「スペースオペラの音がする」

DA☆

「スペースオペラの音がする」

「紙の辞書とは、えらくレアなものを持ってるな」

「銀河標準翻訳機がまだなかった時代の遺物さ。こたび地球に迎えるαケンタウリ特使との対話用に博物館から借りた。現地語で会談がしたいと、地球大統領から我々星間外交部に要請があったのだ」

「αケンタウリは、500年前、地球が初めて接触した異星文明だったな」

「当時地球人は銀河標準語の存在を知らなかった。対話が成立せず、不毛な星間戦争に到った。先人たちは苦難の果てに対話メソッドを確立し、銀河系進出の足がかりとしたのだ」

「それで作られた辞書か。歴史的遺産だな。どれ内容は───、んん? ページが全部白紙じゃないか」

「勘違いしているようだが、これは辞書ではない」

「どういうことだ」

ケイ素生命体の彼らは相手の頭部に衝撃を与え、伝わる振動を言語として解釈するのだ。しかし有機生命体の我々は石で殴られると死ぬ。故に理解できず暴力の応酬となった。意思疎通には、地球人が死ぬほど硬くなく、αケンタウリ人には言語となる、適度な衝撃を伝える道具が必要だった。それが、一定の厚みがある紙の束だったのだ」

「……つまり辞書で殴り合う」

「すまんがきみ、通訳を務めてくれないか」

「絶対イヤ」

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「スペースオペラの音がする」 DA☆ @darkn

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