13歳のまま。
@Leto_
プロローグ
目が覚めたのは昼だった。
いや、昼かどうかなんて正確には分からない。ただ、付けっぱなしのデスクトップのモニターが十二時を示しているだけだ。遮光カーテンは光を拒み、部屋は夜よりも暗い。俺の世界は、いつからか太陽の存在を気にしなくなっていた。
体を起こそうとする。すぐに後悔する。
腕も脚も、自分のものじゃないみたいに重たい。筋肉は二十年前のどこかに置き忘れてきたようで、起き上がることは“行動”じゃなく“決意”になっていた。ウケる……いや、笑えない。
ベッドの上で手を伸ばし、机の上のパソコンに触れる。
昨日のまま開きっぱなしのゲームがそこにある。
もう何年も、日々はこのゲームの中で繰り返されている。生きてるでも死んでるでもない時間が、今日もゆっくり腐っていく。
腹が減ったことに気づき、声を出す。
「飯!!!」
返事はないが、足音が近づいてくる。
扉が少し開き、光が一筋だけ差し込む。眩しくて顔をそむける。
母親がトレーを置き、何も言わずに去っていく。俺も礼なんて言わない。言えない。言ったところで、何が変わる?
食べながらもゲームは止めない。
味はほとんど分からない。ただ口に押し込んで、噛んで、飲み込んで、また続き。
脳はほぼ死んでるのに、指先だけがまだ動いてくれる。
ふと思う。
俺はクズだ。生きる意味なんてない。死にたい。でも死ぬのは痛いし怖い。
その往復運動に疲れてしまって、結局何もしないまま今日が終わる。
三十五になって、二十年近く引きこもっているのに、
布団の中の俺は今でも十三歳の夏休みを生きている気がした。
宿題も、未来も、「明日」も、永遠にあると思っていたあの頃のまま。
俺はどうして、こんなところにいるんだろう。
誰も来ず、誰も見ず、誰の記憶にも残らないまま、沈黙だけが時間を流していく。
そして今日もまた、同じ一日が積み重なっていく。
変わらないことにしがみつく方が、変わるよりずっと怖くなくなってしまった世界で。
だから今日もまた、同じ一日が流れていく。
変わらないことが、もう変わることよりも安心になってしまった世界で。
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