哀れみたまえ、わが神よ
水森 凪
第1話
ガザ出身の医師のドキュメンタリー映画「私は憎まない」https://www.youtube.com/watch?v=7-FlDJNSTlQ&t=1s
だいぶ前に友人に勧められてみたんだけど
過去一見るべき映画で、過去一えぐられて、生涯忘れられない絶望をこの魂に刻み、過去一見るべきじゃなかったという矛盾した映画だった。
パレスチナとイスラエル双方で医師を務めるパレスチナ人男性が主人公。
彼は家族を愛し、娘たちを愛し国境なく人を愛し、双方の国に友人も多く、
パレスチナ人の赤ん坊もイスラエル人の赤ん坊もその手で取り上げる。そして祝福する。
その彼の自宅が、家を取り巻くイスラエル軍の戦車によって砲撃され、彼の目の前で娘たちは血まみれになって息絶える。
彼は驚きと悲しみに絶叫し、イスラエルのテレビ局のディレクターである友人にその場で電話をかける。
今自分に起きたことを見てくれ。
自分の娘たちの死体が目の前に転がっている。
どうして娘たちは死ななければならなかったんだ。彼女たちが何をした。
ディレクターは観客を前にした生放送中だったが、あえて彼の送ってくる画像をその場で流す。
親友が、国籍がすむ地が違うというだけでどんな目にあっているかを、同胞であるイスラエル人の観客たちに見せるためだ。
画面に血だらけの娘たちが映り、医師が叫ぶ。
わたしは何を学べばいいというのか、この光景から。
観客は口に手を当て、絶句する。
「ロシアンズ」を祈るように歌ったSTINGが、今どれだけ絶望しているかが伝わってくる。
世界はヒトラーだらけだ。
人間には人種国籍民族によって虫けらのように殺していい一群があって、今殺虫剤をまいている連中に命を思いやる心がなくしかも天罰が降りないなら
私は生涯、神も創造主も超自然の力も信じない。
全てはひとがやったこと。
ひとに鉄槌を下しほろぼすのは、武器でも最終兵器でもない。
精子は世界規模でどんどん減り続けている。少子高齢化に、小手先の政策は通じない。
精子が消えてゆけば人類は滅びる。そういう宿命なのだから。
あまりに不都合な真実すぎて、人の力の及ぶことではないのでニュースで声高に叫ばれないが、ちょっと調べればこの絶滅への兆候はすぐにわかるだろう。ネットは便利だ。
文明国だけではない、実は多産が特徴のアフリカや南米でも減り始めている。いずれ地球の人類は淘汰される、その前哨戦を私たちは「絶望した神」の先導で繰り広げている。
「ぼくのかんがえたさいきょうのへいき」を持ち出して、愛国心がイデオロギーが云々と言いながら。
いいことだ。とてもいいことだ。
神が望まれたことをその通りに行う、神の奴隷たちは踊りに踊る。いいことだ。
そんな風に開き直る私の胸にも、医師の言葉は刺さる。
「それでも私は憎まない」
神よ、心正しい人たちにいま少しの憐れみをください。
<了>
哀れみたまえ、わが神よ 水森 凪 @nekotoyoru
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