勇者パーティで『歩く倉庫』と罵られ、奈落に突き落とされた荷物持ちの俺、覚醒した『万象収納』で魔物のブレスから『死』の概念まで収納したら、戦略級の『超越者』になり、王家公認の公爵領主になった件
第7話 S級ブレスを収納&倍返し。「死」すらもアイテムボックスに入れて無効化してやった
第7話 S級ブレスを収納&倍返し。「死」すらもアイテムボックスに入れて無効化してやった
「――『万象収納(アカシック・ストレージ)』」
俺、レント・アークライトの低い声が、轟音にかき消される。
視界の全てが黒炎に塗り潰されていた。
S級指定災害魔物『アビス・ドラゴン』の極大ブレス。
岩盤を蒸発させ、鋼鉄を飴細工のように溶かす、正真正銘の「死の奔流」だ。
普通なら、走馬灯を見る暇もなく灰になる。
数秒前の俺なら、恐怖で悲鳴を上げていただろう。
けれど、今の俺に見えている世界は、あまりにも無機質で滑稽だった。
『Warning: High Energy Detected.』
『Type: Dark Inferno.』
『Estimated Heat Capacity: 50,000,000,000 Joules.』
脳内でシステムログが高速で流れる。
迫り来る地獄の炎が、ただの「数値の羅列」に変換されていく。
まるで、ゲームのデバッグ画面を見ているようだ。
「……へぇ」
俺は口の端を吊り上げた。
熱い? 怖い?
いいや、何にも感じない。
だって、俺の指先が触れた瞬間、世界から「それ」が消えていくんだから。
シュォォォォォォ……!!
俺の右手の前で、空間がブラックホールのように口を開けている。
直径数メートルにも及ぶ黒炎の柱が、俺の小さな掌に吸い込まれていく。
まるで、掃除機で吸われる煙みたいに。
『Storing... 20%... 45%... 80%...』
脳内のプログレスバーがぐんぐん伸びていく。
本来なら、俺の亜空間倉庫なんて、この熱量の一割も耐えられずに崩壊していただろう。
アレクの魔法如きで「容量不足」を起こしていた、あの頃のポンコツスキルなら。
でも今は違う。
『Resource "Dark Flame" acquired.』
『Concept "Impact" stored.』
『Concept "Death (Instant Kill)" stored.』
「ははっ、マジかよ……」
俺は思わず笑い声を漏らした。
炎そのものだけじゃない。
その炎が持つ「衝撃」や、生物を強制的に殺す「死の概念」までもが、別々のフォルダに分類されて収納されていく。
俺の体が燃えないのは、熱いからじゃない。
俺の体が吹き飛ばないのは、衝撃に耐えたからじゃない。
俺に「死」が訪れないのは、生命力が高いからじゃない。
それら全ての現象を、発生する前に「データとして没収」してしまったからだ。
道理で、痛くも痒くもないわけだ。
「……グルッ!?」
目の前で、アビス・ドラゴンが目を見開いたのが分かった。
金色の瞳が、あり得ないものを見るように収縮している。
そりゃそうだろう。
全力で吐き出した必殺のブレスが、人間の小さな手の中で、忽然と消滅しているのだから。
手品にしてはタネが大きすぎる。
「おいおい、どうした? もう弾切れかよ」
俺はニヤリと笑い、空になった掌をヒラヒラと振って見せた。
「S級魔物って聞いてビビってたけど、案外大したことねぇな。これなら、アレクの聖剣のほうがまだ眩しかったぜ? ……あ、いや、あれもただのLEDライトみたいなもんだったか」
俺の挑発が通じたのか、ドラゴンが激昂して咆哮を上げる。
「グオオオオオォォォォッ!!」
大気がビリビリと震える。
奴は大きく息を吸い込み、第二波を放とうとしていた。
喉の奥で、さっきよりも濃密な、赤黒い光が圧縮されていくのが見える。
『Alert: Enemy is charging energy.』
『Action Required.』
システムが冷淡に警告する。
俺は肩をすくめた。
「悪いな。お前のターンはもう終わりだ」
俺は右手をかざしたまま、脳内のウィンドウを操作する。
さっき収納したばかりの『Dark Inferno』のファイルを選択。
プロパティ画面を開く。
そこには、『Output Multiplier(出力倍率)』という項目があった。
初期値は『x1.0』。
俺は意識を集中させ、その数値のスライダーを右に弾いた。
『Multiplier Set: x2.0 (Dual Release)』
『Warning: Recoil may cause spatial distortion. Proceed?』
空間が歪む?
知ったことか。
俺は今、この溢れ出る万能感を試したくてたまらないんだ。
「返してやるよ、トカゲ野郎。……倍にしてな」
俺は指を鳴らした。
「――『倍加解放(オーバー・リリース)』」
ドォォォォォォォォォォォンッ!!!
瞬間、俺の手のひらから、世界を塗り潰す閃光が迸った。
黒ではない。圧縮されすぎて、白く輝くほどの闇の炎だ。
さっき奴が吐いたブレスの、正確に二倍の質量とエネルギー。
それが、ゼロ距離でドラゴンの口腔内に叩き込まれた。
「ガ、アァァァ――――ッ!?」
ドラゴンの悲鳴は、一瞬で掻き消えた。
自分の放った炎以上の熱量で、内側から焼かれる気分はどうだ?
圧倒的なエネルギーの奔流が、ドラゴンの巨大な頭部を飲み込み、首を蒸発させ、胴体を貫通していく。
硬度を誇る鱗も、魔法障壁も、何の意味もなさない。
ただの紙切れのように消し飛んでいく。
轟音。衝撃波。
地底湖の水が一瞬で沸騰し、蒸気の爆発が起きる。
俺は爆風の中で、ただ笑っていた。
『衝撃』を収納(カット)しているから、髪の毛一本揺れない。
目の前で繰り広げられる破壊のショーを、特等席で眺めている気分だ。
「ハハッ! すげぇ……! これが、俺の力……?」
S級指定災害魔物。
国家の騎士団が総出で挑んでも勝てるか分からない化け物が。
たった一撃で。
俺の、たった一つのスキルで。
ズガァァァァァァンッ!!
光が収束すると、そこには何も残っていなかった。
ドラゴンがいた場所には、巨大なクレーターと、空間ごと削り取られたような黒い虚無が漂っているだけ。
チリチリと焼け焦げた匂いが漂う。
静寂。
圧倒的な静寂が、洞窟を支配した。
『Enemy Eliminated.』
『Experience points absorbed. Level Up... Error. Level Concept is not compatible.』
『Updating User Status: Transcendental (Awakened).』
脳内のログが、戦闘終了を告げる。
俺は、まだ微かに熱を帯びている自分の右手を見つめた。
震えていた。
恐怖じゃない。
歓喜だ。
「あはは……はははははっ!!」
乾いた笑いが、喉の奥からこみ上げてくる。
止められない。
今まで俺は何を恐れていたんだ?
勇者アレク? 魔術師エリス?
あんな、ちょっと剣が光ったり、火の玉を出せる程度の奴らに、どうしてあんなに怯えていたんだ?
今の俺なら。
あいつらの攻撃なんて、全部『収納』して無効化できる。
そして、その攻撃を倍にして、あいつらの顔面に叩き返してやれる。
「勝てる……。いや、殺せる」
俺は拳を握りしめた。
泥と血に塗れた手が、今はどんな宝剣よりも頼もしく見える。
「待ってろよ、クソ勇者ども。俺は必ず帰る。地獄の底から這い上がって、お前たちが築き上げた栄光も、名声も、命も……全部、俺の『収納』にぶち込んでやる」
想像するだけで、ゾクゾクするような快感が背筋を走る。
あいつらが絶望に顔を歪める瞬間。
命乞いをする声。
それを全部、特等席で味わうんだ。
ふと、俺は前方を見た。
ドラゴンの巨体が消し飛んだ先。
ブレスの余波で、洞窟の岩壁が数百メートルにわたって抉り取られていた。
その奥に。
「……ん? なんだあれ」
自然の洞窟にはありえない直線的な構造物が見えた。
滑らかな石材で組まれた壁。
崩れ落ちた岩の隙間から、鈍い金属の光が漏れている。
『Analysis: Ancient Artifact Structure detected.』
『Mana Density: Extreme.』
システムが解析結果をポップアップさせる。
古代の……遺跡?
こんなダンジョンの最深部、さらにその壁の向こう側に?
俺は足の痛みを『遮断』したまま、ゆっくりとその崩落跡へと歩み寄った。
壁の裂け目から中を覗き込む。
そこには、無限に続くかのような巨大な書庫と、見たこともない兵器が並ぶ格納庫が広がっていた。
「……宝の山、ってレベルじゃねぇな」
俺の頬が、自然と歪む。
勇者パーティが必死こいて手に入れた『賢者の宝珠』?
そんなガラクタが霞んで見えるほどの、圧倒的な「力」の匂いがする。
俺は、裂け目に手をかけた。
「もらうぜ。ここにあるもの、全部」
俺の復讐劇には、資金も武器も必要だ。
ちょうどいい。
ここで軍資金(リソース)を調達させてもらおうか。
俺は暗闇の奥へと足を踏み入れた。
そこには、世界をひっくり返すための「最凶のカード」が眠っている気がした。
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