作品No.2 夢幻病
アルツハイマー型認知症、ナルコレプシー、アフリカ睡眠病……夢の世界へ人々を誘う病気は昔から色々あった。それらの原因はアミロイドβとタウという、二つの異常たんぱく質の蓄積だったり、遺伝要因、環境要因、自己免疫だったり、ツェツェバエが媒介する寄生性原虫トリパノソーマによって引き起こされる人獣共通感染だったりする。
しかし2026年、アマチュアのWeb小説家の間でこれまでにない全く新しい病気が流行し始めた。
それは『夢幻病』と名付けられた。この病気に罹患すると患者は小説を書かずにはいられなくなり、寝る間も惜しんで想像の世界を書き続けるようになる。やがては現実と創作世界の区別がわからなくなり、24時間の大半を架空世界の想像に費やすようになる。
彼ら、彼女らにとっては想像の世界が現実であり、逆にいわゆるリアルは虚構の世界に入れ替わってしまう。
医者は彼らを診察して困惑した。もはや患者らは創作することなくして生きることは出来ず、依存度が甚だしく高かったのだ。既存の向精神薬は全く効かず、むしろ思う存分想像させてやった方が、体調が良く生活も順調になるのだった。
「私、また新しいストーリー考えちゃった」
「私もです。昨夜一気に書き上げました!」
「もう、私病気です! 書かずにはいられません!」
夢幻病にかかった患者達は嬉々としてそんなコメントを投稿した。
✧ ✧ ✧
病気は収まるどころか日本中、いや世界中に蔓延していった。まるで数年前のコロナウイルスによるパンデミックの様だった。その界隈ではAIによる小説の執筆が話題になっていたが、今では全く関係なかった。自ら物語を想像すること、そのものが症状であり生き甲斐の全てだったからだ。
やがて夢幻病患者から優れた作品が産み出されるようになり、創作が精神安定につながることが証明されると、夢幻病は病気のレッテルを外され、推奨されるべき社会行動の一つとされた。下剋上だった。
10年後、最初にこの症状が多発し優秀な作品を多発させたカクヨムユーザー達に、厚生労働省から特別な通知が出された。「多額の補助金を与えるのでさらに執筆に注力すること、多読すること」であった。
ああ、我々はこの忌まわしくも愛おしいこの病気から逃れることが難しくなってしまった。
『夢幻病』 終わり
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