第11話 黒髪ロングの清楚系

「えー今日は1日、明日の体育祭のための準備の日ということで、みんなにはグループになってもらってそれぞれ準備をしてもらいます」




 なんやかんやあって今日は体育祭の前日。朝のクラスルームでは佐野先生が体育祭の準備について説明をしていた。




「グループはもうこっちで適当に決めちゃってるから、そこの紙を読んで各自でグループになっちゃってください。みんながグループになったら、やること教えるから」




 佐野先生がそう言うと、みんなはがやがやと話しながら黒板に貼られたプリントを見に行った。レナはそれに付いて行きながらも、これから始まることに胸が重くなっていた。




「体育祭だけでもかなりの苦行なのに、それに加えてグループ活動...うぅ、やりたくないよぉ......」




 初登校の日から今日で一週間と4日。レナは授業や教室移動はなんとかできるようになってきたが、グループ活動などの人と話すのはどうしても無理だった。意見を言うのはおろか、グループメンバーの顔すら見れなくなってしまう。まぁ、レナのクラスメイトは幸い良い人ばかりだったので、そんなレナを暖かく見守ってくれていたのだが......残念ながら、レナは未だになれることができないでいた。




「あ、レナ。私達、同じグループだったぞ」




 そうレナに話しかけてきたのは沙也加だ。レナが沙也加にプリントを出しに行った日から一週間、沙也加はほぼ毎日のように魔法戦への勧誘を続けてきた。それなのでレナと沙也加は少し話すような仲になっている。ただし、レナの方から話しかけることは絶対にないが。




「あ、沙也加さん...ありがとうございます」




 レナは沙也加の方に振り返りながらそういう。沙也加はすでに他のメンバーを集めていたようで、沙也加のそばには恭平と、あともう二人の男女がいた。




「恭平は知ってるな?レナ。お前の転校初日にナンパをしてきたキチガイ野郎だ」


「おいおい、沙也加。流石にそれはひどくないか?そんなことより今度一緒にデートをsボギャッ」


 


 恭平の言葉が途切れたのは沙也加が恭平の頬を華麗なる裏拳でぶん殴ったからである。




「それでこっちにいるザ・体育会系みたいなやつが大河。明日の体育祭で私と一緒に魔法戦に出るやつだ。んでもう一人の黒髪ロングの清楚系の美人は琴葉。えっとこいつは...まぁ、本人から聞いてくれ。ソッチのほうが良いだろうし...」




 沙也加は最後の方を濁しながらも彼らをそう紹介した。




「よろしくな!白木!」


「よろしくお願いします。レナさん!」


「よ、よろしくお願いします...」




 二人の輝くような笑顔を見ると消えてしまいたいなぁ、と思うレナだった。




「おっしゃ!気合い入れていくぞ!」


「お、おー!」




 沙也加の掛け声に戸惑いながらも合わせてくれる彼らはいい人たちなのだろうと、レナはそう思った。






 


                       ◆






 


「うぅ、重い......」




 レナのグループに割り振られた仕事は校庭にパイプ椅子を並べて観客席を作ることだった。




「なんだ?レナ。それくらいで限界か?私なんか一気に5個持てるぞ!」




 そう言ってくるのは右手に2個、左手に2個、そしてどうやっているのかわからないが頭に一個パイプ椅子を乗っけた沙也加だ。




「ふっ甘いな、清水←沙也加の苗字。俺は6個同時に持てるぜ!」




 汗を垂らしてふうふう言っているのは左右に3つずつパイプ椅子を持っている大河だ。




「なんだと、なら私は7個持ってやる」


「なら俺は8つだ!」




 そう言って沙也加と大河は走ってパイプ椅子を取りに倉庫へと帰っていった。




「あらあら、何をしているのだか」


「ほんと、こんな暑い中よくやるよな。ところで今度俺とデートしn」


「お断りします」




 隙あらばナンパしてくる恭平を軽くいなすのは琴葉だ。




「まってくださいよぉ。おいていかないでくださいぃ」




 レナは絶望的な体力の無さでみんなからはどんどんと離されていた。




「白木、お前流石に体力なさすぎじゃないか?」


「魔法はすごいのにね。この間も恭平をどーんって吹き飛ばして。すごかった」


「うぅ、それは言わないでください...」




 その情けない姿はとてもトゥエルブ・セインツとは思えない。




「ところで白木は何の種目に出るんだ?」




 レナが恭平と琴葉に追いついたところで、恭平がレナにそう聞いた。




「はぁはぁ...えっと確か借り物競争と玉入れだけです。あんまり動かなさそうなのが良いなって思って...」


「へぇ、そうなんだ。琴葉は?」




 恭平は琴葉に向かってそう言った。




「私もあまり動かない種目を選んだから、借り物競争だけよ。お腹の子に気をつけないといけないし」


「そうか、もう4ヶ月だもんな。男の子か女の子かは分かったのか?」


「それはまだわからないの。でもお医者様が言うには来月にはわかりそうだって」


「???????」




 レナは突然始まった理由のわからないトークに頭の上にはてなを浮かべた。4ヶ月?お医者様?何のことかわからない。いや、正確には分かるのだが、あまりに衝撃的すぎて頭に入ってこない。




「名前とかって考えてるのか?」


「まだ考えてないわ。男の子か女の子か分かったら決めようとは思っているのだけれど」


「男の子だったらやっぱりかっこいい名前とかが良いのか?」


「そうねぇ、やっぱりそこはかっこよさを求めちゃうわよね。レナさんはどう思う?」


「えっ私ですか!?てかちょっと待ってください。話の流れ的に琴葉さんが妊娠してることになってるんですけれど、それって冗談ですか...?」




 急に話を振られ驚きながらも、レナは思わずそう聞いた。




「えぇ、もちろん。知らなかったの?この学校では全員が知ってることよ」


「学校のマドンナが妊娠したって知ったときはクラス中の男子が衝撃を受けてたな。次の日ほとんどの男子が登校してなくて笑っちゃったぜ」




 なんでもないことのように言う恭平と琴葉にレナは戸惑いを隠せない。




「あ、あの...失礼だとは分かっているのですがお相手は...?結婚されてるのですか?」




 恐る恐る聞いたレナに、琴葉はサラリととんでも発言を返す。




「相手?とっくのとうに捨てられたわよ。私が妊娠したって知った瞬間音信不通。まあ、大学にも来なくなったって聞いたからそこは生成しているけれど」


「......」




 レナは頭の中で情報を整理する。




「えっと、じゃあ琴葉さんの元カレは大学生で琴葉さんが妊娠したのがわかった瞬間逃げたってことですか...?」


「まぁ、そうね。レナさんも大学生のチャラいやつには騙されないようにね。まぁ、身近にこんな恭平がいるから騙されないとは思うけれど」


「おい、俺はそんな最低野郎じゃないぞ」


「だけども、日頃の行いがね...気をつけないと、どこかで恨みを買ってからじゃ遅いわよ」


「ヒドイ良いようだなぁ」




 そんな恭平と琴葉の会話はレナの耳にはもうほとんど入っていない。




「私は十個持ったぞ!9個のお前より上だ!」


「だけどお前、途中で2個おとしてただろ!俺の勝ちだ!」




 後ろからはそう言い争う沙也加と大河が近づいてきていたが、頭がオーバーヒートしていたレナはそれには気づいていなかった。


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