ステージ13:死の十字路(クロスロード)

【ステージ12の結末より】

玲は、スイッチを起動させると、エコーに背を向け、迷宮の、さらに奥。那智の村へと続く、分岐路の「闇」へと、その身を投じた。

ゴゴゴゴゴゴ……!

玲の背後で、凄まじい轟音と共に、旧時代の爆薬が炸裂し、トンネルの天井が、数トンもの瓦礫となって、エコーの頭上へと降り注いだ。

【バトル14 vs. 四つ巴の膠着(デッドロック)】

轟音と土煙が、トンネル内を逆流してくる。

玲は、爆風に背中を押されるようにして、地下迷宮のさらに深層、巨大な空洞となっている「旧ターミナル・ジャンクション」へと転がり込んだ。

そこは、四本の巨大なトンネルが交差する、地下の十字路だった。

「……はぁっ……はぁっ……!」

(……やった、か……?)

玲は膝をつき、背後の崩落したトンネルを睨む。

物理法則を無視するエコーといえど、あの質量の瓦礫に埋もれれば、少なくとも数分の足止めにはなるはずだ。

カインの地図によれば、この十字路の先、最も細く、険しい「第4通路」こそが、聖域「那智の村」への入り口。

あと少し。あと数メートルで、この地獄から抜け出せる。

玲が、その「希望」へと足を向けた、その瞬間。

「――そこまでだ、調律者」

凍りつくような声。

玲の進行方向、「第4通路」の闇の中から、ゆらりと現れた影があった。

黒い戦闘服。背中に龍の刺繍。

黒龍(ヘイロン)。

「……黒龍……! なぜ、ここに……!」

「カラスの『技術』だけに頼ると思ったか? 俺の『夜行衆』は、この地下水脈の構造(地図)を把握している」

黒龍は、満身創痍の体を引きずりながらも、その瞳に燃える「執念」だけで立っていた。

「ここがお前の逃走ルートの合流点(チョークポイント)だ。……これ以上、妹のための『希望』を連れ回させるわけにはいかん」

「おやおや。考えることは同じ、というわけですか」

今度は、右手の「第2通路」から、芝居がかった声が響いた。

カラスの濡れ羽色を思わせるコート。

**カラス(Crow)**と、その部隊が、ジャマーを構えて展開する。

「私の計算では、君がここに到達する確率は98.5%だったよ。……さあ、無駄な抵抗はやめて、こちらの『指揮』に従ってもらおうか」

前方に黒龍。右手にカラス。

玲は、後退ろうとして、背後の「第1通路(来た道)」を見る。

そこは、先ほどの爆破で完全に塞がれている――はずだった。

ズズズ……。

瓦礫の山が、内側から、ありえない「ノイズ」を発して振動した。

「……玲……。みつけた……」

ゴァッ!

積み上がったコンクリート塊が、物理的な衝撃ではなく、空間ごとその座標を「削除」されたかのように、一瞬で消滅した。

土煙の中から、無傷のホログラムマスクが、青白く輝く。

エコー。

彼女は、瓦礫の山を「すり抜け」て、そこに立っていた。

「……爆弾……。いたい……。玲……。ゆるさない……」

前方、右、そして背後。

逃げ場のない十字路の中心で、玲は三方向からの殺意に包囲された。

玲(調律者)。

黒龍(国家の刃)。

カラス(歪んだ指揮者)。

エコー(影の天敵)。

地獄の連戦(バトル・ラッシュ)を彩った全ての役者が、この暗い地下の十字路で、ついに一堂に会したのだ。

【均衡の崩壊】

張り詰めた静寂。

誰も動けない。誰かが動けば、即座に全員が反応し、無秩序な殺し合いが始まる。

三つの勢力にとって、玲は「確保対象」であり、同時に「排除対象」でもあった。

黒龍は、カラスに玲を渡せない。

カラスは、黒龍に玲を渡せない。

エコーは、その両者とも「ノイズ」として排除し、玲を殺そうとしている。

「……カラス」

黒龍が、視線を外さずに告げる。

「……あの『影』の化物(エコー)を、お前の『ジャマー』で抑えろ。その隙に俺が玲を確保する」

「断るよ」

カラスは即答し、冷笑した。

「君が『影』と潰し合っている間に、私が『楽器(玲)』を頂く。それが最も美しい旋律だ」

「……きたない『おと』……。ぜんぶ、消す……」

エコーの身体から、どす黒いノイズが溢れ出す。

(……このままじゃ、全員に喰われる……!)

玲は、三者の殺意の重心点に立ちながら、冷や汗と共に思考を巡らせた。

戦う力は残っていない。逃げ場もない。

だが、この「三すくみ」こそが、唯一の活路だった。

彼らは、互いが邪魔で、玲に手を出せないのだ。

「――動くなッ!」

均衡を破ったのは、黒龍だった。

彼が玲に向かって踏み込んだ瞬間、カラスの部隊が一斉に発砲し、エコーがその弾丸を「ハッキング」して黒龍へと跳ね返す。

「チッ!」

黒龍が軌道を変え、カラスの兵士を殴り飛ばす。

その混乱に乗じ、エコーが玲の首を狙って滑るように迫る。

「……玲……。無(ゼロ)に……」

「させん!」

カラスが、隠し持っていた指向性ジャマーをエコーに放つ。

「ギッ……!」

エコーが苦悶に動きを止め、その隙に黒龍の蹴りがエコーを吹き飛ばす。

ドォォォォォン!

四者の力が狭い十字路で激突し、爆風と衝撃波が吹き荒れる。

互いに互いを潰し合う、カオスそのものの光景。

(……今しか、ない!)

玲は、その爆心地にいた。

三つの巨大な力が激突し、互いに相殺し合った、ほんの一瞬の「エアポケット」。

誰もが、体勢を崩したその瞬間。

玲は、カインの地図が示していた、唯一、誰もいない左手の「第3通路」――「那智の村」への最後のルートへと、身を低くして飛び込んだ。

「――逃がすか!」

「待て!」

「……コロス……!」

三つの殺意が、同時に玲の背中を追う。

だが、玲は振り返らない。

この一瞬の「隙」を作り出すために、彼女はここまで生き延びてきたのだ。

玲は、地獄の十字路を背に、最後の「闇」へと、その身を投じた。

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