第4話

ーホストクラブKING にてー



「おねしゃーす、体験入店でーす。」(バカが……なんでこんなことになってんだ……!)



隼人がこうなった理由は……数時間前まで遡る……。



ー【数時間前、資料庫にて】ー



愛美は、声高々に喋り始める。



「ウチのサイキョーの秘策!それは!あなたがKINGに体験入店することよー!ウチ、よくホスト行ってたし!金張の勤務状況は……会ったことないから、分かんないけど……もし、もしね!体験入店で会ったら、情報収集や金張もちゃんとマークできるでしょ!なんか潜入捜査みたいじゃん!」



資料庫には、愛美の声だけが響き渡る……。



こいつ、ダメだ……と言わんばかりの、隼人と美咲の表情を意に介すことなく、愛美は、自身の策の披露を続ける。


「あなたは、顔もいいし〜チャチャッとメイクすればいける!あとは〜……華やかそ〜な派手なスーツだけど……」


「ちょ、ちょっと待て……」



一人で走り続ける愛美の暴走に耐えられず、隼人は口を出す。すると美咲が、悪ノリに乗っかるような形で、らしくない事を口走る。



「家に男装用のが少々ありますよ。推しと似たような服です。スーツ着てるキャラなんでいけますよ。」



「お前まで……!」



隼人はガックリと肩を落とし、半ば諦めて受けいれようとしている。愛美は対象的に、ハイテンションで振り返り目を輝かせる。



「は!?マジ!?みさきち男装するの!?てかやるじゃん!なんなら、みさきちが行く!?」


「行くわけがありません。」



美咲の返答を聞いた後、愛美は背を向けつつ、一人で歩き、高説であるかのように、辺りを闊歩し続ける



「……確かに、こんな態度だし〜接客は無理か……じゃあ、やっぱ刑事さんだとして〜、あとは私がメイクすれば〜」



隼人と美咲は顔を見合わせた後、致命的な欠陥に気づき、首を傾げる。



「……どうやって?」



歩みを止めて愛美は、あんぐりと口を開けて振り返る。美咲は呆れたようにため息を吐き肩を落とした。



ー移動した後、美咲の家にてー



「なんで私が……人のメイクなんて、したことが無いですよ…私が使ってる肌の色や、推しのキャラのファンデと、この人の色は違いますし……」



美咲はブツブツ文句を垂れつつ、イケメンである隼人を推しキャラに、メイクで無意識に近づけていた。そんな横で愛美が、水を差す。



「みさきち違うよ!もうちょっとここをさ!」


「ごちゃごちゃうるさいですよ……!横で煩く、あれこれ言わないでください……今、少し推しを思い出して、楽しくなってきてるので……ホストってたしか、派手ですよね。あぁもう、私の中では正解なんですけど、これどうしたら……」


「おい、これ……本当に大丈夫なんだろうな……」



鏡に写る自分を薄目で見て、不安げになる隼人を横目に、はしゃぎ回る愛美。



「体と顔の色の差よ!顔白っ!笑笑 塗らん方が良かったんじゃね!?チョーうける笑 。マジ撮りたい。やばいやばい笑笑 もう少し白くしたら、歌舞伎かよってレベルなんだけど!笑笑 流石にコスプレイヤー過ぎるって笑笑」


「おい……お前らこれ……」




ー【現在、ホストクラブKINGにて】ー




煌びやかな店内に入り、通された控室で、隼人はある人物と出会う。



「初めまして、体験入店の方ですね。担当のRYOMAです。」



スラッとした出で立ちに、どことなく風格の漂うこの男。名を竜馬と言うらしい。手馴れた様子から、この店の中でも役職者なのが伺える。



「よろしくお願いします……」



仏頂面で、目も合わせず、応答する隼人に微笑みつつ、竜馬は諭すように語る。



「アハハ笑 そんな態度じゃ、接客は出来ないよ笑 それと……服装はなんか、コスプレみたいだね……?サイズ合ってる?それに……メイク無しで来たのかな……?まずはうちに来る時はメイクを学ぶといいよ。」



後半少し、引き攣りつつ話す竜馬。結局、違和感に耐えられずに隼人は、メイクを落としていたのだ。



「そうっすね……」(最悪だ……アイツらまじで許さん……!)




ーその頃ー



美咲は呑気な愛美に連れられ、ゲームセンターに来ていた。



「ねぇねぇ!みさきちせっかくだしプリ撮ろう〜!」


「本当に、こんなに動き回ってていいのでしょうか……金張は、ホストクラブに居るかも分かりませんし……私はこんな所に来てて、いいのでしょうか。」



周りをチラチラ見つつ、不安げに歩く美咲。



「こういう時ほど、テン下げしてる場合じゃないって!撮ろうよ!……ちょっと!?どこ行くのー!」



愛美はプリクラ機から離れていく、美咲に気づき呼び止める。



「帰るんです。それにやるとしたらメダルゲーム等ですよ……プリクラ機なんて……あのですね…私は傍から見たら、1人でここに入ることになるんですよ!勘弁してください!」



強く否定しようと、必死になったせいか、尻上がりに大きくなった、美咲の声に、周りがどよめき始める。




「みさきち、私見えてないから……笑」



愛美も、周囲をチラチラと見つつ、思わず苦笑いをしていた。先程までのハイテンションとは、打って変わって、少し気まずさも混じったその声に、申し訳なさが垣間見えた。

そんな愛美を見て、美咲は、愛美が死んでから、ずっと一人だったということを、改めて思い出し、少し情が芽生えていたのか、渋々承諾することに……



「もういいです……さっさと撮りましょう。もうここまで来たら、もう何も恥ずかしくありません……」


「ほんとぉ〜!?みさきちありがと〜!!入ろ入ろ〜!」



今度は美咲が少し苦笑いをする。ただ、気まずさなんかではない。ただーー




ープリ機内にてー



プリクラ機内には、明るい雰囲気とはかけ離れた、恥ずかしさ、怒声が混じったような声が響いていた。



「もっとこうだって!笑 めっちゃ顔死んでんじゃん!笑 みさきち、友達と撮ったことない感じ!?笑」


「余計なお世話ですよ!いいから、とっとと終わらせますよ!これまだ終わらないんですか!」


「みさきち笑笑 だから1人で喋ってる事になってるんだって笑笑笑笑 チョーうけるし、チョーテンパってんじゃん笑笑」



顔を真っ赤にしカメラに目線が合わない美咲を、大口開けて、涙を流して見つめる愛美。この狭い空間で、2人の距離も少しだけだが、縮まりつつあった。



ー撮影を終えてー



2人は落書きをするため座ったが、愛美が重大な事に気づいたかのように、美咲に話しかける。



「ねぇ、待って!私今気づいた!私写ってるってことは心霊写真ってこと!?ちょっと半透明だし!しかも待って、ペン持てないじゃん!はぁ…まじ萎えた…」



美咲は、写真に対し目を丸くして少し驚いたが、どうでもいい事だと感じ、呆れ気味に返す。



「写真は驚きましたが……ペンの話はどうでもいいですし、そんな事も考えないとは……バカですね。」


「えー、いいのかなー。言っちゃおっかな~【おかえり、今日もお疲れs…】」



愛美は、馬鹿にするかのように目線だけ、こちらに配り、口元を抑えつつ煽る。



「それはなしです!!」


「なら、みさきち……まなみんって呼ぶ気になった?」



さっきまでの態度とは違い、椅子に座り直し、少し上目遣いで見つめる愛美。悔しいが、かわいい。

愛美が普段見せない真剣な表情。それがまた、本気で呼んで欲しいという、気持ちの表れでもあるかのように見えた。



「……ま、まなみん。これでご満足ですか……」



お互いに恥ずかしさなのか、俯いていた2人。上目遣いでチラッと横を見た美咲の目に飛び込んできたのは、顔を先に上げて、ニコニコしている愛美の顔だった。



「ちょー可愛いじゃーん!マジ、コレでうちら、距離縮まったんじゃね!?」



愛美は、美咲に抱きつき、頭を撫でる素振りを見せる



「うるさいうるさいです!」



美咲は恥ずかしさで、思わず顔を背けて、更にまとわりつくような、愛美の身体を、ブンブンと払うように腕を振る。




「あ、ほらプリにも描いてよ!私描けないから!みさきち、まなみん って!」



愛美に言われるがまま、嫌々従う美咲。



「はぁ……はいはい、分かりましたよ……」


「あーそうそう!ゆーれいず!って下に!笑」



バカバカしい発言に、謎のワードがどうも可笑しく、美咲は微笑む。



「だっさいですね……バカバカしい……笑」



美咲は、片手で口元を抑えて笑う。



「え、笑った!?笑 ちょ、マジ!?ウチの発言で!?笑」


「……笑ってませんよ。」


「ね〜!絶対嘘!ねぇ、見てよ!こっち見て、こっち!」


「嫌ですよ……笑」




ーホストクラブKINGにてー



「こちら体験入店のHAYATOです 姫、よろしく」



竜馬に連れられ、店内のテーブルへ付く隼人。結局店にスーツを貸し出してもらい、竜馬にメイクされて、事なきを得たようだ。



「よ、よろしく」



ぎこちない隼人の挨拶に対して、酒で気分が上がっているのか、少し呂律がおかしい、女性が話す。



「え?笑 イケメンじゃん!体験だけじゃなくて、もうここで働いたらぁ?笑」



こんな接客態度なのに、勧誘を受けた隼人が、女性を見て少し引いていると、奥から一際、輝かしいオーラを放つ、ホストが現れて……



「おいおい……勝手に乗り変えちゃうなんて、酷くね?」


「ちょ笑 ジョ〜ダンだから私のぉ、推しはぁ……航だけだから……」


「じゃあ……示してくれない?俺が1番だって。」


「もーしょうがないなぁ……!シャンパンとか、入れちゃおっかな~……!」



その男は、すぐに女性の肩に、手を回し、高級シャンパンの注文をさせた。猛獣の扱いに慣れている、飼い主のようだ。



「あれが、ウチのNo.1のKOUだよ」



竜馬が、ご自慢の品を見せるかのように、少し自信ありげに隼人に話す。しかし、その後すぐに顔色を曇らせる。



「まぁ、ここで、これから働くなら、気をつけなよ。」



意味深な、その竜馬の発言が、気にかかり、隼人は聞き返す。



「気をつけるとは?」



竜馬は、少し間を空け、意味ありげに呟いた



「あぁ、航には、目をつけられないように ね。」



ー続くー

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冴えない女の霊会話!? @LLBe222

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