掌編小説 非理想的世界

非理想的世界

ヴァンパイア

人の感情ほど不確かなものはない。曖昧で、不明瞭で。確かめようがない。だから、僕が彼女と出会えたのは嬉しい誤算だった。彼女はヴァンパイアなのだそうだ。人の血を吸い、糧とする。そして血を取り込むことで、感情を読み取ることが出来る。

それから僕は、何か経験する度に彼女に血を吸わせている。血を提供する対価に、僕に代わってその感情を理解してもらうのだ。そして二人で色々なことを共有する。どんなことが僕は好きで、逆に何が嫌いなのか。どんな時に幸せを感じるのか。

彼女を通して感情を知ることで、僕は自分のことを理解していく。そうして、より自分の感情に則した決断を可能にした。だが、そんな僕にもまだ分からないことがある。

僕は、彼女のことをどう思っているのだろうか。好きなのだろうか。それともビジネスパートナーよろしく、単なる利害関係でしかないのだろうか。自分のことに詳しくなった自負はあるが、やはり確信は出来ずにいた。

今日はそのことを彼女に聞こう。そう思っていたある日のこと。彼女がヴァンパイアハンターによって殺されたことを知った。その時のことはよく憶えている。

あれだけ確信出来ないでいた感情が、酷く明瞭だった。心は理屈じゃない。そう言われる理由が、よく分かった気がした。

ヴァンパイアハンターを根絶やしにしよう。そう心に決めた日のことだった。

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