頭の中で思い描いた小説が、直接出力されるようになった世界

夕日ゆうや

盗作

「これが頭の中で思い描いたものが小説にできる装置か」

 俺はふむふむと試作機を触ってみる。

 頭の上に大きなヘルメットのようなものをかぶる。

「おお。これが最新のシステムか。なら――」

 俺は頭の中でイメージした小説を描いていく。

 漆黒の魔術師。白亜の魔術師。

 その二人が争う世界。

 黒き主人公は世界を救うため、白きヒロインは世界から争いのもとである魔法を消すため。

 二つの杖が交差するとき、世界が変わっていく。


「おお。すごい。ちゃんと小説になっている」

 俺は感慨深いものを感じ、その小説を見直していく。

「やっぱり漆黒の剣士と純白の機光兵器だよな!」

 俺は小説の内容に満足すると、小説出力機の持ち主に金を払い出ていく。

 持ち主は隣にいた開発者に言う。

「な。問題ないだろ?」

「……しかし、被験者の脳を電気信号で誘導するなど」

「何を言っているんだ。キミの研究は素晴らしい。これさえあれば人の脳を上書きできる」

 からからと笑う持ち主。

「そうだ。これから祝賀会を開催しよう。あの男も自分の小説ができたと、喜んでいただろう?」

「あれはAIが書いた小説ですがね。あの男の断片を読み込んだだけの」

「いいんだよ。人間、完璧じゃないんだから」

 正論を言われてしまったと研究者風情の男は黙る。

 かくして脳から出力をする小説は完成した。


 一部の欠陥を残して……。

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