第15話

最初は慣れなくて、ガチガチになっていたけれど

走るスピードも、止まる時や走り出しも

気遣うようにゆったりとしてくれているおかげか

数分乗ったら慣れてきた。


でも、慣れてくると気にならなかった部分に気付いてしまう。


優くんに対し、ふわっとした雰囲気から

なんとなく線が細い印象だった。

だけど実際こうやって近くで見て、掴まると

引き締まった、女子にはない男の子特有の硬さと

背中の広さを感じてしまう。


異性にこんなに近付くのは初めてなので

変にドキドキしてきて

掴まる手に変な汗をかいてくる。


乾かしたくて手を緩めると

片手でそれを止められる。


首を振って、ポンポンとされ

ジェスチャーで「そのままだ」と伝えられた。


掴み直し、ドキドキを鎮めたくて

流れる景色と曲がる時の体制の維持に集中した。


しばらくすると、一件の昔ながらの定食屋さんのような雰囲気のお店に着いた。


お店前に降ろして貰い

優くんはバイクを空きスペースに停めに行った。


お店のショーケースを見ると

美味しそうな食品サンプルが

所狭しと並んでおり、空腹が刺激されてきた。


「お待たせ、入ろう?」


頷くと、入口に促された。


入ると広い空間に8人がけのテーブル席が3箇所と

奥にお座敷があり、6人テーブルが3席ほどある。


店内の天井付近には数ヶ所テレビがかかっており

夕方のニュース番組がそろそろ終わる時間だった。

壁には夕方からの飲み放題のドリンクメニュー、おすすめ商品等の

手書きのポップが貼られていて

昭和の食堂な様な雰囲気がある。


そして壁側にある、スーパーの惣菜コーナーの様な場所には

沢山の種類のおかずが並んでいた。



「ここから好きなおかず選んでトレーに乗せてね。

ご飯系と汁物はあっちのカウンターで注文するよ。」


「これは迷っちゃうね!」


少し興奮して言う私に

優くんが笑みを溢す。


優くんが慣れた様子でおかずを手に取っていく様子を見て

私も早速選ぶ。


鯖の味噌煮、だし巻き玉子、ほうれん草の白和えの小鉢、ミニサラダを選び

白米と豚汁を注文した。


下処理の多い魚料理や

具材が多くなるに比例し

作る量が多くなる豚汁は

1人ごはんだと中々作らなくなった。


欲張り過ぎたかなと思って

先に席へ向かって居た彼を探すと

驚いた。


優くんの目の前にはトレーが2枚あり

そこには埋め尽くすおかず達。

更にカツ丼と豚汁まであった。


「それ全部食べるの??」

「うん」


頷き、いつもの笑顔をこちらに向けた。

その身体のどこに

これらが吸収されるというの??


「こっち、座らないの?」


呆然と立ち尽くす私に首を傾げて居たので

思い出した様に向かいへ座った。


いただきます、と2人で手を合わせて

食べ始めた。


豚汁を一口。


「おいしい…!」


豚の脂の甘みと合わせ味噌の塩気

出汁の香りが絶妙で

具材も崩れないけど、よく火が通って柔らかい。

ごま油で一度炒めているのかな?

少し香ばしい香りが残っている気がする。


他のおかず達も言わずもがな

美味しい!

家庭的な味付けにホッとする。


そんな私を見てた優くんがクスクス笑ってた

「気に入った?」


「うん!どれも美味しい!」


よかったね、と優くんも食事を進めた。


箸の持ち方綺麗だけど、一口が大きい。

口いっぱいでもぐもぐしてるのを見ると

普通に男の子なんだなと

謎の実感をして、不思議な気持ちになった。


「そんなに見られたら恥ずかしいよ。」


少し照れた表情を見せた。


「優くんの事まだあんまり知らないから

私の中で白くてぼんやりしたイメージがあったの。


こう、幽霊とか、天使とか、掴みどころ無くて

スッと消えちゃいそうな…人感が薄いというか。」


「俺、人間だと思われて無かったの?」


揶揄う様に優くんは笑うけど

私すごく失礼な事言っちゃったわ。


「ごめん、失礼だった。」


「いいよ。第一印象聞けるの貴重だしね。

これからもっと知ってってよ。

俺、イチカちゃんのこともっと知りたい。」

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