第2話 ざまあみろ!は大事な時にっ!?地獄の宴会

——そこまでは。




 最初の一時間、エルマはただ地獄を味わっていた。貴族たちのひそひそ声。 意味深な笑み。 さりげない距離の取り方。




 “わかりにくく意地悪”を極めたような態度のオンパレード。




 (いやいやいや、転生一発目でこれ?心折れるんだけど!?)




 ワインをこぼされるとか、露骨な嫌がらせは一切ない。 


 代わりに、「見てるのに見てないフリ」「微妙に1歩だけ距離を空ける」「話題に混ざりかけると空気だけ変わる」


 そんな“貴族のいじわる高等テク”が飛んできた。




 会場は豪華絢爛なのに、空気は真冬。




 (ねえ、私なんかしました!? 婚約破棄される予定だからって冷風当てるのやめてもろて!?)




 そんな中、主催者が言った。




「では次に、エルマ嬢が——“文芸の御披露目”をされるそうだ」




 会場がざわつく。




「……あれ、聞いてないんですけど私?」




 ハンナとマリアは平然としていた。




「お嬢様、今日のために練習してきた“設定”ですわ」


「披露しなければ、それはそれで“無能扱い”になりますので」




 (は!?私そんなチートスキル持ってないんだけど!?)




 でももう遅い。全員の視線がエルマに向けられる。逃げ場はない。




 深呼吸する。


 せめて、転生前に書いてた“ポエムもどき”“物語メモ”“黒歴史ノート”の残滓を思い出して——




「……拙いものですが、一篇だけ……」




 空気が止まった。 そして、エルマは詩を読み始めた。






↓ここから、エルマの妄想タイムスタート!↓






詩を読み終えた瞬間、空気が変わった。


 ほんの一瞬だけ、気取った貴族の目から“魔法”が溶けるように柔らかさが戻った。




「……今の、エルマ嬢の作?」「詩が……胸に刺さる……」「意外だ……いや、これは……」




 ざわつきが広がる。


 あれほど見下したような表情を浮かべていた令嬢たちも、思わずため息をついていた。




 (あれ……? なんかウケてない?)




 エルマ自身が一番驚いた。


 だって、ただの黒歴史ノート改変版だよ!?


 転生チートでも才能覚醒でもなく、普通の“趣味ポエム”だよ!?




 でも、その“普通さ”が逆に貴族社会には新鮮だったのだ。 この場に似つかわしくない、素朴で剥き出しの言葉は—— 刺さる人には、刺さる。


 ハンナが小声で囁く。




「……お嬢様、大成功でございます」




 マリアも満足そうに微笑む。




「“目利き”の奥方たちがざわついておりますね……。これは、今後の立場の追い風になりますわ」




(マジかよ……転生一発目でスキル【黒歴史ポエム】がバズったんだけど……!?)




 宴は最悪だった。


 でも、最悪の中で放った一篇の詩が、空気を変えた。




 エルマの胸に、小さな灯がともる。




 ——いけるかもしれない。


 ——この世界、案外どうにかなるのかもしれない。




 そんな、ほんの少しの希望が。






↑これで、エルマの妄想タイム終わり!!↑






夜風にさらされながら、私は中庭へ逃げるように出た。


 さっきの宴は、まるで公開処刑だった。




 転生一発目で、こんな仕打ちってアリ?


 そう思わずにはいられない。




 ワンピースの裾には、彼らがわざとつけた泥の跡が残っている。袖口には、陰湿な“細工”で破れた小さな裂け目。


 形式上は偶然を装っていたけれど、誰がどう見ても、あれは「貧乏子爵家に生まれ変わった私」への嘲笑だった。




 その中心にいたのが、元婚約者のエイミー。 彼女は笑っていた。恋人を新しく得た“勝者”の余裕。


 周囲に見せつけるように、私を過去扱いして。




 そこまでの扱いをされて、私が黙っている理由なんて――ない。




「……ふうん。そう来るんだ」




 月明かりの下、私は深呼吸を一つ。 この世界に転生してから、やることは山積みだと思っていたけれど、まずは“ここ”から片付けるべきらしい。




 広間へ戻ると、まだ宴は続いていた。 だが私が入った瞬間、ちょっとしたざわめきが起きる。 嫌な視線と、露骨な探る目。 まるで見世物。




 それでも、私は歩いた。 テーブルの一番前――貴族たちの視線が集まる場所まで。




「ひとつだけ。せめて“最後の挨拶”ぐらい、させてもらえますか?」




 エイミーの眉がぴくりと動く。


 拒否したかったのだろう。でも周りの空気を読む能力がないほど愚かではない。


 彼女は甘い微笑みを浮かべて、許可を出すふりをした。




「……どうぞ? せいぜい、恥を上塗りしないように」




 これが合図だった。




 私は、前世の記憶ごと“武器”を取り出す。


 この世界ではほとんど知られていない、現代風の短詩。


 リズムと言葉の抑揚で、耳を奪う文芸。




 静かに、一行ずつ紡ぐ。




 夜に沈んだ心


 誰も知らぬ影を踏みしめ


 なお、明日を選ぶ者へ


 月はそっと光を置いていく




 短い。


 けれど、貴族の空気が変わるのがわかった。




 小さな息。


 ドレスの裾が揺れる微かな震え。


 誰かの手がワイングラスを落としかけて慌てて支えた。


 理解できない種類の“美しさ”に触れた人間が漏らす反応。




 そして最後に、私ははっきり言った。




「私はもう、誰かの装飾でも、捨て札でもありません。


 今日、恥をかかされたことは忘れませんが――


 ここが、私の“はじまり”です」




 エイミーの笑顔が、固まる。


 周囲の貴族たちはお互いの表情を読むように視線を動かし、ざわざわと空気が揺れた。




 ――転生一発目でこれか。


 でも、まあいい。


 どうせなら徹底的にやってやる。




 私は胸の奥で、ひそやかに笑った。




ざまあぁみろ!は、大事な時に取っておこ!


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