幼なじみがバズっているカクヨム作家だった件 ――AI小説全盛期に“ガチ手書き勢”で殴り合うらしい

コテット

第1話「俺の幼なじみが、実は"あの"作家だった件について」

カクヨムのランキングページを開くたびに思う。

「また、AIか」

画面に並ぶのは、タイトルの横に【AI補助】【自動生成】【プロンプト最適化】といったタグがついた作品ばかり。PV数は軒並み十万超え。☆の数も桁違い。

対する俺の最新作『異世界転生したら村人Aだった件』は――PV:1,203、☆:12、フォロワー:87(昨日より2人減)。

「……まあ、そんなもんだよな」

スマホを閉じて、俺――山城悠真は小さくため息をついた。

ここは放課後の教室。窓際の席で、俺は今日も変わらない日常を過ごしている。

高校三年の春。受験勉強もそろそろ本腰を入れなきゃいけない時期なのに、俺の頭の中は「次の更新どうしよう」で埋まっている。

カクヨムで小説を書き始めて三年。

完結させた作品:ゼロ。

途中で放置した作品:五つ。

「俺って、才能ないのかな」

そんなことを呟いたとき。

「ゆーま、何ブツブツ言ってんの?」

背後から、聞き慣れた声。

振り返ると、そこには幼なじみの**桜庭心春(さくらば・こはる)**が立っていた。

肩まで伸びた黒髪。整った顔立ち。クラスでも目立つ美少女だけど、俺にとっては小学校からの腐れ縁。

「別に。ちょっと作品の構成考えてただけ」

「ふーん。また小説?」

心春は俺の隣の席に腰を下ろすと、興味なさげにスマホをいじり始めた。

こいつは俺が小説を書いていることを知っているけど、内容にはまったく興味がない。

「異世界とか転生とか、よく飽きないよね」

「うるせー。お前だってスマホばっかいじってんじゃん」

「これは情報収集。ゆーまと一緒にしないで」

にやりと笑う心春。

こいつ、昔からこうだ。人をからかうのが好きで、でも根は悪くない。

ただ――最近、ちょっと様子がおかしい。

「なあ、心春」

「ん?」

「お前さ、最近夜更かししてない?」

心春の動きが、一瞬止まった。

「……なんで?」

「いや、朝の教室でよく居眠りしてるし。目の下にクマもできてるし」

「ゆーまのストーカー気質、マジで怖いんだけど」

「ストーカーじゃねーよ。幼なじみだから気づくんだよ」

心春は視線を逸らし、少しだけ頬を染めた。

「……ちょっと、趣味が忙しいだけ」

「趣味?」

「そ。趣味」

それ以上は答えず、心春は立ち上がった。

「じゃ、私帰るね。バイトあるから」

「おう」

教室を出ていく心春の背中を見送りながら、俺はふと思った。

(あいつ、何か隠してるな)

でも、まあ――それが何であろうと、俺には関係ない。

俺には俺の戦いがある。

AI全盛期のカクヨムで、"ガチ手書き勢"として、いつか完結作を生み出すという戦いが。


その日の夜。

俺は自室のパソコンの前で、カクヨムの画面を開いていた。

「よし、今日は5,000文字更新するぞ」

気合を入れて、キーボードに指を置く。

だが――30分後。

「……書けねえ」

画面に表示されているのは、わずか200文字。

「主人公が村で目覚める→とりあえず冒険者ギルドに行く→……で?」

展開が思いつかない。

キャラも動かない。

文章も硬い。

「くそ……AIなら一瞬で5,000文字生成できるのに……」

そう思った瞬間、嫌悪感が湧いた。

(違う。俺は、自分の手で書きたいんだ)

たとえPVが伸びなくても。

たとえランキングに載らなくても。

俺は、"自分の物語"を紡ぎたい。

そう思いながら――ふと、カクヨムのランキングページを開いた。

【日間ランキング 1位】

『君が隣にいた世界線』

著者:春告鳥(ハルツゲドリ)

ジャンル:現代恋愛

【完全手書き】【AI不使用】

PV:528,340

「……手書き?」

俺は思わず画面に食いついた。

AI全盛期のこの時代に、"完全手書き"でランキング1位?

しかも――この著者名、どこかで見た気がする。

「春告鳥……ハルツゲドリ……?」

俺はその作品ページを開いた。

作品紹介には、こう書かれていた。

『もしも、君がそばにいたら――私の世界は、もっと違っていたのかな』

シンプルな一文。

だけど、胸に刺さる。

「……すげえ」

俺は一気に第1話を読み始めた。


30分後。

「……マジか」

俺は画面を凝視していた。

この作品――めちゃくちゃ面白い。

文章は洗練されていて、キャラの心情描写が圧倒的。

展開も自然で、読者を引き込む構成が完璧。

「これが……手書き……?」

信じられなかった。

AIでも、ここまでのクオリティは出せない。

いや――だからこそ、この作品はランキング1位なんだ。

「春告鳥……一体、何者なんだ……?」

俺はその著者のプロフィールページを開いた。

【プロフィール】

春告鳥(ハルツゲドリ)

性別:非公開

年齢:非公開

活動歴:約3年

完結作:15作

「完結作15……!?」

俺の三年間と、まったく違う。

こいつは――本物だ。

「いつか、こんな作品を書いてみたい……」

そう思ったとき。

スマホに、LINEの通知が入った。

送り主は――心春。

『ゆーま、寝た?』

『まだ起きてる』

『そっか。じゃあ、ちょっと聞きたいことあるんだけど』

『何?』

『ゆーまって、カクヨムで小説書いてるよね?』

(……え?)

心春が、俺の創作活動に興味を持つなんて珍しい。

『ああ、書いてるけど』

『ペンネーム、教えてくれない?』

『……なんで?』

『ちょっと気になっただけ』

(怪しい……)

俺は少し考えてから、返信した。

『「山城ユウマ」だけど。お前も読むの?』

既読がついて――数秒後。

『……やっぱり、そうなんだ』

『?』

『実は私も、カクヨムやってるんだよね』

(は?)

俺は画面を二度見した。

『マジで?』

『うん。ペンネームは、「春告鳥」』


その瞬間、俺の頭の中で、すべてが繋がった。

春告鳥。

ハルツゲドリ。

桜庭心春(さくらば・こはる)――春を告げる鳥。

「……嘘だろ……?」

俺の幼なじみが。

ランキング1位の。

"あの"作家だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る