗っているみたいだ。


 そんな彼らと、戯れるのが私の日課。


「よし、今日は煮干しを使って観察しよう!」


 紐にクリップを括り付け、ふやかした煮干しをつければ完成!

 いつも、彼らとこれで遊んでいる。

 餌だと思い、飛びついてくる光景はなんとも愛嬌あふれる姿だ。癒し界隈の思考の領域……と言っても、過言ではない。

 ちょこまかと、まるで生きているかのように動かせば・・・


 ――ぱくっ!


 餌のビックウェーブに乗り遅れないよう、次から次へ寄ってくる。

 一生懸命に餌を取ろうとする姿に、疲れた心が癒されていく。

 まさに、幸せ空間。


 また煮干しを落とせば、岩陰からのぞく黒い影が見えた。

 それも、サイズがとんでもなくでかい。

(あ、あれは!?)

 そう、そこにいたのは随分と立派な『マングローブガザミ』だ。


 ノコギリガザミと言われる、ものすごく巨大なガザミ。

 これが非常に美味。

 特に、あの大きな殻の内側に秘められた蟹味噌……口に入れた瞬間に広がる濃厚な旨みは、まさに天と地がひっくりがえる旨さ。

 それが今、目の前に現れたのだ!


「これは……食うしかない!」


 思わぬラスボスに、胸が昂る。

 だが、ここで問題が発生した。

 

 そう、肝心な勇者の剣(タモ網)がないという事実。

 ※正確には、先ほど肝心な剣が海の底へ家出してしまったのだ。


 目の前に現れる最高食材を、ただ眺めるだけ。なんと……虚しい気持ちなのだ! あれを食べたい、欲がさらに膨らんでいく。

(味噌汁にしたら美味いのにな……ちっくしょー!!)

 心の中で叫べば、殺気に気付き慌ててガザミは逃げていってしまった。

 だが、逃げた先はまさかの方向。

 

「あ、待って――そこは!」


 なんと、運が悪いのだろう。

 あのガザミが駆け抜けた方向には、祖父が仕掛けた箱罠。


 ーースッ……ガサ、ガザガザガザ!


 漫画かよ!

 なんと現実は残酷なのだろう。

 察しのいい人なら、わかるだろうが……躊躇なく罠の中へダイブ。もし、ボケ大会でもあれば優勝レベル。

 だが、同情は食欲と共に消え去った。

 

「……あれ、これ食えるのでは?」


 逃した獲物を、思わぬ形で回収できた。


 ありがとうラスボス。出会いに、そして晩飯の味噌汁に感謝。

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