作品No.3 絶対零度

「まさか、最後にオーロラが見られるなんてね」


 俺は白い息を吐きながら火山の噴火口のそばにある特殊車両の中で、彼女の言葉を聞いた。確かに地球が全て凍結するという異常事態の中だが、こんな美しい景色が日本で見られるとは思ってもいなかった。地磁気は完全に狂い激しく空中で揺れていた。


 【青い冷却彗星群】全ては1年前に始まった。未知の激しい彗星群が地球を襲ったのだ。青い筋が何百も空を走った。その実態が何かは科学者もわからなかったが、事実として日光を遮り、地表の放射冷却を加速させ地球を急速に冷やしていった。その青い流星群は冷却彗星群と呼ばれた。


 その威力は絶大で、陸地も海も凍り部分的には絶対零度になる場所もあったほどだ。全ての文明の利器は凍結し機能を果たさなくなり、生物は永遠の凍結に巻き込まれていった。


 おそらくそれが影響と思われるが、富士山が半年後に激しい噴火を起こし、富士山頂に避難した日本人数百人だけがその噴火口の熱で生き残った。それ以外は?


 世界はわずか1年で全球凍結に追い込まれたのである。わずか1年で。


 しかし生き残った我々も絶滅から免れることはできないだろう。食料も水も燃料も限られている。先に噴火に巻き込まれるかもしれない。何にせよ死にゆくのは時間の問題だ。


「私はあなたと一緒に死にたい」

「でも自殺はやだよ」

「私もよ」


 俺と彼女は必死に運命に抗おうとする。でも俺は知っている。生き延びようとする限り同時はあり得ない。体力が落ちた方が先に天国に行くのだ。


 オーロラがまるですぐに手の届く天国に見える。死が着実に近づいているのだ。美しい雪が降っている。悲しみの雪だ。もう日本だけで1億人以上が凍って死んだ。


 俺は二人とも生き残る術を必死に考えた。


(無理だ)


 次に自殺をせずに二人同時に死ぬシナリオを考えた。


(それも無理だ)



 次の瞬間だった。


「あれを見て! 凄くキレイ!」


 彼女が叫んだ。青い冷却彗星群とは異なって、遥かに大きく美しい尾を引く流星が見えた。この世のものとは思えない巨大な彗星の尾が見える。数ヶ月前のニュースを想い出した。天文学者が超巨大隕石が近づいているのを発見したと。もしそれが地球に落ちれば6000万年前の生命絶滅イベントを上回る被害が起きると言っていた。


 つまり――絶滅だ。


「本当だ、こちらに.....近づいているな……あと数時間か……」


 会話も無く二人は巨大隕石のショーを見つめた。これから何が起きるか彼女は悟った。俺も悟った。生命はとどめを刺される。


「ほらね。一緒に死ねるでしょう」

「ああ、こんなショーが最後に見れるなんてな」


 俺も彼女もどこかの星で生まれ変われるのだろうか?






    了 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

SF短編集 三杉 令 @misugi2023

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説