第16話 ふたりの創造因子(トワイン)の共鳴
中心核に満ちる黒い奔流が、怒りのように脈動した。
アリアの手に宿る“始まりの光核”が、蒼白と金の輝きを強める。
シンク・ブラック本体は形を変えながら迫り、
星雲のような巨影がアリアを包み込もうと蠢いた。
闇の継承者が叫ぶ。
「アリア! あれは“同化波”!
触れたら……あなたの存在を闇へ書き換えられる!!」
アリアは振り向かずに答える。
「だからこそ、私が立つんだ……
あなたを守るために!」
光核がぎゅっと脈動した瞬間、
アリアの足元に“光の紋章”が浮かび上がった。
少女はその輝きに目を見開く。
「その紋章……
まさか……光と闇、両方の因子が混ざり始めて……!?」
アリアは強く息を吐き、前へ踏み出す。
(私は……光だけじゃない。
闇の痛みも、孤独も知った。
だからこの力は……私だけのものじゃない)
---
シンク・ブラックが衝撃波のような闇を放つ。
アリアは光核を前に出し、光の幕でそれを受け止める。
その瞬間——
闇の継承者の胸の黒結晶が激しく揺れ、
彼女の視界に記憶の断片が蘇り始めた。
黒い部屋。
冷たい拘束椅子。
白衣の人間たち。
無数の観測装置に囲まれ、
彼女は一人、中心核へと接続されていた。
《あなたは闇の因子。
宇宙のバランスに必要な“影”——
だが光の継承者が未覚醒であるため、
あなたには“代替の役割”を与える》
《中心核の制御因子として機能し、
シンク・ブラックの暴走を抑えよ》
彼女は泣きながら叫んでいた。
《いや……いやだ……!
ひとりは……いや……!!》
白衣のひとりが冷たく告げた。
《光はまだ目覚めていない。
君の存在は孤独でなければならない》
記憶が途切れ、少女は震えた声で呟く。
「……私……
最初から“独りになるために”生かされてた……?」
アリアは振り返り、強く叫んだ。
「そんなの……運命じゃない!!
勝手に決められただけだよ!!」
少女の目が揺れる。
「アリア……」
「あなたは独りじゃない!
私がここにいる!!」
その言葉に、
少女の黒い結晶が涙のように光を漏らした。
---
シンク・ブラックが怒りを上げ、
巨影がふたりへ襲いかかる。
アリアは光核を掲げる。
眩い光が辺りを満たし、闇を押し返した。
闇の継承者はその光に手を伸ばす。
指先が触れた瞬間——
彼女の黒結晶も淡い蒼光を帯びた。
「……あ……
アリア……
この光……あたたかい……!」
「あなたの闇が……
私の光と“共鳴”してるんだよ」
ふたりを包む光と闇が渦を巻き、
中心核に新たな紋章を描き出していく。
それは——
創造と破壊、光と闇の均衡を表す“原初の紋章”。
闇の継承者が息を呑む。
「これ……
私たちが本来なるはずだった……
“創造因子(トワイン)”の姿……!」
アリアは頷き、光核をしっかりと握りしめた。
---
シンク・ブラックは激しく脈動し、
低く響く声のような震動を発した。
それは意識そのものに直接刺さる声。
《光と闇よ……戻れ……
お前たちはひとつ……
宇宙を再構成するための媒体……》
アリアの背中が冷たくなる。
「……宇宙の……再構成……?」
闇の継承者が震える声で言う。
「アリア……
もしかして……
シンク・ブラックの目的って……」
次の瞬間、
闇そのものが大きく揺れ、
中心核の奥から“新しい銀河の形”が浮かび上がった。
生まれたばかりの光、
未熟な星々、
渦巻く原初物質。
アリアは目を見開いた。
「これ……宇宙誕生の映像……?」
闇の声は続く。
《私は“終わり”ではない。
“始まりを作る影”だ……
現宇宙が飽和し、歪んだいま、
新たな始まりを生む必要がある》
闇の継承者が息を呑む。
「……つまり……
この宇宙を消して、新しい宇宙を創る……
それがシンク・ブラックの目的……!?」
アリアは叫ぶ。
「そんなの……!!
勝手な理屈で無数の命を消すなんて許せない!!」
光核が強烈に輝く。
闇の継承者も震えながら叫んだ。
「私だって……宇宙を壊したくない!!
アリア……一緒に戦って……!」
アリアは彼女の手を強く握った。
「うん!!
ふたりで、この運命を変えよう!」
ふたりの光と闇が重なり、
中心核が眩い輝きで満たされていく。
シンク・ブラック本体が咆哮を上げ、
空間そのものが震え始めた。
——最終決戦の幕が上がる。
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