峠を駆けた青春 ーバリオレーシングの軌跡ー 完成版
@ishikawa-R
第1話
登場人物紹介
● 【バリオレーシング】
● マサル
物語の主人公。爽やかな顔立ちだが恋には鈍感。喧嘩は強くないが、走りにかける情熱は誰にも負けない。
愛車:スズキ・カルタスGTi(ブラック×シルバー)/スペック:110馬力/710kg
走り:軽量ボディを武器に、根性で峠を攻める。
● ヒロシ
マサルの相棒でムードメーカー。巨乳好き。喧嘩はチーム随一。
愛車:トヨタ・92レビン(4A-Gエンジン)/走り:高回転型エンジンを唸らせる熱血ドライビング。
● コウ
マサルとヒロシの“エロ師匠”。彼女・薫を愛するモテ男。
愛車:セリカGT(4A-G搭載)/走り:重めのボディを操り、FFの限界を超えるタックイン走法。
● ナガト
喋らなければ二枚目、口を開けばおバカ。ギャグ担当。
愛車:サバンナRX-7(12Aロータリー/FR)/走り:ムラがあるが、決まった時のドリフトは華麗。
● コンちゃん
冷静沈着な影のリーダー。チームを支える安定感抜群の存在。
愛車:ファミリアGT-X(4WDターボ/140馬力)/走り:正確なライン取りで勝負する堅実派。
● トシ
マサルの幼なじみ。争い事が嫌いな平和主義者。
愛車:カローラⅡ GPターボ(115馬力)/走り:慎重派だが、直線では強気になる。
● 【スカイレーシング】
● タカヒロ
スカイレーシングのリーダー。運転、ルックス、彼女まで完璧。マサルの憧れの存在。
愛車:シルビアKs(FR)
● リョウ
副リーダー。冷静で的確な走り。
愛車:CR-X SiR(VTEC)
● キョウジ
幹部。
愛車:スターレットSi(KP61/FR)
● ケンタ
愛車:ランエボ
● シゲキ
愛車:86レビン
● トオル
愛車:180SX
● 【女性たち】
● 陽子
マサルとヒロシがナンパした看護専門学生。
● トモエ
陽子の友人。丸顔で可愛い。
● 百合
マサルが本気で恋した年上の女性。病院勤務。マサルの青春に痛みと成長を刻む存在。
プロローグ
あれは、携帯もスマホもなかった時代。
夜の峠を駆け抜ける音が、青春そのものだった。
マサルたちは、ただ車が好きで、ただ仲間が好きで、そして、何よりも“走ること”に夢を見ていた。
笑って、喧嘩して、恋をして、その全てが、まるで永遠に続くように思えた。
――バリオレーシング。
ナンパに全力を注ぎ、峠に命を懸け、時に涙し、時に衝突しながら、彼らは確かに生きた。
それは、一瞬の輝き。けれど、誰よりも濃く、まぶしく燃え上がった青春の記録。
これは、走りに生きた若者たちの軌跡であり――
“あの頃”を生きたすべての仲間への賛歌である。
第1章 走り出した夜 ― バリオレーシング結成 ―
夜の峠道。
闇を切り裂くように、六台のヘッドライトが細い舗道を照らしていく。
エンジン音が夜気を震わせ、アスファルトを焦がすように響いた。
それぞれの車が、まるで命を持った獣のように咆哮し、タイヤが砂利を弾く。
マサル、ヒロシ、トシ、コンちゃん、コウ、ナガト。
六人の若者たちは、同じ空気を吸い、同じ夢を抱いて、峠を駆け抜けていた。
流れるライトの帯は、まるで若さの残像のように夜を横切る。
夜な夜な集まる若者たちの中で、“速さ”こそがすべてだった。
やがて、峠の頂上にある空き地へと車たちは一台ずつ集まってきた。
誰もが息を弾ませ、ボンネットの熱気が冷めないうちに、笑い声が夜空に弾けた。
「やっぱり、みんなで走ると楽しいな」
トシがカローラⅡのドアを開けて、満面の笑みで言った。
ヘッドライトの残光が、汗に光る頬を照らす。
その言葉に火がついたように、彼は再びシートへと飛び込む。
「もう一周してくる!」
そう叫ぶと、カローラⅡのテールランプが赤い流星のように闇へと吸い込まれていった。
「……あいつ、テンション高すぎだろ」
肩をすくめるコンちゃん。
その横で、コウが真剣な顔で語り出した。
「俺、会社の先輩に“タックイン”って技を教わったんだ。コーナーの入り方ひとつで、全然違うんだぜ」
その口ぶりに、他のメンバーは「ほう」とうなずく。
コウは物覚えが早く、技術にも貪欲だった。すでに先輩仕込みの走りを自分のものにしつつあった。
ナガトが口を挟む。
「なあ、俺の走りはどうだった?」
「普通」
コンちゃんの即答に、ナガトは撃沈したように肩を落とす。
「普通ってなんだよ……せめて“まあまあ”とかあるだろ」
「ない」
淡々と返され、皆が笑い出す。夜の空気が少し柔らかくなった。
だが、その時――
マサルがふと、不安げに言った。
「トシ、遅くねえか……?」
その瞬間、笑いが消えた。
峠の闇が、急に深く感じられる。
嫌な予感がマサルの胸をかすめた。
「まさか……事故か?」
さっき、すれ違いざまにクラクションを鳴らしたことを思い出す。
ヒロシが顔をしかめた。
5人はすぐに車に乗り込み、ライトを灯して峠を下り始めた。
夜風が冷たく、エンジンの鼓動だけが心臓と重なる。
---
## 邂逅
路肩に停められた一台のカローラⅡが、ヘッドライトに浮かび上がった。
その周りには、三人組の不良たち。
リーダー格の男が拳を振り下ろし、トシは膝をついていた。
「おい!」
マサルたちは一斉に車を停め、駆け寄る。
「こいつら、いきなり因縁つけてきやがった……」
トシの頬は腫れ、唇から血がにじんでいた。
ヒロシの怒気が爆発する。
「てめぇら、三対一かよ。ダセえ野郎どもだな!」
愚連隊のリーダーは一歩前に出て、唇をゆがめた。
「なら、タイマンだ。俺と勝負しろ」
「上等だ! 俺がやってやる」
ヒロシが前に出ようとするが、マサルが腕で制した。
「いや……俺がやる」
その声には、いつもより低い決意の響きがあった。
幼なじみのトシが殴られた。
その光景が頭に焼き付いて離れなかった。
ナガトもマサルの真似をして、カッコつけるように前へ出たが、
コンちゃんが冷静にその肩をつかんで止めた。
「お前はいいから」
「え、ちょ、俺も……!」
「いいから」
二人の小競り合いに、ヒロシが苦笑いを漏らす。
緊張の中にも、わずかな人間味があった。
コウは青ざめていた。
マサルが喧嘩慣れしていないことを知っていたからだ。
---
## マサルの戦い
リーダー格の男が殴りかかる。
マサルは反射的に腕を上げるが、衝撃で体がよろけ、地面に叩きつけられた。
「マサル!」
仲間たちの叫び。
だが、マサルはすぐに立ち上がった。
膝が震えていたが、目の奥には炎が宿っていた。
相手の拳を見据える。
空気のわずかな動きを感じ取る。
その瞬間、本能だけで体が動いた。
二度目のパンチを紙一重でかわす。
すかさずジャブ。軽いはずの拳が、次々とリーダーの顔面に突き刺さる。
五発、十発、二十発……。
速さで押し切る。
殴るたび、マサルの心の奥にある怒りと正義がぶつかり合っていた。
「なんだ、このスピードは……!」
リーダーは顔を覆い、たじろいだ。
やがて、息を荒げながら白旗を上げる。
「……俺たちが悪かった」
「違うだろ。謝る相手はこっちだ」
マサルが顎でトシを示す。
愚連隊の三人は渋々トシに頭を下げた。
「もう二度と、こんなダセえ真似すんなよ」
トシが静かに言った。
その一言で、張りつめていた空気が少し緩んだ。
---
## 仲間たちの夜
「いやあ、今日は大変だったけど……なんか楽しかったな」
トシが苦笑いを浮かべた。
緊張から解放された彼らの間に、妙な一体感が生まれていた。
その時だった。
爆音が峠を揺るがした。
ヘッドライトの束が彼らの横を一気に通り抜けていく。
車体に貼られたステッカーが、光の中で一瞬きらめいた。
《SKY RACING》 ― スカイレーシング。
「すげぇ……あのシルビア、めちゃくちゃ速えな」
マサルの声には、憧れがにじんでいた。
その走りは、まるで別世界のようだった。
しばらく沈黙が続いた後、マサルが口を開く。
「なあ……俺たちもチーム作ろうぜ」
「実は俺もそう思ってたんだよ!」
ナガトが胸を張るが、誰も信じなかった。
「じゃあ名前は?」
コウが問いかけると、ナガトが元気よく叫ぶ。
「ナガトレーシングクラブ!」
「却下」
全員が即答。ナガトは肩を落とす。
少し間をおいて、ヒロシが口を開いた。
「……“バリオレーシング”ってどうだ? 俺の好きなバンドの名前なんだけど」
「いいな!」
「響きがカッコいい!」
次々に賛同の声が上がる。
ナガトだけが「マジかよ……」とつぶやいたが、もう決定だった。
「リーダーは?」
「マサルでいいだろ」
「いや、俺より冷静なコンちゃんの方が……」
「いやいや、今日のマサルは頼もしかったぜ」
「そうだ、マサルだ!」
ナガトが「じゃあ俺は副リーダーな!」と叫んだが、またもやスルーされた。
笑い声が夜の峠にこだました。
誰もが疲れていたのに、胸の中だけは熱く、未来に向かって走り出していた。
こうして――リーダー・マサルを中心に、伝説の「バリオレーシング」が誕生した。
その夜の風の匂いを、マサルは一生忘れなかった。
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