セト


「誰だテメェ!」


ガイが叫ぶ。


「ん?煩いなぁ〜、叫ばなくても聞こえてるよ?」


叫ぶガイにそう答えて、達也に再度顔を向ける。


「改めて聞こう。君はどうなるのが理想かな?」


少年は嗤いながら問う。


「テメェら、その目障りなヤツを殺せ!」


命令を聞き、ウルフたちが少年を襲う。

少年は依然として達也に目を向け続ける。


「君の望みを教えてくれ」

「俺は…皆んなを助けて欲しい…。頼む…っ!」


少年は心底愉しそうに嗤う。


「その願い、承った」


少年が口を開く。


「Hsfg zmw dzpv fk」


その声に、ウルフたちは一斉に動きを止める。


「水よ、回れ。穿て!」


ハルトが少年へと殺意を向ける。

水の槍を追うように、ガイも剣を振るう。


「Fmizevo zmw gfim」


少年へと向かった水の槍は突如としてその姿を変え、ガイへと襲いかかる。


「チィッ…」


ガイは咄嗟に転がり躱す。


「おい、ハルト。どうした!」

「分からない…!だが、ヤツは恐らく魔術師だ!系統は分からないが、水術師かもしれない!」


ハルトは、瞬時に少年の性質を見抜く。

だが、足りない。


「Yv xszlgrx zmw giznkov」

「ガァアアアッ…!!」

「ハルトッ!」


ハルトが叫ぶ。

あれだけ落ち着いていた男が、あぁも簡単に蹂躙されているのを見ていると、現実味が薄れていく。


「テメェ!何モンだ!」

「僕はセト。それだけで君たちには十分だろう?」

「クソガキがぁ!ウルフ共!ソイツを殺せェ!」


ナオトが叫ぶように命じる。


「またかい?じゃあ、Hfyqftzgv gl nb hrwv」


ウルフたちは動きを止め、少年の周りに平伏す。


「な!」

「Xifhs gszg nzm」


少年はナオトへと指を向ける。

すると、ウルフたちはナオト目掛けて飛び掛かる。


「お前等、何してる!止まれ!ソイツを殺せ!」


ウルフたちはナオトの命令に耳を傾ける事無く、ナオトの脚に噛みついた。


「アァアアア!!」


ナオトの脚に噛みついた後に、引き倒して、腕に、腹に、首に、頭に噛みついていく。


パキッ…ゴリッ…ブチリッ…


生々しい音が血の匂いと共に撒き散らされる。

ガイは、即座に逃げ出した。


◆◆◆


アレには勝てない。

逃げろ、逃げなければ…。

逃げれば、


「助かる?」


ガイの脚を剣が貫いた。


「ぐあっ!」


思わず倒れ込む。

過呼吸になる。

息苦しい…。

逃げなければ。

助けて…

ごめんなさい…

止めて…

謝るから…

痛い…

苦しい…

生きたい…

まだ、まだ、


「まだ生きたいと言うのかい?」


無機質な目がガイを見つめる。


「ハァアア…ッ!」


身体を起こして後退る。


コツ…コツ…コツ…


少年の足音が近づいて行く。


「今まで愉しんだのだろう?嘲笑ってきたんだろう?なれば次は、君の番だ」

「やめてくれ!そうだ!金、金ならある!いくらだ!いくら出せば許してくれる!?」

「う〜ん?よもやよもや…」


少年が考えていると思い、後押しを図る。


「俺の知り合いに頼めば、金も女も好きにできる!どうだ?コレなら…」

「いや?君は殺すよ?」


何を当たり前のことを勘違いしているのだろうこの男は?


「は?」

「僕が考えていたのは、本当にマンガで読んだセリフを言ってくるヤツがいるとはな〜って感じていただけだよ?」

「じ、じゃあ…」


少年は嗤いながら言う。


「無論、逃がさない、生かさない。ただ、一つの命が此処で尽きるのみさ」


ガイは慄えることしか出来ない。


「Xlmgrmfv gl vzg zdzb zg gszg ylwb」


◆◆◆


少年が帰って来た。


「…あの男は?」

「君の願いは叶えたよ」


それだけを答えると、俺達を一人ずつ見渡した。


「ふむ、svzo blfi dlfmwh,veveigsrmt droo yv gsv hznv ztzrm」


少年が唱えると俺達の傷が治り、衣服も元通りになった。

こんなの…魔術師の領域じゃない…。


「ん?詮索はやめてもらおうか?」

「いえ、その、助かりました」

「うむ、しっかり感謝できるのは良いことだ」


少年は俺に嗤いかけて、


「では、対価を貰おうか」


と言ってきた。


「……っ!いや対価を払うのは良いけれど、俺達何も持っていなくて…」

「そうかい?実に良いものを持っているじゃないか」


そう言うと、俺の胸に手を当てた。


「では、貰っていくよ?」

「いや、だから何を…」

「Ortsg,xlmevitv uiln blfi svzig rmgl nb szmw」


途端、俺の胸から光の粒が浮かび上がり、少年の手に吸収される。

痛みはない、だからこそ現実味が沸かない。

やがて、光が収まると少年は手を離す。


「うむ。これで報酬は貰った。では、僕はここら辺でお別れだ」


そう言うと、一歩下がり、


「Ortsg,srwv nv」


と唱え、消えてしまった。


◆◆◆


しばらくすると、男女の集団がやって来た。

それを見て、俺達が武器を構えると、


「待ってくれ!怪しいものじゃない!そのままで良いから聞いてくれ!」

「貴方達は何者ですか?」

「俺達はチーム『カモシカ』。俺はリーダーの相馬だ。お前達の配信を見てここに来た」


配信?確かカメラはあいつ等がジャミングしていたはず。

ブラフか?


「お前達が迷賊に襲われている所は配信に映っている。無論、今もな」


そう言われて、ドローンカメラを確認すると、確かに配信中となっている。

しかし、一体なぜ?


「俺が見たのは、仮面の男がソイツらを蹂躙している所だが、合っているか?」


確かに合っている。


「そうですけど、それが?」

「あー、そうなると、ん〜説明がメンドイな」

「投げ出さないでください」

「いや、そうは言うがよ」


相馬と女性が言い合いをしている。

相馬がコチラに顔を向ける。


「取り敢えず、まずはダンジョンの外に行くぞ。お前達が俺達を警戒するのは仕方ねえから、俺達が先に行く。お前達は後からついてこい。それとカメラは付けっぱで構わない」


んじゃ、先行くぞ。

そう言って後にした。

俺達は目を合わせて、その後を追った。

勿論、武器を構えながら…


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