魔女の学級日記 ―引きこもり魔女はJK生活を無双?する―

HAL

第1話 不幸の電話

「この世界には、魔法が溢れている」この言葉を言ったのは、誰だっただろうか。 


 遡ること、八十年前。第二次世界大戦が終わり、世界に平和が訪れた頃。一人の男の子が、この世界に生を受けた。その男の子は、驚くことに、魔法の力を持っていた。念じるだけで、ものを動かせる。空に浮かぶことができる。まさに、人類が夢見ていた力だった。そして更に驚くことに、この、魔法の力を持った子供達が次々と生まれたのだ。二十年もすれば、人類の大半は、魔法を使う事ができるようになっていた。かくして、人類が夢見た魔法のある世界、魔法が日常にありふれている世界ができたのである。  


 




                         ◆






  プルルルルル......プルルルルル......  




 ベッドの脇におかれたスマホが鳴っている。カーテンの隙間から太陽の光が入る部屋。その部屋の隅のベ ッドで寝ている少女がいた。




 プルルルルル......プルルルルル......  




 スマホは鳴り続けているが、少女が目を覚ます気配はない。すると電話の主は諦めたのか、スマホからピコンとメッセージを受信した音がなっあた。その、メールの宛名は「星の英雄、テスタ・テスラ様」。  太陽の光に照らされながらも、少女はなおも眠って......




  ガチャ  




 おっと、誰かが来たようだ。鍵の回る音がしたと思えば、部屋のドアが開いて一人の人が入ってきた。年の頃は20代といったところの女性。背の丈は普通。体型も普通程度だが、一つだけ普通の人には絶対に無いだろうという特徴がある。なんと、その女性はメイド服を着ているのだ。この現在にメイド服なんてものはコスプレの時ぐらいしか着ないものである。部屋のザ・普通の部屋といった外見とも相まって、なんともミスマッチだ。  その女性はベッドに近づき、少女の顔を覗き込んだ。そして少女が気持ちよさそうに寝ているのを確認すると小さくため息をつき、そして......




  「レナ様、起きてください!もうお昼です!」  




 そう言って少女の布団を思いっきり剥ぎ取った。




「うぅ......なに?まだ眠いからもうちょっとだけ寝かしてよ......」




 レナ様と呼ばれた少女はそう言って剥ぎ取られた布団を取り戻そうと、手足をバタバタさせる。その様子を見たメイド服の女性はまたもため息をつき、そして呆れたように言った。




  「一体何時間眠るつもりなんですか......もうお昼の12時です。レナ様、少しはご自身がトゥエルブ・セインツが一人、テスタ・テスラだということをご自覚ください」  




 トゥエルブ・セインツとはなにか。その問いに答えるには、少しこの世界の説明をしないとならない。前提としてこの世界は地球とほぼ同じである。日本やアメリカといった国もあれば、スマホやSNSといった現在の機器もある。この世界は2025年の我々が住む地球とほとんど同じ様子をしているのだ。しかし、決定的に違うこともある。それは、この世界の人々は魔法を使えるということだ。そして、魔法は日常に溶け込み、生活になくてはならないものとなっている。  




 しかし、魔法が使えるということは個人の力が強まるということ。当然のように魔法を悪用して犯罪行為を働くものも出てくる。中でもその最たるものが「魔王軍」と呼ばれるテロリスト集団である。彼らの目的は自分たちの国を創ること。そのために世界中で侵略行為や犯罪行為を繰り返している。  




 それに対抗するために生まれたのが国際魔法連盟、「ICM」である。 ICMは魔法に関する国際機関であり、 魔法に関する規則、ランクなどを扱っている。また、魔王軍との戦闘が勃発した際、最前線で戦うことになるのがICMである。  




 そして最初のトゥエルブ・セインツとは何か?という問いに答えるのがランク制度である。国際魔法連盟が定めるランクは一級から五級まであり、大抵の大人はに4級のランクを持っている。3級が人口の10%、2級が1%、一級ともなると1%を切り、普通に暮らしていたら彼らに会うことはなくなるだろう。しかし、その枠に当てはまらないほどの実力を持つものもいた。そのような人々のために作られたのがトゥエルブ・セインツである。世界で12人しか得ることのできないその称号は、皆のあこがれと同時に絶対的存在ともなっている。


「そんなの知らないよ......なりたくてなったわけじゃないし。それれよりも睡眠のほうが大切......」




 少女は眠い目をこすりながらそう言った。その様子を見て、メイド服の女の人は3回目のため息をつくと、少女に言った。




「レナ様、それでもあなたはトゥエルブ・セインツなんです。せめて規則正しい生活をしてください」  




 白木レナ、それが少女の名前である。身長145センチ、小柄で幼く見える背格好。日本人だが、とても美しい白い髪をしている。年齢は16歳の高校2年生だが、ご察しの通り学校には通っていない。生粋の引きこもりである。    




 そんなレナがトゥエルブ・セインツになったのは今から2年ほど前。魔王軍とのニューヨーク攻防戦にて、味方の軍が窮地に陥っている所を、たった一人でほとんどの魔王軍を倒して救った。その時の年齢は14歳。史上最年少でのトゥエルブ・セインツである。




  「でも、ロバート会長もトゥエルブ・セインツになってくれたら一生ゴロゴロしていていいって言ってたじゃん。約束と違うよ」  




 レナは不満そうにそう言った。




「それでも限度というものがあるでしょう!今日も12時起き、しかも一週間連続で!私はレナ様の健康を預かってる身なんです。さすがに見過ごせません」


  「わかったよ、緩井さん......とりあえず起きるから......」




 ちなみにメイド服の女性の名前は緩井さん。長い黒髪と眼鏡が特徴だ。ちなみに名前と違ってメッチャ厳しい。


「よいっしょっと......ん、メール来てる......誰からだろ?」


   


 ベッドから降りようとした時、レナはスマホにメールが来ていることに気がついた。




「うわ、それに不在着信もいっぱい......。緩井さん、誰だか分かる?」




 引きこもっているレナには友達と言えるような人はいないので電話やメールがくるのは珍しい。




「そう言えばロバート会長がレナ様に今後のことに伝えることがあると言っておりましたが......それでしょうか?」  




 緩井さんはレナのベッドをきれいにしながらそう答えた。




「ふーん?めんどくさいやつじゃないといいけれど......」 




 レナはとりあえず電話をかけてみることにした。スマホの電話帳の一番下にあるロバート会長の電話番号をタップする




  プルルルルル......プルルルルル......プルル「あ、レナ君?久しぶりだな!」  




 数回のコールの後、電話に出た声はとても元気だった。レナはそんな声が寝起きの頭に響いたのか、右手で頭を抱えた。


 


「君から書け直してくれるとは思ってなかったよ!ちょっと嬉しすぎて舞い上がってしまいそうだ!」   電話に出た男は、あいも変わらずのハイテンションでレナにそう言った。その調子にレナは頭が痛くなりなる。まあ、朝ではないが。




「それで用件は何ですか?できれば手短にお願いします」


「なんだい?冷たいなー。久しぶりに話すんだからもう少しいいじゃないか」




 ちなみにロバート会長は40過ぎである。国際魔法連盟の会長としてはとても若いのだが、世間一般から見たらキモいおじさんが女の子にちょっかいを掛けているようにしか見えない。




  「まあ、いいか。それじゃあ悪いんだけれど9月から高校に通ってくれない?学費とかはこっちが出すから」


「はっ???????」  




 レナはロバート会長の言葉を聞き、頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。


(高校?私、小学校すら行ったことがないのに?意味がわからない......)




「えっと......それはどういう意味ですか?」




 レナは聞き間違いだと思い、もう一度そう尋ねた。




「いやいや、そのままの意味だよ。高校に通ってほしいんだ。それでその通ってほしい高校なんだけれど......」


「ちょ、ちょっと待ってください!」




 話を続けようとするロバート会長を遮って、レナは叫んだ。




「会長、私の性格を分かって言ってるんですか!?超絶人見知りの引きこもりですよ!小学校すら行ったことがないのに?そんな私が高校になんて通えるわけないじゃないですか!」




 まあ、すでにお察しの方もいただろうがレナは人見知りである。それも「超」の字がつくほどに。知らない人の前では固まって一言も話せなくなってしまう。レナがまともに喋れる人といったら緩井さんとロバート会長ぐらいである。




「聞こえた内容から察しますが、レナ様が高校に行ける可能性は限りなくゼロだと思います」




 横から緩井さんもそう言ってきた。


 


「まあ、別にそんなのはどうでもいいんだよ。それで通ってほしい高校なんだけれど、陽光学園っていう魔法に特化した高校があってね。そこなら君も上手くやれると思うんだ」  




 勝手に話が進んでいく。レナはなかなか話を遮れずに困ってしまった。




「まあ、ということで必要な書類とか入学届は出して承認してもらってるから......」


「ちょ、ちょっと何言ってるんですか!?もう入学届出しちゃったんですか!?しかも承認された!?」 「うん、それと高校にいかなかったら君にわたしてる生活費打ち切るから」


「ちょ、本気で言ってるんですか!?」    




 あまりの爆弾発言に、レナは思わずそう叫んでしまった。


(ロバート会長がちょっとヤバい人だというのはわかってたけど、まさかここまでやるとは思っていなかった......)  


 レナは心のなかで絶望した。




  「まあ、そういうことだから。なんか8月27日?その日に説明とか色々したいから実際に来てだって。それじゃ」


「まっ......」




  ツーツーツー......  




 レナは止めようとしたが間に合わず、無常にも電話は切れてしまった。




「電話、切れちゃった......」  




 レナはこれからのことを考えて絶望した。


(高校?このわたしが?行けるわけない......でも行かないと生活費打ち切るって言ってるし......)




「ねえ、緩井さんどうしよう......高校に行かないといけなくなっちゃった......」


 


レナは緩井さんに助けを求めた。しかし、




「まあ、ここ数年レナ様はずっと引きこもっていたわけですし、外に出る良い機会だと思えばいいのではないでしょうか」  




 そう冷たくあしらわれてしまった。




「うう、なんでこんなことになるの〜!!!」




レナはそう叫んだが、返ってきたのは「早く着替えてください。ご飯食べ終わったら高校の説明でも読みますよ」という冷たい声だった。

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