第6話 明かされる正体

 そんな俺をじっと見て微笑んだ。


「入れるわけないよ〜。僕にメリットないでしょ? もっと疑った方がいいよってこと」


「いや、それにしてもおかしいだろ! 言い方ってもんが……クソ、信頼し始めた俺の心を弄びやがって……」


 その言葉にリオルはぴくりと眉を動かした。

 背筋を氷で撫でられたような殺気が走り、息が詰まる。


「信頼だと? そんな感情を持つな。これから僕の側にいるなら、余計なものは捨てろ」


 その異常な拒否反応にたじろぐ。俺は即座に勘づいた――地雷を踏んでしまったんだと。何があったかなんて……聞ける感じではない。首元に刃を向けられてるみたいだ。


 息を整え、毅然とした態度へと切り替えた。


「そうだな。余計な感情なんて必要ない。俺はただ、従うだけだ」


 リオルは殺気をスッと引っ込め、静かに頷いた。

 俺は誓った。ご主人様を怒らせるのは避けようと――。


「へっくし!」


 ……我ながら間の悪いくしゃみだ。


「寒いの?」


「い、いや、そういうわけじゃなくて……ちょっと暑かっただけだ!」


 体が身震いしてもそう強がった俺に、ため息をついて近づき、そっと上着を差し出した。


「な、なんのつもりだ」


「こっちに来て」


 俺は混乱した表情でリオルから上着を受け取った。躊躇しながらもリオルの意図を察して、服に腕を通す。


 だが当然、俺より小さなその服は袖すら通らない。


「ご主人様、これ俺には小さすぎて着られねぇぞ」


「当たり前でしょ。羽織ればいいの」


 なんだ、羽織るためか。最初からそう言えよ。と、心の中だけでツッコんでおく。


 一つの部屋の前で立ち止まり、扉を開けて中に足を踏み入れた。暖かな空気がふわりと漂う。広い空間にはベッドや家具が置かれていて、シンプルながらも落ち着く雰囲気だ。


「ま、まさか、ここ……俺の部屋なんてことは……」


 リオルが微笑んだ瞬間、俺の尻尾はちぎれそうになるくらい激しく揺れた。興奮のままに辺りを見渡し、柔らかなベッドの上にぽふりと倒れ込んだ。


「うわぁ……俺、今、夢でも見てるのか? 天国か? ここは」


 すげぇ、ベッドだ……ふかふかだぁ……。

 枕に顔をうずめて、思わず頬を擦り付けた。


 その様子を、リオルはどこか満足そうに眺めていた。


「そんなに喜んでくれるなんて、準備させておいてよかったよ。あと暖炉を用意したからね。犬は暖かいところが好きなんでしょ? でも、近づきすぎると火傷しちゃうよ」


「犬扱いかよ……ふん、俺は猫だ」


 飛び起きてリオルを睨みつけたが、気づけば足は暖炉へと向かっていた。


「レオ……猫だったの? 確かに、尻尾がやたら長いとは思ってたけど……」


 猫獣人は細いメスばかりだ。だから俺みたいに大きくてガタイの良いオスは、犬だと間違う奴が多い……けどよ、さすがに湯浴みのときに気づくだろ。とモヤモヤしたが、リオルの驚いた顔を見られて少しだけ気分が良くなった。


「そうだ、しかも結構珍しいオスの猫だ。どうだ、ご主人様? ありがたく思えよ。こんな貴重な獣人を手に入れたんだからな!」


 鼻を鳴らし、ふてぶてしく笑った。


「……犬だろうが猫だろうが、僕にとっては同じだけどね」


 その一言に毛が逆立ち、牙が剥き出しになる。


「はぁ!? 俺があの犬やろうと同じだってのか!?」


「……主人に反抗するの? 少し躾が必要みたいだね」


 その言葉を聞き思わずビクッと体を震わせた。さっき感じた、背中を氷で撫でられるような殺気がふっと蘇る。


「お、お前も……俺を殴ったりするのか?」


 思わず出た声は、自分でも情けないほど弱々しかった。

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