第5話 豪邸に私がお見舞いに行った
転校生が来てから一週間。
私は毎日ぐいぐいくる彼女に参っていた。
「サクヤ~」
朝から机に突っ伏している私に、マブダチのアンジュが話しかけてくる。
「朝からお寝んね? 珍しいね」
「違げぇよ」
「……もしかして、櫻子ちゃんのこと?」
私はあえて何も言わない。肯定の沈黙だった。
「そっか」私のキモチが伝わったようで、アンジュがうなずく。
「サクヤ、櫻子ちゃんにずっとデレデレしてたからね。デレ疲れかね」
「デレてねぇし!」
というか、デレ疲れってなんだよ……。
「櫻子ちゃんはグイグイだし、サクヤはデレデレだし、もう付き合っちゃえば?」
「は、何言ってんだよ」
思わず、声が大きくなってしまう。
「私、そういうんじゃねぇし……っ。
それ以上言うなら、グランドに埋めるぞ」
「ふーん……。サクヤが恋する日がくるとはねぇ。しかも、同性に」
必死に否定する私を、アンジュはからかうように笑う。
いや、本当にそういうんじゃねぇから。
……マジで。
だが、しかし。
嫌でも思い出してしまう。
彼女の額が、私の額に触れた瞬間を。
まるで温度が伝達するように、胸の奥まで熱が流れてくる。
「ほら、顔が熱くなってんじゃん」
アンジュがからかうように指摘してきたので、「うるせぇ!」と返した。
……なのに、胸の熱だけは誤魔化せなかった。
◇
朝のホームルーム。
しかし、転校生は姿を表さなかった。
その日の放課後。
「ねぇねぇ、サクヤ!」
アンジュがこちらへきた。その手にはプリントが握られている。
「なんだよ」
「これ、櫻子ちゃんに渡してだって」
「なんで私が?」
「だって櫻子ちゃんと仲いいのサクヤぐらいしかいないし」
否定できない自分がいる。
というか、あれは仲がいいって訳じゃないが……。
「けど、私、住所なんか」
「私、聞いといた」
キランッとウィンクするアンジュ。
「ほら行ってきなよ」
「いや、私、早く家に帰りてぇし」
「彼女さんが具合悪いんだよ!」
「彼女じゃねぇから!」
まったく、何を言いだすかと思ったら。
「いいか!」ビシッとアンジュを指さす。
「私は行かないからなッ!」
「えぇ……」
「絶対に行かないからなッ! 絶対だぞ! 絶対……」
◇
「……はぁ、もうやんなってくる」
学校を出てから数分。
私は転校生の家の前にいた。その手にはアンジュから渡されたプリントが握られている。
結局、私は押しに負け、転校生にプリントを届けに行ったのだった。
それにしたって。
「すげぇな……」
私の前には高くそびえるビル。
なんでも、これ丸々ひとつ転校生の家なのだそうだ。
えっ、あいつ、本物の令嬢だったの?
とりあえず、チャイムを押す。
すると、自動ドアが開き、メイドがやってきた。
メイドに趣旨を伝え、プリントを渡す。そして、その場から去ろうとしたら、引き留められた。
「貝原サクヤ様ですね。こちらへどうぞ……」
メイドに導かれ、廊下を歩き、エレベーターに乗り、廊下を歩く。
そして着いたのは、大きな扉の前。
「ここが、お嬢様の部屋になります」
お嬢様って、転校生か……。
「では、私はこれで」
メイドがお辞儀をして、こちらに背中を見せた。
「ちょ、ちょいちょい!」
引き留めたのだが、そのまま去って行った。
さて……。
転校生の部屋の前。私は廊下でひとりぼっち。
会うって言っても、何を話せばいいのか。
というか、つもる話なんて何にもないし……。
「……帰るか」
私も回れ右して、この場から去ろうとした時だった。
キィ……。扉が開いた。
そこに白い寝間着姿の転校生が現れた。
その顔は真っ赤で、額には冷えピタが貼られている。
「あら、貝原さん、ごきげんよう」
私に顔を向けて笑顔を浮かべた。
「転校生……」
「お見舞いに来てくれて、ありがとう……ござ……います」
ふらりと転校生の体が傾いた。
次の瞬間、柔らかい重みが胸に落ちた。
「お、おい、転校生!」
倒れた彼女を、私は体で受け止めたのだった。
熱い。彼女からひしひしと熱気が伝わってくる。
「……大丈夫か?」
「……」
私は転校生を寝床へ寝かせることにした。
そのために、転校生を抱え、彼女の部屋へと入っていく。
彼女の熱は、私の腕の中で静かに息づいていた。
それを感じるたび、私の胸がざわついてしまう。
どうしちまったんだよ、私。
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