ありがとうt.k

白川津 中々

◾️

 マジかよ。


 旅客船の難破から奇跡的に脱出し謎の島に上陸したところ原住民に囲まれてこれは食われるかもしれないと戦々恐々ビクビクしていたら飯と酒が出され音楽隊のズンドコ騒ぎ。スゲーもてなされてしまっているが、なんだこの状況は。


「お客人。ゆっくりしていってください」


「あ、日本語お話しになられるんですね」


「ここはかつてテイコクに支配されておりまして、その名残でニッポンゴを公用語にしております」


 なるほど。パラオなどは公用語が一部日本語由来と聞くから、そんな事もあるか。


「それで、なぜ私をもてなしてくれるのですか?」


「困っている人がいれば助ける。これ人間の基本です」


「あ、そうですが。ありがたい」


 地獄に仏とはこの事。マジで助かるフェスティバルであるが施されてばかりでは負い目を感じる。何か報いたい……そうだ!


「すみません、あのズンドコされている弦楽器はなんというんですか?」


「あれはゲイシャといいます。テイコクの人間が作り方を教えてくれたものです」


「ははぁ」


 三味線か。三味線職人の倅が徴兵されたのだろうか。悲しいな戦争とは。本来、人を喜ばせるための手が血に染まる。しかしそのおかげで俺が彼らを喜ばせる事ができる。皮肉な話ではないか。


「あれ、ちょっとお借りしていいですか?」


「あぁはい……これ! ゲイシャをこちらの方に!」


「あ、すみません」


 意外としっかりした作りだな……よし、これなら大丈夫そうだ。


「ちょいと演奏してもよろしいですか?」


「あ、ゲイシャ方なんですか?」


「……まぁ、そんなところです」


 俺は売れないミュージシャン。本職はギターだが、雅楽も齧っている。食っていくためには勉強が必要なのだ(こんなところで役に立つとは思いもよらなかったが)。


「おいおい、お客人がゲイシャを弾かれるぞ」


「やれんのか? やれんのかって」


「下手な演奏したらはっ倒すぞボケカスゥ」


 口悪いなこいつら。占領下でどんな言葉教えてたんだ先人は……まぁいい。それでは聴いてください。イージードゥー◯ンス(ゲイシャアレンジ)。


「おぉ……なんだこの、突き刺さるようなメロディは……」


「革新的でありながらどこか懐かしさもある……これは、控えめにいって天才」


「ブラボー!」


 浴びる賞賛! 気持ちいいぜ! これこれ! この感覚を味わいたくて音楽始めたんだよな! ありがとうテツ◯コムロ! 他人の褌クソ強です! そんなわけではい終了! 拍手喝采!


「お客人……この音楽は、いったい……」


「コムロ進行です」


「コムロ…………? あぁ! わっしょい! 皆の者! ホトケだ! この島に、音楽のホトケが現れたぞ! わっしょい! わっしょい!」


「わっしょい! わっしょい! わっしょい!」


 響くわっしょい三唱。なんか勘違いされてるなこれ。ま、いっか! わっしょい! わっしょい!



 それから俺はこの島で音楽のホトケ、コムロムニブツと崇められ、アイドルグループなどをプロデュースした。恐らく日本に帰ろうと思えば帰れただろうがそんな気はさらさら起きなかった。売れないミュージシャンとして惨めな生活をするより、この島にいた方が気持ちがよかったのだ。鶏口牛後。俺は、この島でずっと生きていく。ホトケとして、コムロとして。

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