早朝の散歩

12月半ばの朝5時


まだ夜の帳が残る薄暗い中、私は愛犬のポチ太を連れて散歩に出る。


いつもと同じ住宅街のコースだ。

今朝は少し霧が濃い。


街灯の光が滲んで、まるで水中を歩いているようだ。


角を曲がったとき、前方に見慣れないものが立っているのに気づいた。

電柱の影に、誰かがこちらに背を向けて立っている。


ポチが立ち止まり、低い声で唸った。


「どうしたの?」


私は声を潜め、その人影に近づく。

近付くにつれて、違和感が確信に変わった。


その人は立っているのではなく、明らかに浮いている。

足が地面から数センチ離れている。


私が立ち止まると、その人影は動かないまま首だけをカクン、と不自然に180度回転させ、私の方を向いた。


顔はない。


ただ、そこにあるはずの場所に、太陽の黒点のような、真円の闇がぽっかりと開いているだけだった。


「おはよう」


その闇の中心から、子供のような、甲高い声が聞こえた。


私は悲鳴を上げ、ポチ太を抱えて全速力で逃げ出した。


家に飛び込み、鍵をかけ、窓の隙間から外を覗く。


霧は晴れ、太陽の光が差し始めている。








しかし、いつも通る散歩コースの道に立つ電柱の真下には、〝ポチ太〟と彫られた真新しい首輪だけが、静かに置かれていることに、私は気づいかなかった。

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