ジャムを塗って食べよう!

頭器

お手伝い

友達の家に呼び出された。なんでも俺にお願い事があるとか。そいつとは高校からの親友で、今でもたまにゲーセンなんかで遊んでいる。


そいつの家に着いた。彼はボロアパートの一室に住んでいる。外観からわかる古臭さはまるでお化け屋敷のようだ。

ドアをノックすると扉の隙間から目が覗いてきた。


「だあれ〜?君はだあれ〜?」

聞き覚えのある声。親友の声だ。

「俺だよ俺。お願いあるんだろ?」

「そうそう。助けてほしんだよ。まあ、とりあえず中入って座ってよ。」


俺はボロ部屋の中へ案内された。部屋はそれほど広くなく、一人暮らしならまあ十分なくらいだがシミのついた畳と軋む床がなんだかホラー映画を連想させる。

畳に置いてある机へ案内されると親友は台所へ向かった。


「これ。食うだろ?」

そう言って親友は1枚の食パンを差し出した。

「なにこれ?どす黒いジャム?みたいのが乗っかってるけど…」

「あーそれね。この前うちの親が持ってきたんだよ。珍しいジャム見つけたって。」

「へー。美味しいの?これ」

「正直まずい。でも人によって味覚って違うじゃん。ちょっとお前も食べてみろよ」


そう言われ、俺はその禍々しい食パンを手に取り、小さくひとくち食べた。

口いっぱい広がる苦味と鼻に来る臭み。おまけになんか硬い何かが入ってる。


「なにこれまっず。」

「やっぱそうだよなー笑。まあ、せっかくだし食べてくれよ。俺もそれ食べたかねぇんだ。二人で無くそうぜ。」

「えー。その代わりスイーツ奢れよ。」

「わかったよ。で、本題のお願いごとの事なんだけど」

親友は話を切り出した。

「ほら、ここってボロアパートじゃん。だからさ奴が出るんだよ。ゴキブリが。尋常じゃない量なんだよ。だからお前にも処理手伝って欲しくて。虫とか得意だろ?」

「虫はまあいけるけど…。俺は何をすればいいの?」

「毎日ここに来て欲しい。それだけでいい。それだけで助かる。」


正直意味のわからない願いだ。俺が来たとてこの部屋からゴキブリが減るわけではない。

でもまあそれだけならということで承諾して俺は毎日この部屋に来ることになった。

ゴキブリの処理手伝いってことでただ部屋に居座りながらついでに、あのまっずいジャムパンを食べる役にもなった。


手伝いを始めて1週間程度経ったことの話だ。

今日も今日とてジャムパンを頬張っている時に親友が話してきた。

「明日からもう来なくていいよ。ゴキブリもうでてこなくなったから。」

俺は結局何をしたのだろうか。そのモヤモヤを親友に聞いてみた。

「俺結局なんにもしなかったけど良かったのか?」

親友は首を傾げながら言った。

「何言ってんのさ。君は処理をしてくれたじゃないか。あの日から毎日。」

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