かたちなきもの、その志のために戦うが将の器……

タイトルを拝見したとき、それは歴史上は「無」に等しかった「悪党」と言う存在から生まれた英雄、楠木正成そのものを表すものだと思っていました。

しかし、わたしの解題は間違っていたといわざるを得ません。
英雄。
それは史上『志』なきものは一人もいない。
そしてその『志』は誰にでも見通せるものでなく、大きなものだと。

武士たちの世を思い見果てぬ夢を追い、戦場を駆けた正成の志はいわば、無から生まれたもの。

血筋や名家の伝統に由らず、ただただ、後醍醐天皇が見たと言う、楠の大木の吉夢に感動して、おのれの志を育んだ。夢も志もかたちなきものなのに。

幕末の史家、頼山陽が、

「日本最大の快男児」

と、評した男の真髄が描かれていると思いました。

そして強きものは何故か、優しい。
名門の同志、新田義貞に、またあまつさえ敵方の足利尊氏にさえ、作中の正成は未来を譲り渡して、この世を去りました。そのえもいわれぬ読後感に歴史小説の醍醐味を感じました。とても面白かったです。

その他のおすすめレビュー

橋本ちかげさんの他のおすすめレビュー124