第2話 ねこにゃんパンチ!

 ―――――。


「 魔王さま、魔王さま! 」


 …………ん?


 んん〜〜〜?


 んっ!


「……ねこにゃん……?」


 まぶたを開けると目の前には、あたしのvtuberのガワである『ねこにゃん』がいた。

 心配そうに、玉座に座るあたしの顔をのぞき込んでいる。


 なに夢? たしかあたしはお腹を刺されて……。


 触ると傷はどこにもない――って、何? この超でっかいおっぱい!

 ぼいーんぼいーんじゃん。

 あたしってこんな願望あったの? 

 夢にしては出来の悪い。


 魔王になって、配下がガワのねこにゃんで、ぼいーんぼいーん。

 早く起きろ、あたし!

 異世界転生ものは好きだけど、自分の夢にしては恥ずかしすぎる。


 クイーンサキュバスで魔王でエロ衣装でぼいーんぼいーん。おまけに配下はガワのねこにゃん。

 痛たたたたっ。


「オラっ、魔王さま!」


 ぶべらっ!


 ねこにゃんお得意の【ねこにゃんパンチ】を喰らう。


 痛ったいぃ! めっちゃ痛ったいぃ……!


 リスナーのねこねこキッズによく、「ねこにゃんパンチを喰らわせちゃうぞ〜」とか言っていたけど こんなに痛いとは……。

 ごめんね、みんな……。

 ねこにゃんビンタくらいにしておくよ。

 え? 痛い? 


「魔王さま、どうしたにゃ? ぼーっとして」


 え? 痛い? 

 え? 痛い?

 え? 痛い?

 ということは――――


「 ねこにゃ―――ん! ビ――ン タァァっ! 」


 ぎゃああああああッ! パンチより痛ったいぃ! 肉球設定ないんだった。


「目が覚めたかにゃ、魔王さま?」


「うむっ」


 うむ――じゃないよ。魔王の設定ムズいよぉ。

 どうやらあたしは本当に殺されて、魔王として異世界に転生してしまったようだ。


「それで、どうするか決めたのかにゃ。このまえ捕まえた勇者の『虐殺配信』の内容は?」


「 勇者の虐殺配信? 」


 聞いてみると、数日前 この魔王城に勇者が単独で乗り込んできて、激闘の末あたしはそれを撃退。

 その勇者はいま城の地下に幽閉され、極大投影魔法を使い、世界中の空に、勇者の虐殺映像を流すことが決定しているらしい。

 そのことで魔界中が今めちゃめちゃ盛り上がっているとのことだ。


 虐殺映像の配信って――…怖っ!

 BANされちゃうじゃん。それにクイーンサキュバスなのに虐殺ってどうなの? えっちぃ配信しなよ。あっ、これもBANだ。

 どうやらあたしの頭の中は、異世界でもvtuberのことでいっぱいのようだ。

 そんなデジタル色の脳内に―――


《 大魔王への進化条件。 配信で視聴者数1億人以上 》


 女神っぽい声が流れた。

 異世界転生ものでよくあるアレだ。天の声。


 って、配信って? 視聴者数って?

 空に映像を流して無理矢理 見せて1億人って……。


 勇者を凌辱して虐殺する配信なら可能かもしれない。エロとグロは人の本能を刺激する。けど 人を選ぶから難しい気がする。


 大魔王にはあまり興味はないけど、vtuberとして視聴者数1億人は魅力的だ。

 けど、人殺しなんてできない。BANされちゃう! ではなく、現代の日本人にそんなことできるはずがない。


「 虐殺やらなくていい? 」


 ねこにゃんは首を振り、理由を教えてくれた。


 あたしが、クイーンサキュバス『エルレイン』が魔王になったいきさつは『下剋上』。

 魔王に取り入り寝首をかいて殺したのだ。

 弱肉強食。魔界の絶対的ルール。


 弱みを見せたらいけない。舐められたらいけない。魔王としての権威を損なってはいけない。勇者は虐殺しなくてはならない。魔界の絶対的ルール。


 破ればあたしに反旗をかかげる者たちが、魔王城に押し寄せてくるだろう。

 だから『勇者虐殺配信』を止める事はできない。


 この魔王城には、あたしとねこにゃんしかいない。

 信じていないから誰も。同じように寝首をかかれないように。

 じゃあ、ねこにゃんは?

 ねこにゃんはあたしが造った『使い魔』らしい。

 だから寝首をかかれる心配はない?

 殴られた右頬と、ビンタされた左頬を撫でながら疑問に思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る