第4話 繋がる

サキ(彼女)の住むマンションに着いた。

このマンションを見るたびにあの日の出来事を思い出してしまう。

いくら別のことを考えていてもそれにいつも遮断されてしまう。

弱いな〜。と思いつつ

オートロックを開け部屋へと向かう。


以前なら大好きな彼女に会えるのだから

この通路もお花畑に見えていたのだが

今日は沼の中を歩いているようだ。


あえて合鍵は使わずチャイムを鳴らす。


サキがいつもと違う笑顔で出迎えてくれた。


それからいきなりあのことについて話すことができるわけもなく、ただただいつも通りに過ごした。


過ごした内容はいつも通りだがどこか違う雰囲気をお互いに纏っていた。


「あの日はごめんね

帰ってないのに帰ったって嘘ついて

ただ心配させたくなかっただけなの」


口火を切ったのはサキだった。


「昼前に帰ってきた理由は

嘘だと思ってると思うんだけどほんとなの」


僕の目をじっと凝視しながらこう続けた。


「ほんとにあの日は電車に友達も一緒に乗っててそれで2人とも最寄駅に着く前に寝て往復してあの時間になっちゃったの」


僕は笑いそうになってしまった。

前と言ってた話と少し変わっていたから。

ただ変わっていたといってもその時話してなかっただけなのかなと無理矢理思うことにした。


「もうわかった

心配しすぎる俺も良くないよね。

だから言いづらくて嘘つかせちゃったのもあるよね、ごめん」


これについて長々話しても、

きっと拉致は開かない。

その言い訳も何もかも嘘なんだろうと思ったが、

それ以上にサキのことが好きな気持ちが勝り、

とりあえずその場をおさめてしまうことにした。


きっとこの先もこの出来事は忘れられないかもしれないし、この人を信じることはこの先も

一生できないかもしれない。

なんてことを考えたがそれもこれから一緒に過ごしていかないことにはわからない。


この人のことを好きであることは

間違い無いから一緒にいようと思った。


その時は。


話し合いが終わりいつも通り

一緒の布団に入り仲直りをした。


次の朝、シューズクローゼットに

しまってくれていた靴を出そうと開けると、

明らかに男物のスニーカーが一足。


なんと刺激的な朝なのだ。


昨日の今日で逆に面白い。

嘘つくなら、隠すなら、最後まできっちり

抜かりなくやって欲しいものだ。


しかし、彼女は嘘を付いているという前提に

昨日から完全に切り替わった僕は

ショックは全く受けなかった。


"人生は気の持ちようでどうにでもなる"

"病は気から"と

言っていたおばあちゃんの言葉が沁みる。


大人になってわかる人生の先輩からの言葉。

こーゆーことかと納得の朝。


不思議と吹っ切れた僕は急いで仕事へ向かう。


仕事へ向かう道中

"人が嘘をつく時の動作"

検索すると一つ目に止まった。

"女性の場合目を凝視する"


昨日凝視されてたなと。

嘘をついている前提としていたものの

なんだかなーという感じである。


僕は基本的に浮気反対派、

浮気するなら別れる、浮気されたら別れる

という考えの持ち主だ。


それに浮気をして問い詰められたら

全部顔に出るだろう。

そんな器用なことはできないのだ。


そんな浮気反対派の僕だが

相手がなんかしただろうなと思ったら

逆に相手を今度気にしすぎて疑いすぎて

しまうところがあるため、

そのバランスを自分の中で取るために

おそらくしたことと同じことをして

相手に対して何も言えない自分を作り出す。

そんな考えを、持っている。

そうしなければ自分が自分でなくなってしまいそうでとても怖くなってしまう。

そんな弱い人間なのである。


そこで遊んだ女性を好きになったことは

今までなかった。

そんな僕に対して本気になってくれる人も

もちろんいなかったのである。


そんなことをしてまで付き合い続ける意味は、正直ないのかもしれない。

それでも、好きなんだ。

好きな気持ちがあるうちは、どうしても離れられない。


1人ぐるぐる思考を巡らせていると

職場に到着した。


一旦、この彼女とのことは置いておき

仕事モードへ切り替える。


この重たい朝を抜けたら、またあの八百屋の子に会うのだろうか。


今日会ってしまったらいつもより

大胆になってしまいそうで怖い。


今日も1日が始まった。


花屋さんの前を通ると

あの紫の花が、

下を向いたまま、

今の僕を映しているようだった。

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