掌編小説 非理想的世界
非理想的世界
ヴァンパイア
人の感情ほど不確かなものはない。曖昧で、不明瞭で。確かめようがない。だから、僕が彼女と出会えたのは嬉しい誤算だった。彼女はヴァンパイアなのだそうだ。人の血を吸い、糧とする。そして血を取り込むことで、感情を読み取ることが出来る。
それから僕は、何か経験する度に彼女に血を吸わせている。血を提供する対価に、僕に代わってその感情を理解してもらうのだ。そして二人で色々なことを共有する。どんなことが僕は好きで、逆に何が嫌いなのか。どんな時に幸せを感じるのか。
彼女を通して感情を知ることで、僕は自分のことを理解していく。そうして、より自分の感情に則した決断を可能にした。だが、そんな僕にもまだ分からないことがある。
僕は、彼女のことをどう思っているのだろうか。好きなのだろうか。それともビジネスパートナーよろしく、単なる利害関係でしかないのだろうか。自分のことに詳しくなった自負はあるが、やはり確信は出来ずにいた。
今日はそのことを彼女に聞こう。そう思っていたある日のこと。彼女がヴァンパイアハンターによって殺されたことを知った。その時のことはよく憶えている。
あれだけ確信出来ないでいた感情が、酷く明瞭だった。心は理屈じゃない。そう言われる理由が、よく分かった気がした。
ヴァンパイアハンターを根絶やしにしよう。そう心に決めた日のことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます