第2話 100人一斉召喚(カオス)
ズドォンッ!!
……背中から石床に叩きつけられた衝撃で、肺の空気が全部抜けた。
「……ッッだがっ!? いっでぇぇぇ……!!」
目を開けると、巨大な魔法陣の中心。
俺の周りには、ローブ姿の魔術師たちがわらわらと取り囲んでいた。
「成功です! 勇者候補の召喚に成功しました!」
「よし、生存か!? ……いや、到着の仕方がおかしいが……」
「お前らのせいじゃねーよあの白ジジイだよ!! クッションくらい置いとけ!!」
俺が怒鳴る横で、魔方陣が再び光を放つ。
次の瞬間——
ズババババババババババッッ!!
立て続けに人間が空から雨のように降ってきた。
「おわっ!?」
「危ねぇぇ!!」
「ぎゃああ!?」
「なんで俺ら落下スタートなんだよぉぉ!!」
ドサッ、ズシャッ、ガンッ。
あちこちで悲鳴と鈍い音が響く。
最初に落ちてきた俺は、どうやら“先行トラップ”だったらしい。
100人の候補者は、性別も年齢も服装もバラバラ。
学生、スーツ姿のサラリーマン、パーカーの兄ちゃん、謎のコスプレみたいな奴までいる。
ざっと見た感じ、全員「異世界に向いてなさそう?」な一般人だ。
そこへ、偉そうな鎧のデカい男が歩み寄ってきた。
ブロンドの騎士、肩幅でかすぎ。
胸板鉄板かよ。
よっ、冷蔵庫!って言った方がいいか?
「勇者候補たちよ! よくぞ召喚に応じた!」
応じてねぇよ。勝手に呼んだんだよ。
「私はエルドア王国騎士団長、ガルド=ベイン。
お前たちはこれより“勇者適性審査”を受けてもらう。」
言いながら俺らを見回したガルドの表情がピタッと止まる。
そして俺を指差して言った。
「……そこの者。なぜひとりだけ、頭から血を流しておるのだ?」
「あの白いジジイが俺だけ床に叩きつけやがったんだよ。訴えるぞ?」
「じ、ジジイ……? まさか、異界の管理者か!?」
まさかの通じてる。
魔術師が小声で騎士団長に耳打ちする。
「騎士団長、あの者だけ……落下位置が“中心点”でした。
本来は魔力のクッションが作動するのですが……」
「……故障か?」
「いえ……おそらく、あの魂が“そういう扱いを受ける運命”なのでは……」
おいこら誰だ俺を雑に扱う運命にしたのは。
騎士団長ガルドは深刻な顔でうなずいた。
「……なるほど。“問題児枠”というわけか。」
「勝手に枠つけんな!!」
周囲を見ると、他の99人はとりあえず生きてるっぽい。
とはいえ——
「俺……帰りたい……」
「これバイトの集団面接かよ……?」
「異世界って……もっとこう……華やかじゃ……」
不安と愚痴で空気が重い。
そのとき——
ゴォォォォォン……
巨大な扉が開き、豪華な衣装をまとった老人が現れた。
王冠をつけている。
たぶん王様だ。
「よくぞ来てくれた勇者候補たちよ!」
おお、テンション高い。
「諸君にはこれより“魔王討伐”を目指してもらう!」
おいおい急に本題かよ。
「なお、討伐に参加できるのは“適性審査”を突破した者だけじゃ!」
王が言った。
魔術師が言った。
騎士団長も言った。
そして王は続ける。
「適性審査を突破できる者は——例年“平均2人”である!」
「少なすぎんだろ!!?」
100人中2人ってお前、倍率、50倍かよ、えげつねぇな。
王は続ける。
「今回は、百名無事に召喚できたゆえ、期待しておるぞ。
もちろん……落ちた者は、そのまま兵士や農夫として国に貢献してもらう。」
「落ちたら地味職…!?」
「あ、あの! 帰国は……?」
「ない。」
即答かよ。
肩を震わせる候補者たち。
その流れの中で、俺はポツリと呟いた。
「……はあ。やっぱめんど……」
その瞬間、騎士団長ガルドがこちらを見る。
「そこの血まみれの者!」
「俺だよな?」
「お前、顔に“絶望も恐怖もない”と書いてあるぞ!」
「いや……もう死んでるからな。」
「強い……精神が強すぎる……!」
ちげぇよただの無気力だよ。
ガルドは腕組みしてうなずき、
「貴様……適性が高いのではないか?」
「いややめろ、そういうのやめろ」
俺は叫んだ。
叫んだが——
魔術師たちがざわざわしはじめる。
「彼の魂……異様にしぶとい波動がある……」
「死にたがりなのに……なぜ……?」
これ絶対あの白ジジイの“しぶとい診断”のせいじゃん。
そして王が言った。
「うむ、まずは“第一試験”を行う!」
「試験!? 嘘だろ……」
王の合図で兵士が巨大な石扉を開ける。
そこには暗い通路が続いており——
底が見えないほど深い階段が並んでいる。
「これは……“生存迷宮”……!」
騎士団長が声を震わせた。
王が言い放つ。
「勇者候補百名よ!
まずは生きて、この迷宮を突破せよ!!」
いや最初から命がけかよ!!
99人が悲鳴を上げる中、俺はただ思った。
……ほんと、めんど……
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