第1話 エトランレッド、登場!(前編)
「『ごめんなさい、私、他に好きな人がいるから……』だってさ!」
女性は大げさな演技で頭を下げたかと思うと、弾かれたように顔を起こして目の前の男性をからかう。
「おい! なんで橋田さんのセリフ全部言えるんだよ!」
「だって、あんな大声で告白したら誰だって聞こえるわよ!」
それほど大きくないファミレスは、そんな男女のやりとりをかき消すほど賑わっている。
男女のうちの一人は「
「いい加減やめたら? 大学でもあんたのことが噂になってるわよ?」
「やだね! 俺は大学生のうちに彼女を作って、彼女とイチャイチャするのが夢なんだ!」
「ばっかみたい。あんたみたいな変なやつと付き合う女性なんか、いるわけないじゃない」
「そんなの、付き合うまでわかるもんかよ」
烈人は入れてきたばかりのドリンクをあっという間に飲み干し、新たなドリンクを入れるために立ち上がった。
「あ、私も入れてきて。ウーロン茶でいいから」
「自分で行けよ」
「今日はあんたの愚痴を聞きに来てるんだから、いいじゃないの」
「ちぇっ、彼女ができるかなんて賭けるんじゃなかったぜ」
仕方なく両手にグラスを持ってドリンクコーナーに並ぶ。ふとすぐ近くのテーブルを見ると、カップルがイチャイチャしながら食事をしているのが目に入った。
「くっそぉ…… 俺も橋田さんに告白が成功してたらあんなふうにっ!」
程なくして食事が終わり、二人は外に出る。
「ごちそうさま〜 またフラれたら連絡して」
「うっせー! 今度こそおごらせてやるからな!」
「きゃあああああああーーーー!!」
「な、なんだ、叫び声?」
「見て烈人! あそこのカップルが!」
烈人は栄子の呼び出す方を見ると、先ほどイチャイチャしていたカップルが妙なアニマルコスプレをした連中に襲われていた。
「う、うわぁーーーー!!」
『ビー、ビーーー!!』
「いや、きゃああぁぁぁーーーー!!」
それだけではない。周囲の人々がやはり同じアニマルコスプレをした連中に襲われていた。
「な、何何ナニ!?」
「あっ、危ない栄子!!」
『ビ、ビーーーー!!』
栄子の叫び声にアニマルコスプレの怪人が気が付き、ダッシュでこちらに向かってくる。
「「危ない!」」
その声は二方向から聞こえてきた。
一つは栄子を庇う烈人から。
もう一つは、そんな二人とコスプレ怪人の間に入った、青い全身スーツの男から。
「はぁっ!」
『ビガッ!』
青いスーツの男は全体重を乗せたパンチを繰り出すと、コスプレ怪人は吹っ飛び体を痙攣させて倒れた。
「大丈夫ですか!?」
「え、ええ…… あの、いったい何が」
「あなたは勇気がある。けれど、一般人があの『
「り、あにまる?」
「とにかくここから離れて!」
フルフェイスヘルメットの中からする声は、烈人たちにそう呼びかけた。
「わ…… わかりました」
『ビビーーー!!』
烈人は立ち上がって栄子を起こそうと手を伸ばすと、そこへ別の怪人が襲いかかる。
「危ない、栄子ぉ!」
「きゃぁあっ!!」
とっさに烈人はパンチを繰り出す。なんとその攻撃は幸運にも怪人に命中し、あろうことかそのまま怪人を吹っ飛ばして栄子を窮地から救った。
さらに驚くべきは、吹っ飛ばされた怪人は目の前で光の粒となって消えてしまう。
「……いまのは?」
「へ? いや、幼なじみを助けようと無我夢中で……」
青いスーツの男は少し考えて「ちょっと来てくれませんか?」と烈人の手を掴むと、栄子の目の前から忽然と姿を消した。
「……烈人?」
栄子が振り返った先には、もう誰もいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます