第7話 お前も魔法戦の選手にならないか?

「今日部活ある?」


「あるー、しかも今日フィジカルの日だよ。筋トレヤダなー」


「どんまい、私今日部活休みー。カラオケでも行っちゃおうかな」


「えぇ、ずるー」




 帰りのホームルームのあと、生徒たちは友達と話しながら、あるいは急いで部活のカバンを引っ掴んで、教室から出ていった。




「はぁぁぁ、ようやく1日が終わった......」


 


 レナもカバンを持って立ち上がる。しかし、そのカバンはとても重く感じられた。




「早く...家へ...」




 レナがこんなにも疲れているのには理由がある。もちろん初登校やレナが人見知りだというのもあるが、1番の理由はクラスメイトがグイグイと話しかけてきたことだ。クラスメイトいわく、この学校に転校生が来ることは珍しいのだそう。その上、レナの目立つ白髪、ホームルームを爆破したことと、興味を引くことがたくさんあった。休み時間のたびにみんなに囲まれて質問攻めにされるのも無理はないだろう。まあ、そういうことでレナのライフは残りミリの状態になっていた。




「家に帰ったら、ベッドにごろんして夜ご飯まで眠るんだ......」




 そう言いながら教室から出ようとする。しかし、




「ああ、ごめん。レナさん、ちょっと時間くれない?」


「...」




 そこは問屋がおろさないようだ。佐野先生に声をかけられ、レナは初日から居残りをする羽目となった。








                   ◆








「ごめんね、時間とっちゃって」


「いいえ、大丈夫です......」




 場所は移って職員室。佐野先生は渡したいものがあるとかいって机の引き出しをガサガサしている。




「あぁ、あったあった。これだこれ」


「なんですか、このプリント?」




 佐野先生の取り出したプリントを見てレナはそう聞いた。




「体育祭の案内のプリント。再来週体育祭があるんだけど、その案内のプリントだね。結構大切なことも書いてあるからしっかり読んでおいてね」




そう言って佐野先生はレナにプリントを渡した。そのプリントを軽く読んでみると、レナは無視できない文を見つけた。




「あの、ここに書いてあるやつなんですけれど......」


「ん、どれどれ?」


 


 レナが指さしたところを見て、佐野先生は思い出したかのように言った。




「ああ、忘れてた。うちの高校の体育祭では一人一人が必ず何らかの役割を持つことになってるんだ。例えば司会進行だったり、当日の裏方だったり。あと、陽光学園の伝統で毎年魔法戦の模擬戦をやるんだけれど、その選手も役割にできるよ」




 レナはその言葉に絶句した。ただでさえ苦手そうな体育祭にそんなものまであるとは。生き残れる気がしない。




「それは絶対ですか......?」


「絶対だね。必ず一つの役割、仕事はやらないといけない」




(終わった......ありがとう、私の短い人生......)




 レナの頭には体育祭で大ポカをやらかして、クラスメイトから...おっと、この先は書かないでおこう。




「まあとりあえず、実行委員の清水さんのところに行ったらいいよ。多分大体のことは教えてくれると思うから。この時間だったら多分生徒会室にいると思うし」


「わかりました......」




 レナは覚悟を決めてその清水さんを尋ねることに決めた。








                  ◆








「あの...すみません」


 


 レナは生徒会室の扉を開けながら、そう言った。中には数人の生徒がおり、それぞれパソコンで作業をしていたり、ポスターを書いていたりと様々だ。




「あ、転校生の子?噂聞いたよ。あの恭平をぶっ飛ばしたんだって?やるじゃん」




 1番おくに座っていたショートカットの髪の毛の女の子が、レナのことを見てそう言った。




「あ、はい...。あの、体育祭の仕事についてなんですけど、佐野先生にここに行けって言われて...清水さんっていますか?」


「あぁ、体育祭のやつか。こっちきて。私が清水沙也加。沙也加って呼んで」




 レナの話しを聞いて、清水さん―沙也加はそう言うと、立ち上がって奥の棚へとむかった。書類の入ったフォルダーをガサガサしながら、レナに話しかける。




「なにやるつもりなの?私は断然魔法戦を推すけど」


「私は裏方で...あまり目立たないのがいいなって思って」


「裏方でいいの?魔法戦、楽しいよ」


「大丈夫です...」


「本当に?」


「はい...




 なぜかやたらと魔法戦を推してくる。沙也加の圧にレナは潰されそうになってしまっている。




「ちょっと、会長やめてあげてくださいよ」


「そうですよ、いくら会長が魔法戦が好きでも人に押し付けるのはどうかと思いますよ」




 沙也加の圧に押されているレナを見て、生徒会室にいた他の生徒たちが助け船をしてくれた。




「でもなぁ、今日の朝恭平を魔法でぶっ飛ばしたって言うし、それに試験の時の魔力測定の噂も気になる。やっぱり優秀な選手はちゃんとスカウトしておかないと」


「それでもだめです」




 生徒会のメンバーたちはこのやり取りになれているようで、「またか」という雰囲気で話が進んでいくが、生徒会のメンバーどころか普段人とほとんど話さないレナは一人だけ話のながれからおいてかれていた。


 一人ポツンとつったってしまったレナに、思い出したかのように沙也加が言った。




「そうだそうだ、文化祭の役割の話しをしていたんだった。とりあえず、この中から選んでおいて」




 そう言って見せてもらったプリントにはたくさんの役割の名前がずらりと書かれていた。レナはそれに目を通して、1番目立たなさそうなものを探す。




「あ、これにします。当日の裏方するやつ」


「これ?おっけー、じゃあそう書いておくね」




 そう言ってプリントにレナの名前を書き込む沙也加。書き終わった沙也加はプリントをファイルに戻すと、レナに向かってもう一度言った。




「もし魔法戦に出たくなったらいつでも言ってね」


「あ、はい......」




 どうやら沙也加はまだレナを勧誘するのを諦めてないようだ。

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