“元”お嬢様の「天敵《ヒロイン》」は、今日も俺を翻弄する。

リアル鳩マン

第1話 出会い

 寒かった冬が過ぎ去り、だんだんと暖かくなってきた今日この頃。俺、『小野隆之おのたかゆき』は晴れて神島台かしまだい高校の1年生になる。


 ここは県内有数の進学校であり、合格実績も申し分ない。だがしかし、俺は勉強が苦手だ。ここに入ったのも親の意向である。そもそもここに合格したこと自体、奇跡であると言っても過言ではない。


「さて、と...」


 俺は準備を整え、最寄り駅へと歩いていく。家から駅までは徒歩8分圏内であるため、毎朝歩いて行っている。


 駅に着き、時計を確認すると、乗る予定の時間より10分ほど早く着いていたようだ。


 俺の最寄り駅から学校の最寄り駅までは約1時間ほどかかってしまうので、念のためいつも少し早い電車に乗っている。


—流石に誰も居ないか...


 いくら通勤通学時間だとは言え、今は朝の5時30分である。こんな時間にわざわざ電車に乗りたがる人なんていない。俺だって、できることならもっと寝ていたいのだ。


 だが、そんなことはつゆ知らず。

 階段の方に人影が見えた。


 見ると俺と同じ制服を着ている。それに、新しい感じの制服なのでおそらく同級生だ。同じ駅を使う同級生が居るっていうのはこうも嬉しいものなのか。だがしかし、一つ問題がある。


—可愛い...


 そう、可愛すぎるのだ。なんだあの生き物は。


 少し茶色がかったロングのサラサラな髪、控えめな胸、整った顔。ここまで良い匂いが漂ってきそうだった。


 あそこまで可愛いとなると、俺も話しかけづらい。残念なことに俺は女性耐性が全くない。だからそもそもの話、俺から話しかけるなんて絶対にできないのだ。


—でもこの時間帯にいてるのって俺とあの娘だけなんだよな...


 うーん、ここは勇気を出して話しかけるべきなのか、それとも見なかったふりをするのが正解なのか...。


「あの...」


「は、はひ!?」


 なんと彼女の方から話しかけてくれた。近くで見ると尚一層可愛さが増した。それに予想していた通りとても良い匂いがする。


—ど、どうする...?何を喋れば良いんだ?くそっ、頭が回らねえ!


「あ、えっと、あ、あのどうか、しました、か?」


 ものすごく噛んでしまった。動揺していることは明らかである。


「あなたも神島台の1年生、ですよね...?」


「え、えっと...」


—落ち着け俺!一旦深呼吸だ!普通に接しろ!!


「ちょ、ちょっと待ってて...」


「は、はい...?」


 すーーーはーーー...よし。


 だいぶと落ち着いてきた。高校生になったら女性との関わりは多少なりとも増えるはずだ。だから、こんなところで止まってる場合じゃない。


「ご、ごめんね。女子と話すことなんて久しぶりで...」


「ふふ、いえいえ大丈夫ですよ。かく言う私も男人と話すことは久しぶりなので、少し緊張しています」


 ま、眩しい!彼女の笑顔が眩しすぎる!!人に気も遣えるなんて...


「えっと、そうだ俺が神島台の1年生なのかって話だよね、もちろんそうだぞ」

 

「やっぱりそうですよね。あなたの制服が新しそうだったので、つい声をかけちゃったんです」


「ということは君も1年生?」


「ええ、そうです。あ、自己紹介がまだでしたね。私は天羽奏あもうかなでです。」


「俺は小野隆之だ。えっと、天羽さんでいいのかな?」


「私のことはご自由に呼んでください。うーん、じゃあ私は隆之さん、って呼んでも良いですか?」


「あ、ああもうどうぞどうぞ自由に呼んでくれ」


 なんだこいつ、まさか天使なのか?俺の苦悩を図って現れてくれた女神様なのか?とにかく可愛いすぎる。奏は俺の隣に立ち、電車を待っていた。


 ——この時の俺は、まさかここで彼女と出会ったことが俺の高校生活を大きく変えることになるとは思いもしなかったのだ。——


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“元”お嬢様の「天敵《ヒロイン》」は、今日も俺を翻弄する。 リアル鳩マン @HATO_Lunatic

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