ゴリラのウホ夫くんとゴリラのウホ美さん

間咲正樹

ゴリラのウホ夫くんとゴリラのウホ美さん

「あっ、おっかえりー、ウホくん」

「ウ、ウホさん!?」


 僕はゴリラのウホ夫。

 そしてこのメスは、隣の巣に住んでいるゴリラのウホ美さん。

 ウホ美さんはこうしていつも僕の留守中に、僕が一人暮らしをしている巣に勝手に上がり込んでくるので、ほとほと困っている。


「……ウホ美さん、いつも言ってるじゃないですか、勝手に僕の巣に入ってくつろぐのはやめてくださいよ」

「えー、いいじゃん。ウホ夫くんの巣、居心地いいんだもーん」

「居心地って……」


 ウホ美さんは僕の寝床の上でゴロゴロと転がっている。

 そしてそのたびにウホ美さんの豊満なおっぷぁいがブルブル揺れるので、童貞チェリーブロッサムな僕には目に毒だ……。


「――あ、今私のおっぷぁい見てたでしょ? ウホ夫くん」

「えっ!? い、いや、そ、そんなことは……」


 くっ!

 バレていたのかッ!


「……えっち」

「っ!」


 ウホ美さんが艶めかしい上目遣いで僕を見つめてくる。

 む、むおおおおおおおおお!!!!!

 だからそういうのはやめてくださいよウホ美さんッ!

 ドキドキしちゃうじゃないですかッ!!


「あ、お腹空いたから、バナナもらうねー」

「……はぁ、どうぞ」


 ウホ美さんは備蓄のバナナを一本取り出すと、その皮をわざとゆっくり見せつけるように剥き出した。

 くうううう!!

 このメスはッ!!

 いつもそうやってッ!!

 僕の心を乱してッッ!!!


「あー、ん」

「……」


 そしてそのバナナを、恍惚とした表情で口に含んだ。

 ――ゴクリ。


「んふふ、おいし」

「…………」


 ああもうッ!!

 そろそろどうにかなりそうだッ!!!

 そんなに童貞チェリーブロッサムをからかって面白いのかッ!?


「……ねえ、ウホ夫くん」

「え?」


 その時、急にウホ美さんが立ち上がり、真剣な表情で僕の目の前に立った。

 なっ!? 何だ!?

 今までこんなウホ美さん、見たことないぞッ!?


「……ウホ夫くんのドラミング、見てみたいな」

「――!」


 ドラミング!?

 ここで!?

 そ、そんな……、僕、メスの前でドラミングなんて、一度もやったことないのに……。


「練習してるんでしょ? いつもこの巣で」

「っ!?」


 何故それを!?


「ふふ、わかるよ、隣の巣に住んでるんだもん」

「ウホ美さん……」


 聞いててくれたってのか……、僕が密かに練習してたドラミングを。


「ね? 見せて? ウホ夫くんのドラミング」

「――!」


 ウホ美さんの眼は、少しだけ潤んでいるように見えた。

 ……ウホ美さん。

 ウホ美さん。

 ウホ美さんッ!!!


「――う、うおおおおおおおおおおおおお」


 僕は一心不乱に自らの胸を手のひらで叩いた。

 自分でも信じられないくらい、雄大な音が巣の中に響き渡った。


「ふふ、素敵よ、ウホ夫くん」


 ――この日僕は、本物のオスになれたのかもしれない。


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ゴリラのウホ夫くんとゴリラのウホ美さん 間咲正樹 @masaki69masaki

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