第三章:牧歌的なる強さ

 君も知っての通り、我ら歩荷バッガーには、温厚で平和主義者が多い。

 それは我らが臆病だからではない。我らが『牧歌的』だからだ。

 そして、この『牧歌的』であることこそ、歩荷という職務が必然的に要求する、最も重要な『資質』であり『強さ』なのだ。

 『牧歌的』とは、牧人が羊を導くように、荒ぶる仲間を、常に正しい道へと導く、静かなる『強さ』の別名である。


 職猟者は、その本質において『狩人ハンター』だ。獲物を前にすれば熱くなる。神経伝達物質が駆け巡り、時に冷静さを失い、無謀な一歩を踏み出そうとする。


「あの獣は、最高額の懸賞首だ!」

「あの素材さえあれば、伝説の武器が打てる!」


 その欲望が、狩猟隊全体を死地へと誘うことがある。

 その時、我ら歩荷だけは冷静でなければならない。


 我らの仕事は、狩ることではない。

 我らの仕事は、仲間を生きて翠点に帰すことである。


 血の匂いに興奮する者に、仲間の命は預けられない。

 手柄を立てようと我先に前に出る者に、狩猟団の最後尾は任せられない。


 戦場で、仲間がどれほど熱くなろうとも、我ら歩荷は『牧歌的』なまでに冷静に、周囲の状況、仲間の疲労度、残りの『抜萃デバッグ』可能な道具の数、そして翠点までの帰路を計算し、時には撤退する勇気を、厳然と仲間に進言し続けなければならない。


 殺すことよりも、生かすことのほうが、どれだけ困難で、どれだけ強い意志が必要か。


 『平和主義』とは、最も多くの仲間を平和に連れ帰るための、最も実践的で、最も勇気ある『戦闘思想』なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る