オタ活人生、山あり谷ありエトセトラ。
橘/たちばな
電気街のメイドカフェ
2025年4月――都内のど真ん中に位置する世田河市。新生活の始まりとなる月であって進級や進学、社会人デビューが盛んとなる季節であるが、既に社会人生活を送っている人々からするとなんら普通の日々と変わらない。その中の一人であり、4月で社会人歴三年目を迎える若者がいる。名は一明寺(いちみょうじ)カズマ。職業はそこそこホワイト寄り企業のWebデザイナーで普段はしがない25歳の平社員。8時から18時までの勤務で時々残業はあるものの、給与は良い方で職場環境、人間関係においては悪くない居心地だ。そんな一見平凡な男に見える彼は、プライベートの時間が本当の姿である。つまり漫画、ゲーム、アニメが大好きなオタクなのだ。
「よし、これで何とか片付いたな」
定時を過ぎた頃にパソコンでの作業を終え、帰宅準備に入るカズマ。
「おお? 兄さん、もうまとまったんですか?」
声を掛けてくるのはカズマの二年後輩となる若手社員の城ノ内梢。彼も守備範囲の広いオタク趣味を持つ男であり、カズマをオタクの先輩という事で兄さんと慕うおっちょこちょいなタイプである。
「へへ、城ノ内よ。また今日も残業確定かい?」
「今日で三日連続ッスよぉ……兄さんはこれからカフェですか?」
「まーね。相方共々残業がない日はカフェタイムが日課なのよ。ま、せいぜい頑張りな」
そう言って颯爽と持ち場から去っていくカズマは、相方が待つカフェに向かう。相方の名は上白野(かみしろの)奈月。カズマとは大学時代からの付き合いで、オタク系サークルで共に活動していた時期がある。社会人となった現在でも勤め先は違うものの、プライベートの時間では交流がある。カズマにとっては最も付き合いが長く、色々と気の合う良き女友達なのだ。連絡ツール「LAIN」で落ち合う約束をし、仕事上がりに行きつけのカフェで色々オタクトークして過ごすのがお楽しみだ。職場から少し歩いたところにあるカフェ「コニダ珈琲」にやって来る。中に入ると既にオフィスレディ姿の奈月がスマホを見つつアイスココアを飲んでいた。
「や、カズマ! 今日も残業なくてよかったね」
気さくな態度で迎える奈月。カズマと同年齢の25歳だが年齢を感じさせない見た目で、女子高生に間違えられる事が多い程の童顔。おまけに胸も大きめで、Dカップに相当する程であった。
「よう奈月。また今日も先越されたか」
「ふふ、定時なら私の方が早いもんね」
奈月の職業はIT企業での事務員。9時から17時までの勤務体制だが、残業もそこそこある方。女性率の高い職場であって女特有の人間関係が面倒だと感じる事はあるものの、給与はそれなりに良い方である。席に付いた二人のオタクトークタイムが始まる。ちょっと気になって見てみたアニメの感想、今やってるゲーム語り、ふと読んでみた漫画の話題と喋る内容は色々豊富である。二人のオタク歴は10年以上であり、カズマは主にゲーム中心の漫画、アニメ好きであり、ゲームにおいてはRPGやアクション系が得意分野。奈月はアニメ、漫画をメインに色んなゲームをプレイし、時には映画もチェックしている。漫画においては少年漫画メインだが少女漫画も好み、アニメでは見るジャンルが幅広い。ゲームではRPGや恋愛シミュレーション系を好む傾向があり、アクションが苦手。また、インターネット上の呟きツール「eX」にて絵描き活動をしており、最近ではカズマと共に合同創作を計画中なのだ。
「で、あの子クッソ可愛いのよ! ほんっと可愛い! 見た目ショタなのに男らしいところにギャップがあるっていうか! 可愛すぎて抱き枕カバーが欲しくなるくらい可愛い!」
今見ているアニメの話題にヒートアップする余り、独特の語彙力による早口で喋り出す奈月。オタク特有の早口語りであり、その勢いは顔の距離が近くなる程だ。カズマは奈月の勢いにはかなわないな、と思いながらも奈月のマシンガントークに付き合うばかりだった。
「あ、そうだ奈月。この前話してた合同創作の件、どうするんだ?」
カズマが合同創作に関する話を切り出す。
「あー。色々考えたんだけど、ファンタジー路線で行こうと思う。定番の異世界モノで!」
「成る程。テーマとしては解りやすいか」
「異世界転生モノとか腐る程あるじゃん? 私達は敢えてベタな路線で行ってみようってワケよ」
奈月は合同創作のコンセプトの提案を始める。
「デデン! カズマくんへ質問です! 主人公はどんなタイプがいいと思いますか? 一分以内にお答え下さい!」
おどけたノリで質問する奈月。
「主人公? ファンタジーって事で勇者か?」
「それだと普通すぎるよ! もっとこう、個性的な要素とか欲しくない? インパクトに残るような」
「個性的な要素ねぇ……特殊能力持ちとかどうだ? ほら、覚醒したらパワーアップするとか」
「うーん、それも結構ありきたりだと思うんだよね」
奈月はカバンに忍ばせていた私用のメモ帳を広げる。メモ帳の内容には創作に関する様々なアイデアと参考になるようなネタ、プロット案が書かれていた。
「お前、結構マメなとこあるんだな」
「せっかく浮かんだアイデアもふとした事で忘れてしまったりもするからね。仕事中でも唐突に絵のネタが閃いたりするくらいよ」
カズマは奈月の創作意欲にただ感心するばかりだ。そんなカズマは創作のストーリー案を任されている身である。つまりカズマがストーリー担当、奈月がキャラデザイン担当だ。気が付けば時間は既に夜の8時前になっていた。
「あ、もうこんな時間だ。そろそろ帰って晩御飯ね」
「おおマジか。じゃあ奈月、また……」
「っとぉ! ストーリー担当者カズマくんへ奈月ちゃんからの宿題です!」
またもおどけたノリで奈月が言う。
「宿題ィ?」
「次の休日まで創作のストーリーのプロローグを考えて下さい!」
「はああ? 次の休日までって……明日じゃねえか!」
「あれ? そうだったっけ? ってホントだ!」
そう、次の日は休日となる土曜日。この日はカズマと奈月の二人で画材やグッズを買う為に明婆原(あきばはら)電気街へ行くと決まっている。それまでストーリー担当者のカズマには創作のプロローグを考えてもらうという事であった。
「そう簡単に浮かぶもんじゃねぇぞ」
「あなたは私よりもずっとRPG歴長いゲーマーでしょ。それじゃカズマ、しっかりね!」
「お前もちょっとは考えてくれよ……」
そんなこんなでカフェを出てそれぞれの帰路へ付く二人。
「はぁ……プロローグねぇ」
プロローグ考えてくれって言われてもそう易々と思いつくわけねぇってのとぼやきつつも、ファンタジー系アニメの円盤、漫画、ゲーム作品のパッケージ等を眺めつつも、撮り溜めしていたアニメのチェックをする。異世界転生系統のファンタジー作品であった。
「どうせなら冒頭からぶっ飛んだ内容がいいよなぁ」
そう思いつつ、カズマはアニメ視聴タイムを満喫する一晩を過ごした。
翌日。この日は休日なので、カズマは指定された待ち合わせ場所へ向かう。既にフリルブラウス姿の奈月がいた。
「奈月……お前そんな恰好で来たんかよ」
奈月はプライベートで外出する際はオタク受けするファッションで行く事が多いというオシャレな面もあるのだ。まあ、ファッションとしては悪くないなとカズマは思う。
「どう? この格好だと可愛いって言いたくなる?」
黙ってりゃあ普通に可愛いけどな、とカズマは心の中で突っ込んだ。
「プロローグは纏まった?」
「お、おう。一応な」
カズマは一晩で思いついた創作のプロローグが纏められたノートを奈月に渡す。ノートの内容をじっくり見る奈月だが……
「うーん、これはちょっとボツかな」
「はあ?」
「最初から陰惨すぎてこの子供はどういう子供なのか、何歳くらいなのかという説明が欲しいんだよね」
カズマの創作プロローグ案は、小さな村に住む一人の子供が目の前で両親を魔物に惨殺されてしまい、更に故郷を目の前で完全に滅ぼされて復讐の旅に出る、というものだった。子供は主人公で10歳。後で特殊能力に目覚めるとカズマが説明すると、奈月は首を傾げるばかり。
「あのなぁ、話としては悪くねえだろ! そんなにダメか?」
「全くダメって事はないけど、少し明るい方向にしない? 最初から暗すぎるのは見る人を選ぶからさ」
「それならお前も考えてくれよ……」
結局奈月にダメ出しされてしまい、即興で思いついた割にはいい方だと思ったのになと呟くカズマ。
「なあ、明婆原へ行くんだよな? グッズはともかく、画材屋もあったか?」
「あるよ。それ以外にもちょっと行ってみたいところがあってね」
「行ってみたいとこ?」
「メイドカフェだよ。前々から行ってみたかったんだよねー」
「マジかよ」
奈月は以前からメイドカフェに興味を抱き、もしかしたら絵や創作のネタになるかもしれないという事もあって一度は行ってみたいと考えていたのだ。
「カズマは行った事ある?」
「ない。あんま興味なかったし」
「んじゃあ二人共初体験ってわけね!」
カズマは奈月に連れられる形で明婆原電気街へ向かっていく。明婆原電気街はその名の通り、様々な大手の家電量販店は勿論、オタク関連グッズを取り扱っている店舗が多く並んでいる。昔はオタクの聖地とも呼ばれていたが、現在では時代の変化もあって次第にオタク色としての活気が薄れつつあり、至る所で外国人観光客が多く見られる。
(外国人ばっかりだな……奈月の奴、ナンパされたりしないか?)
内心ぼやきつつも、カズマは奈月に引っ張られる形で電気街を進んでいく。数分程歩いていると、メイドカフェらしき店舗を発見する。冥途珈琲という看板がある店舗で、可愛い外装の建物だ。しかも入り口前にはメイドがいる。
「あ、あった! ここに違いないよ!」
メイドカフェを発見した奈月は意気揚々と突入する。
「お帰りなさいませ、ご主人様とお嬢様!」
いかにもなメイドらしい迎え方をされる二人。確かに数人のメイドがいる。が……何か変だ。
「なあ奈月……ここにいるメイド、なんかおかしくね?」
「え?」
よく見ると、店内にいるメイドは機械のような……いや、機械。つまりリアルなメイドを再現したロボットなのだ。
「は? ちょっと、何これ! メイドロボット専門店って、いつの時代のネタよ! これはこれでネタになるかもしんないけどさ……」
奈月はやられた、と言わんばかりに大声を出す。
「ご注文はお決まりですか?」
やって来たのはショートカットのメイド。しかもロボットではなく人間だ。
「え、人間?」
「はい。私はロボットではなく人間です」
にっこりと満面のスマイルを披露するメイド。何だ、人間もいるじゃんとカズマと奈月は安心する。カズマはメニューをチェックする。だがどのメニューも値段が高い。
「おいおいおいおい、いくら何でも高くね? 普通のオムライスでも千円越えかよ」
「やっば、どれも高いよ……これがメイドカフェ?」
軽食程度のメニューでも千円越えが当たり前と言わんばかりの高さに驚く二人。
「ど、どうしよカズマ……一番安いのって……」
「どうしようって、お前が行くっつったんだろうが!」
「だって、こんなに高いなんて思わなかったし!」
色々悩む二人だが、800円のホットサンドと200円のアイスココア二人分を選ぶ。
「畏まりましたー!」
颯爽と厨房へ向かって行くメイド。この店大丈夫なのか、と不安になるカズマ。今度は別のメイドがやって来る。
「ご主人様とお嬢様へクイズです! デデン!」
「は?」
突然の出来事に困惑する二人。
「この店にいるメイドロボで青い瞳の色をしたロボットは何体でしょう? 制限時間は120秒! 正解できたら半額になります!」
「はああああ?」
あまりにも理解不能な展開にますます困惑する二人。
「おい奈月、この店のメイドロボの目の色確認してるか?」
「してるわけないじゃん!」
そんなところまで見るわけないだろという事で答えられるはずもなく、当然正解できるわけがなかった二人。
「はい残念ー! 次のクイズに挑戦するなら正解すれば半額、不正解だと倍になります!」
「やりません!」
こんなインチキなクイズに挑戦して倍の料金取られてたまるか、と思う二人。そこで別のメイドが二人やって来る。
「お待たせしました……ホットサンドよぉ」
「そしてこちらはアイスココアよん!」
片方はセクシーな雰囲気を放つメイド美女、もう片方は女……と思いきや女装したメイド男だった。
「え、え、何なのこの店……」
更におかしな展開に向かっていく状況にどうなってるんだと思うばかりの二人。メイド男はカズマに、メイド美女は奈月に寄り添っていく。
「ふふ、あなたってオタクかしら? 顔見るだけで解るわよ……」
メイド男がカズマの近くで囁くように言うと、背筋から寒気がする。やべぇ、変態が来た……と内心思うばかりだが、メイド男が更に寄ってくる。
「ふーん、この目、この鼻の形、口元、髪型……それぞれ解析してみた結果、Mタイプと見たわ。この子を主人公にするならひたすらMに回るシチュが容易に想像できる! フフフ、見た目通りのタイプってわけね」
M。つまりマゾヒストの事であり、苦痛を受ける事に快感を感じるタイプと解析しているのだ。だがそんな事はいいとして、この男は変態の匂いしかない。早く帰りてぇ……とカズマは心の底から思う。一方、奈月に寄り添ってるメイド美女はというと……
「フフフ、この目元、鼻の形、唇、髪型、この香り……総合的に見るとSタイプね。あなた、もし好きな人とイイコトする事があると攻める方に向かうと見たわ」
カズマとは逆にS……つまり奈月はサディストタイプだと診断するメイド美女。
「それにしてもあなた、なかなか可愛いわね……ワタシとイイコトしない?」
更にメイド美女は奈月に眼前まで近付き、色目を使う。
「け、結構です!」
反射的に避ける奈月。
「こ、この店は変態しかいない! 逃げるぞ奈月!」
流石に逃げた方が良さそうだと判断したカズマに同意する奈月。
「ホッホッホッ、お帰りでしたらちゃんと料金払ってもらいますよぉお客様」
声と共に現れたのは……
「ぎゃああああああああああ!」
二人が絶叫する。メイドの恰好をした肥満体の中年オヤジだった。この店の店長であり、冥途と書かれた名札を付けている。冥途という名前らしい。
「ホッホッホ、如何でしたか? 特殊メイド部隊によるおもてなしは」
店長が決めポーズを披露する。
「へ、変態の極み……」
カズマと奈月が同時に声を上げる。
「ホッホッホッ、やはりそう仰りますか。そう、ここは他に無いような、お客様を楽しませる目的で一足変わったメイドカフェをやってみようというコンセプトで出来上がった店舗! なのです!」
再び決めポーズを披露する店長に、二人は一足変わったどころじゃねーよ、と言わんばかりの冷めた目で見る。
「そんなわけで! 料金を払って頂きますよホッホッホ」
「は、払いたくねぇ……色んな意味で損した気分だ……」
渋々と料金を払うカズマと奈月。
「またのお越しをお待ちしていますよ、ホッホッホ!」
「もう来るかあああ!」
カズマと奈月はさっさと店を出る。
「何なんだよあそこ……ただの変態の集まりじゃねえか」
「あ、あんなところ流石に予想外すぎたっての……」
自分がイメージしてたメイドカフェはあんなところじゃないと思うものの、もうメイドカフェはいいやとぼやく奈月。
「あの店の連中っていつもあんな営業してて客来るのか?」
「さあ? クチコミとかどうなってんのかな」
奈月はスマホを取り出し、店舗の情報を調べる。冥途珈琲……クチコミ情報……
『メイドカフェだと思って行ってみたらまるでコントの世界に来たみたいだった。変態ばっかりだ!』
『変態だらけ! でもこういうとこ嫌いじゃない! また行くわ!』
『話のネタにちょうどいいからまた行くわ……って行くわけねーだろバカ!』
『普通のメイドカフェかと思ったら騙されたわ。変態の集まりやろ』
総合的に『変態しかいない店』という評価だった。そりゃそーだ。カズマと奈月は「あそこはもう忘れよう」と思うのであった。
「客が来る度あんな事やってるのかと思うとある意味で闇を感じるな……」
あの店で働いてる連中はあんな営業スタイルで満足しているのか? 本人達がそれでいいならどうという事はないが、もしそうでなければ、特異な闇を感じる。そんなカズマの呟きに奈月は黙って頷く。二人は画材を買いに行く事にした。画材屋。目当ては新しいスケッチブック、鉛筆、色鉛筆、そしてイラストの構図の本。
「うお、びっくりしたぁ」
カズマは等身大の巨大なデッサン人形に思わずビックリしてしまう。
「わ、凄いじゃん。等身大も売ってるんだ」
「これじゃあマネキンだな」
巨大なデッサン人形に興味津々の奈月だが、値段が万単位なので手が出そうにない。
「お、こんなのも売ってんだな」
カズマが手に取ったのは、グラビアアイドルのような女性モデルの水着姿の様々なポーズが載った構図本である。
「あなた、案外こういうのに釣られるわけ?」
ジト目で見る奈月。
「んな事ぁねえよ! こんな構図本もあるんだなーって思っただけだって」
「ふーん……資料としては悪くなさそうだけど、私が欲しいのはデッサン重視だからね」
奈月は目当ての構図本を探し始める。あれこれ探した結果、戦闘系のポーズのデッサン構図本を発見し、これが一番いいかもと思いつつ手に取った。
「このちっちゃいのならまだ買えそうかなぁ」
ミニサイズのデッサン人形に注目する奈月。色々見て回って購入したのはスケッチブック、鉛筆、色鉛筆、デッサン構図本、ミニサイズのデッサン人形だった。画材屋での買い物を終え、次はアニメショップに立ち寄る二人。
「あ、思ったより結構出てる!」
最近見てるアニメ関連のグッズをチェックする。主な目当ては缶バッジ、アクリルスタンド、アクリルキーホルダーだ。しかし女子中学生、女子高生の集団がグッズコーナーに集まり出した。一人一人が推しキャラがどうのこうの、展開がどうのこうのとアニメに関する話題に花を咲かせている。
「なあ奈月……俺ここにいて大丈夫なのか?」
周りが女子ばかりなせいか、カズマは次第に居づらく感じてしまう。
「全然大丈夫だって。たまたま女の子が集まってるだけだし」
二人が見てるアニメは女性人気も高いせいか、中高生の女子がグッズコーナーに集まりやすいとの事だ。
「奈月……俺もう抜けていいか? 中高生の女子がワチャワチャ集まってる空間、どうも苦手だ……」
「もう、そんな事いちいち気にしないの! 変な事言う子がいても私が付いてるから安心しなよ」
奈月は楽しそうに色々グッズをチェックしている反面、カズマは中高生の女子が沢山いる中で何とも言えない気まずさを感じて、かなりやりにくそうにしていた。せめて男が何人かいたらなぁ、と心の中でぼやくばかり。奈月のグッズ収集が終了し、レジに並ぶ二人。かなりの客が並んでおり、勘定まで時間が掛かる。待ってる間スマホチェックで時間を潰す二人。もうすぐ勘定というところで……
「あ、そうだ!」
奈月が何か思い出したように声を上げる。
「前から気になってたアンソロが売ってるかもしんない!」
「おい! 次勘定するってタイミングで探すんかよ!」
目当てのアンソロジーコミックを探しまくる奈月だが、結局売ってなかったという。
「はぁ、無駄足だったみたい」
「あのなぁ……最初から探せよ」
そしてまたも長蛇の列を並ぶ羽目になった二人。アニメショップ探索が終わり、店舗から出る二人。
「メイドカフェはハチャメチャだったけど、久しぶりにいい買い物したわぁ」
目当ての戦利品購入に満足顔の奈月。
「でもって俺が荷物持ちなわけ?」
荷物を持ってるのはカズマであった。
「ん? あなたって女に全部荷物持たせるタイプ?」
「えっと、ジャンケンで勝った時とか」
「あっそう。んじゃあジャンケンで決める?」
「お? そうしようぜ」
「よっし、最初は……」
「グー!」
最初はグーと思いきや、奈月が出したのはパーだった。
「はーい、私の勝ち! 荷物持ちはカズマでーす!」
「おい! 今のは最初はグーだろが! 本番は次だ!」
「最初はグーなんて必要ないの! 勝ちは勝ち! 文句言わない!」
「くうう、セコい女だぜ……」
そんなやり取りをしながらも電気街を歩く二人。
「あ!」
奈月が何か閃いた様子。
「どうした奈月?」
「今閃いたよ。創作のメインキャラの一人が。メイド……メイドを仲間キャラにする! これ案外いいかもよ?」
「メイドぉ? あそこにいるような奴でも思い付いたのか?」
「あそこにいるような変態じゃなくてね、見た目はメイドだけど物凄くでっかい武器を扱うというギャップで勝負するタイプだよ」
「ふーん……で、どんな風に動かすつもりなんだ?」
「そこでカズマくん! あなたに奈月ちゃんからの宿題です! メイドが仲間になるシナリオを考えてきなさい!」
「はあああああ? 主人公も決まってねぇのに思いつくわけねーだろが!」
「期限は明日まで! しっかり考えてね!」
「明日って短すぎるだろうがああああ!」
こうして、二人のオタ活な一日が終わろうとしていた。
仕事の日々を送る社会人には様々なプライベートの過ごし方が存在する。カズマと奈月の二人はプライベートだと共にオタ活という形で趣味に没頭する身だ。だが、趣味の世界においても様々な闇が存在する。それは現代社会ならではの闇であり、二人も何らかの闇に巻き込まれる事は決して少なくない――。
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