動画ギャング

ちびまるフォイ

動画を見るほど忙しい国

動画ギャングによってすっかり、N国はダメにされてしまった!


誰も彼も日がな一日ショート動画を見続け、

画面のスクロールで腱鞘炎になって生活も難しい。


重度の動画中毒になった人たちは、

悪い動画配信者に動画をねだる乞食となってしまった。


「ボス。この国もすっかり絞り尽くしましたね」


「ああ。ショート動画ドラッグでふぬけにしてやった」


「みんな動画の檻から抜けられませんぜ。

 次はどんな中毒性のある動画を作るんです?」


「いいや、この国は終わりだ」


「もうですかい?」


「そうとも。この国はもうショート動画からは抜けられない。

 俺達が新作を投稿せずとも、昔の動画を再生させつづけるさ」


「同じの見て飽きませんかね?」


「動画中毒になった人間の忘れっぽさは知ってるだろ?

 自分が見た動画すら、数秒後には覚えちゃいない。

 そんなだから永久に昔の動画をこすりつづけるさ」


「ひひひ。ボスはやっぱりあくどいぜ。

 N国の労働生産率もダダ下がりさせたってのに、

 まだまだ次の国をダメにしようと思うんだから」


「当然だ。俺はこの地球すべてをショート動画で侵すんだ」


「それで、次はどこの国へ?」


「M国だ」


したっぱはその名を聞いて驚いた。

と、同時になるほどという納得感を感じた。


「さすがボス! すっげぇや!」


「お前も知っての通り、あの国はあめっちゃ忙しい。

 睡眠時間は世界でワースト1。労働時間はトップ。

 日常に疲れたカモどもがわんさといるんだ」


「そこにショート動画ドラッグを放り込むんですね」


「そうとも。N国の比じゃないほど効果が出るぞ。

 疲れた体にショート動画は深く刺されるからな」


「ボス、そうと決まれば中毒性マシマシの動画撮ってきやす!」


「ああ!」


動画ギャングたちは、きたるM国への進出のため動画を撮りためた。

そのどれもが中毒性があり、何度も見てしまう完成度。


大量の違法中毒ショート動画を量産すると、

やっとボスもM国への進出を決めた。


「ボス。今回はだいぶ動画用意しましたね。

 こんなにいるんです?」


「国ごとに動画のおすすめアルゴリズムは違うからな」


用意されたショート中毒動画は様々。


男性向けにチューニングされた動画。

危険なチャレンジをする動画。

ゲームやスポーツのスーパープレイ。

犯罪の手口の紹介などの紹介動画。


女性向けにチューニングされた動画。

動物や人間の赤ちゃんの動画。

お菓子や料理のタイムラプス動画。

美容やダイエットの動画。


それ以外にも各年齢さまざまにターゲットされたショート動画が、

箱詰めされてトラックに積まれた。


「ボス、これだけアレば間違いないですね」


「M国は世界で一番せわしない人が多い。

 このショート動画群にあてられれば骨抜きになるぞ」


動画ギャングたちはM国の人たち全員が、

スマホの画面を食い入るように見ながら歩くディストピアを想像した。


やがて高い中毒性と依存性が保証されている

強力な違法ショート動画たちはM国へとバラまかれた。


「はっはっは。これでM国はおしまいだ!」


動画ギャングたちはM国の衰退を楽しみに待った。



が、待てど暮らせど変わらない。



「ボス……」


「ど、どういうことだ? ショート動画は撒いたんだよな?」


「ええ、もう1つ残らず動画の海へと放ちました」


「じゃあなんでショート動画中毒患者が出てこないんだ!!」


動画ギャングたちは自慢のショート動画を公開するも、

M国はこれまでと変わらない状況のままだった。


「サムネはこだわったか?」


「もちろん」


「じゃあなんで見られてないんだ……」


「いえボス。見られてはいるようです。

 でも中毒にはならないようで……」


「ますますわからない! 何が起こってる!?」


M国はどこよりも忙しく時間に急かされている。

そんな人達にショート動画は一番刺さるはずなのに。

どうして中毒になってくれないのか。


「パスポートを用意しろ!」


「ボス、どちらへ?」


「この目で何が起きてるのか見てくる!!」


ボスはなにかの間違いだとM国へと渡航した。

M国に到着すると前情報通り、誰もがせかせかと生き急いでいる。

ますますショート動画が流行らないのが謎。


「いったい何が悪かったんだ……?

 うちの10秒の動画ドラッグを見たなら依存性になるはずなのに」


ボスは原因を確かめるため、

その日の夜に地下のクラブにいってショート動画を渡すことにした。


実際にボスの手ずからショート動画を提供し、

その場で動画中毒にしてやろうという思いだった。


さっそく警戒心の低そうな若者に声をかけた。


「おい。見るだけでスッキリできるいい動画があるぞ」


ボスの声掛けに若者は大喜び。


「本当か!? 見せてくれ!

 仕事で疲れて、毎日急かされてストレス溜まってるんだ!」


「それはけっこう。さあ、ショート動画をどうぞ」


ボスは優しい笑顔で悪魔のショート動画を渡した。

若者はショート動画を見るもすぐに不満そうな顔。


「なんだよこれ?」


若者のリアクションにボスは驚く。


「え? 動画ちゃんと見た?」


「見た。よくわからなかった」


「なんでだ。もう一度スクロールしたくなるだろ!?

 どうしてショート動画中毒にならないんだ!」


ボスは若者が本当に見たのかと、スマホを取り上げた。

表示速度を見てなぜ流行らないかをやっと理解した。


若者は当たり前のように言う。



「この国は忙しすぎて、4倍速が普通だよ」




4倍速のショート動画は何言ってるか不明瞭。

もはや一瞬で終わるただのノイズでしかなかった。

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