デスゲーム ~赤羽中学2年B組、学校を舞台に殺し合う~

十文字ナナメ

プロローグ 死神の鎌

 額を撃ち抜かれた松尾裕香まつおゆうかの身体が、ゆっくりと傾いていく。そのままどさりと、ただの物体のように床へ転げ落ちた。


 しんと静まり返った教室は、濃密な緊張感に支配されている。今しがた起こった出来事が信じられず、クラスメイトたちはみな一様に目を見開き茫然とするばかりだった。


「今一度申し上げますが」


 抑揚のない男の声。教卓には、手に銃を持ったスーツ姿の男が立っていた。ことりとその銃を卓上に置いて、教室中の視線が集まるのを冷静に待っている。


 一度眼鏡のブリッジに中指をやって、かけ具合を微調整してから男は言った。


「皆さんには殺し合いをしてもらいます」


 それを聞いた瞬間、渡辺わたなべ悠希はるきは自分の臓器を直接手で掴まれたような気持ちがした。椅子に座ったままの体勢で、ぐっと奥歯を噛みしめ精神の揺らぎを押し留めようとする。


 すぐ隣の席では、美樹みきかなでが同様にショックを受けているのを感じた。苦しそうに胸を押さえ、松尾の死や男の言葉に必死で抵抗している風である。


 自分たちは巻き込まれてしまった、と悠希は理解した。この理不尽な死のゲームに。何の前触れもなく、突然にして。


 男の言った言葉が、今は確かな現実味を帯びて迫ってくる。これはテレビや映画の中の話ではない。紛れもなく実際の出来事として、自分たちの身に振りかかっているのだ。


 飛び散った脳漿。じわりと広がっていく硝煙の臭い――。何もかもが混沌としていて、油断すれば魂を引き抜かれてしまうそうになる。


 まるで死神の鎌が、すぐ目の前まで迫ってきているかのような圧迫感を、悠希は覚えた。


 どうしてこんなことになってしまったのか……。つい30分ほど前までは、牧歌的とも言えるような朝の学校風景だったはずだ。


 悠希は現状の悲惨さ、凄惨さから逃れたい一心で、HR前の時間へと精神を逃避させた。まだ眼鏡の男――一色いっしきが教卓に姿を現す前の、普段通りの朝の教室だ。


 そこではクラス委員長の松尾裕香もまだ生きていて。悠希は仲のいい同級生たちとともに、他愛のない談笑をしているのだった――。






【残り 34人】



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