第3話菓葬
曇天の空に弔辞の鐘が鳴り渡る。
今日の主役である少女は、白百合に囲まれた棺の中で、花よりも白い顔をして、芳しい百合の褥の中で横たわっていた。
友人の少ない少女の葬儀に訪れる者は少なく、彼女は彼岸花の氷菓を食べて自死したのもあって、それがますます参列者の足を遠のかせた。この国では自殺は地獄に堕ちるという言い伝えがあるから。
少女の両親が憔悴しきった顔で弔問客の相手をしていると、少女の婚約者である痩身の青年が花束とピンクのドレスを抱えながら迷いなく、少女が眠っている棺へと歩を進めた。
そして、簡素な白いドレスを着た彼女の重ね合わせた両手の上に、砂糖のような芳香がする、溶けそうなほど甘い芳香がする、硝子のように華奢な花弁が美しい飴花の花束を置く。花言葉は、神さまの舐めかけ。
彼は、もう花束を受け取ることは二度とない、死後硬直した彼女の両手をしばし見つめると、
「…もう、貴女の澄んだ声が私の名前を呼ぶことはないんだね」
と、モンブラン色の眸から、慈雨のような涙をこぼし抱えていた、まるでミルクに浮かべた苺のような、薔薇色のドレスを彼女の遺体の上にばさり、と置いた。
「ほら、貴女が好きな色のドレスだよ。貴女の17歳の誕生日のプレゼントとして、仕立ていたんだ。
きっとこれを着た貴女は、天使のように可憐だったことだろう…見られなかったことが本当に残念だ。
その、蜂蜜色の眸にも、綿菓子のような巻き毛にも、よく映えていたはずだろうに」
死んだ少女の婚約者は、死化粧を施した少女の頬をそっと包むと、その氷菓のように冷たい毒味の唇に接吻を落とした。
そして、彼女の白い貝殻のように閉ざされた瞼を見つめ、薄い栗色の眸からまた一筋の涙をこぼす。
「どうやら、毒林檎を食べた白雪姫に再び会うためには、冥府の柘榴を食べないといけないようだ」
——その葬儀から数日後の社交界では、ならず者に純潔を散らされて、絶望のあまり毒を飲んで死した伯爵令嬢の後を追い、彼女の婚約者だった美貌の公爵家嫡男が拳銃で自分の頭を撃ち抜いて死亡したことが、貴族たちの口の端に悲劇としてのぼり、淑女たちのハンカチをしばらくの間濡らしていた。
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