私は誰だ?

私は誰だ?


目が覚めると、見知らぬ天井があった。


白い天井。


白い壁。


白いシーツ。


病院だろうか。

頭がズキズキと痛むが、どうにも思い出せない。

昨日までの記憶が、まるで霧の中にいるようにぼんやりとしていた。


起き上がろうとすると、テーブルの上に小さな手鏡があるのに気づいた。

自分の顔を見れば、何か思い出せるかもしれない。


手鏡を取り、恐る恐る自分の顔を覗き込んだ。

そこに映っていたのは、少しやつれた、見慣れない男の顔だった。

私はこんな顔じゃない、もっと丸顔で、髪も長い、なにより女のはずだ。


混乱して、もう一度鏡をよく見る。

映っている男は、私の動きに合わせて瞬きをし、口を開いた。


「誰か、いますか?」


私がそう尋ねると、鏡の中の男も、同じ言葉を口にした。

しかし、その声は、私の心の中で響いた声とは、全く違う、低く冷たい声だった。


その時、鏡の中の男が、映っている私に向かって、ゆっくりとニヤリと笑いかけた。

その笑みは、ひどく意地悪そうで、同時に何かを企んでいるようだった。


そして鏡の中の男は、口を開かずに、ただ目で私に問いかけた。


私は誰だ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る